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» 2018年09月18日 10時00分 公開

ハードのアジャイル設計をかなえる:「ラズパイ」に訪れた転換期、ホビー・教育から業務用途の拡大が進む

手のひらサイズの低コストなシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ、ラズパイ)」は、もともと教育やホビー用途として開発された。そのラズパイが今、転換期を迎えている。業務用途での採用が、当初の教育用途を上回っているのだ。ラズパイを業務用途で採用することの利点とは何だろうか。

[PR/EE Times Japan]
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ホビー・教育から業務用途へ

 「ラズパイ」の名で親しまれている、手のひらサイズの低コストなシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」。2012年2月に発売されて以降、順調に出荷台数を伸ばし、2017年12月には累計出荷台数1000万台を突破した。

 当初はホビー・教育用途として開発されたラズパイだが、出荷台数が伸びていく中で、開発元の英国Raspberry Pi財団が予想もしていなかった変化が訪れている。ラズパイが業務用途で使われることが多くなってきたのだ。

 ラズパイが業務用途で大いに活用されていることを示す例の一つが、文字を読むことが困難な人のために開発されたスマートグラス「OTON GLASS(オトングラス)」である。OTON GLASSをかけて読みたい文字の方を向き、ボタンを押すと、書かれている文字が音声で読み上げられる。眼鏡部分に搭載したカメラで撮影した画像をクラウドにアップロードし、クラウド上の画像認識エンジンで写真に含まれている文字を抽出。音声合成エンジンで文字を音声データに変換し、そのデータをダウンロードし、OTON GLASSから再生するという仕組みだ。

 OTON GLASS開発のきっかけとなったのは、オトングラスの代表取締役である島影圭佑氏の父が、脳梗塞の後遺症から失読症を患ったことだった。何とか父の力になりたいと考えた島影氏は、2012年、自身の大学の卒業研究としてOTON GLASSの開発に着手する。その時に使用したのがラズパイだった。

 島影氏が開発を始めた2012年は、ちょうどラズパイが発売され、日本でも出回り始めた時期である。実際に島影氏の周辺でもラズパイを使う人たちが増えていたので、ラズパイを使ってみようと考えたという。エンジニアを募った際も、「ラズパイなら使えるという人が多かった」と島影氏は話す。そして開発が始まり、わずか3カ月という短期間でプロトタイプの開発までこぎつけたのである。

 以降、OTON GLASSはラズパイを使ってバージョンアップを重ね、現在の第3世代では「Raspberry Pi 3 Model B」を使用している。

「OTON GLASS」の外観。左から第1世代、第2世代、第3世代(現行バージョン)。いずれもラズパイを使用している(クリックで拡大)

プレゼン資料ではなくプロトタイプを

オトングラスの代表取締役を務める島影圭佑氏

 島影氏は、ラズパイを使い続ける理由について、「ラズパイを中心とした確固たるエコシステムが形成されているから」だと述べる。「カメラやバッテリーなど、ラズパイを使って機器を開発する際に必要な部品や、世界中のラズパイユーザーたちによる設計情報のログなどが、エコシステムとして確立されている。蓄積された“知”が共有されるというオープンソースの恩恵によって、スピーディな開発が可能になる」(島影氏)

 ラズパイがネットワークと連携しやすいという点も決め手になった。OTON GLASSは、画像からの文字抽出や、音声データへの変換などの処理をクラウドで行っている。そのため、インターネットにつながることを想定しているラズパイは、OTON GLASSを開発する上で相性が非常によかったのだ。ラズパイ以外のマイコンボードは、スタンドアロンで動作することを想定して設計されていることが多い。そのため、クラウドと連携して処理を行う、といったアプリケーションだと設計が複雑になる場合がある。その点、ラズパイは最初からインターネットにつないで設計もできるし、クラウドサービスとの連携もしやすい。

 オトングラスにはハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアが1人ずつ在籍しているが、Web開発者のソフトウェアエンジニアでさえ、ラズパイを使ったことがあるという。島影氏は、「ラズパイが共通言語となり、ハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアを結び付け、モノづくりへとつながっている」と語った。

 さらに、ラズパイを使って短期間でプロトタイプが作れたことで、“モノ”として見せられる点も強みだと島影氏は強調する。プレゼンテーション資料だけよりも、プロトタイプレベルでもいいから実際にモノがあった方が、説得力は格段に上がる。「プロトタイプがあれば、価値を伝えやすい。実際、『プロトタイプでいいからすぐに欲しい。使ってみたい』と言われたこともあった」(島影氏)

 プロトタイプを持ち込んだことが功を奏し、OTON GLASSは、兵庫県豊岡市から福祉機器として認定された。豊岡市ではOTON GLASSを購入する場合、保険が適用されて、当事者は1割以下の負担で購入できるのである。

 現在、OTON GLASSは完全受注生産で、東京都港区のオフィス内で1台1台、組み立てている。「OTON GLASSは現在、プロトタイプとプロダクトが重なっているような状態だ。豊岡市での事例を皮切りに、必要な人に実生活で使ってもらい、そこからフィードバックを得てブラッシュアップをしていきたい」(島影氏)

現在、OTON GLASSの生産は、オフィス内で1台1台、エンジニアが組み立てている

業務用途を見込んだ機能強化

 ラズパイが最初に業務用途で使われ始めたのは、2013年の半ばである。その後も業務用途での採用は拡大し続け、2018年6月の時点で、月産される50万〜60万台のうち35万〜40万台、約60%が業務用途向けとなっているという。つまり、今やラズパイは教育用途よりも業務用途が上回っているのだ。

 ラズパイの正規総代理店を務めるアールエスコンポーネンツ(RSコンポーネンツ)は、「業務用途でラズパイが採用される事例が特にここ数年で増えている」と述べる。OTON GLASSもその一例だが、その他にも岐阜県中津川市のNPO法人かしもむらが過疎地域の各家庭に配布した情報端末にも、ラズパイが使われている。この端末は、NPO法人かしもむらと地元の機器メーカーが協力して開発したもので、市役所からの情報などを簡単に確認できるようにと各世帯に配布された。ラズパイが、研究開発用途だけでなく、業務レベルでの使用にも十分可能だという認識が広がりつつあるのだ。

 ラズパイの最新版である「Raspberry Pi 3B+」では、こうした業務用途を後押しする機能強化を図っている。

 その一つがネットワークブート機能だ。イーサネットで接続しているサーバ上からOSのデータをブートするというもの。これまでのラズパイでは、SDカードにOSのデータが入っていて、ラズパイを起動するたびに、そのSDカードからデータを吸い上げ初期設定などを読み込んでいた。ただ、この仕組みだと信頼性がSDカードに大きく依存してしまうというデメリットがある。ネットワークブートであれば、ユーザーはSDカードを用意する必要がなくなり、機器としての信頼性も向上する。

 さらにRaspberry Pi 3B+では、2.4GHz帯だけでなく、5GHz帯のWi-Fiも使用できるようになっているので、より安定した高速無線通信が可能だ。

「Raspberry Pi 3B+」

「日本製ラズパイ」の強み

 業務用途での採用が拡大し、それを見込んだ機能強化を図っているラズパイだが、もう一つ、強みがある。それが、「日本製」だということだ。

 前述したOTON GLASSの最新バージョン(第3世代)でも採用されているRaspberry Pi 3 Model Bは、日本で作られている。ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズが所有する稲沢工場(愛知県)で製造されているのだ。

 ラズパイを業務用途や量産用途で採用する場合、これは極めて大きな強みとなる。数千台、数万台という大量の受注があっても、常に安定して供給できるからだ。RSコンポーネンツは、「大量に必要になると、一般的なマイコンボードは入手が難しくなることが多い。例えば、突然『3万台納品してほしい』といわれても、日本に工場がなければ対応は難しい」と説明する。その点、RSコンポーネンツは稲沢工場と密に連携し、数量をコントロールしやすい柔軟な供給体制を整えている。

 さらに、ラズパイの認証に必要な各種ドキュメントの提出も、日本の工場で製造しているので対応しやすくなる。

 RSコンポーネンツは「量産に移行する際、それまでプロトタイプで使用していたボードが使えなくなり、再度作り直すといったケースも多い。ラズパイであれば技適も取得しているし、プロトタイプを作った時の設計を変えずに量産できるというメリットがある」と話す。

 特にスタートアップ企業の場合、リソースの関係でプロトタイプから量産まで、なるべく設計を変えたくないというケースが多い。「量産移行時のトラブルを避けるため、技適マークが基板に印刷された日本製ラズパイがプロトタイプ時点から採用されていることも少なくない」(RSコンポーネンツ)

プロトタイプありきの開発を

 ラズパイをプロトタイプから量産まで使用できるということは、開発期間の短縮を図れる他、長い目で見ればビジネスチャンスの拡大にもつながる。

 OTON GLASSの例が示すように、たとえプロトタイプレベルでも“モノ”があるのとないのとでは、アイデアやコンセプトの訴求力がまったく異なる。コンセプトをある程度でも具現化したプロトタイプがあれば、意思決定のスピードはおのずと速くなるだろう。さらに、モノがあれば、テスト的に使ってもらってフィードバックを得られるのも速い。開発側は、プロトタイプ作成と検証のサイクルを短期間で繰り返すことができる。モノづくりのスタート地点が、「コンセプトを説明する資料」ではなく、「コンセプトを具現化したプロトタイプ」になることで、ハードウェアでもアジャイル開発を実践できるようになるのである。

 オトングラスの島影氏は、「ラズパイがなければ、OTON GLASSのプロジェクトにここまで多くの人を巻き込むことは難しかっただろう」と述べる。信頼性が高く、日本国内から安定的に大量供給が可能なラズパイは、プロトタイプありきの開発に適したマイコンボードとして、スタートアップ企業のみならず大手企業にとっても、コンセプトを具現化し、ビジネスにつなげていくための強力なツールとなるだろう。

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提供:アールエスコンポーネンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年11月17日


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