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介護サービス市場を正しく理解するための“悪魔の計算”世界を「数字」で回してみよう(52) 働き方改革(11)(3/8 ページ)

» 2018年10月19日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「長生き」は「幸せ」なのか?

 前回のコラムで、私は、「人類は、その誕生後から『長寿は幸せである』と断言できる歴史を生きてきたが、1945年からフェーズが変わった」という持論を展開しました。1945年から、何万人もの人間を、わずか1〜2週間程度で殺害する病気が、撲滅され続けているからです。

 今や『長寿は幸せである』から、『長寿は本当に幸せなのか?』という疑問形に変わりつつあります。そして、多分、それは「解がない」のです。なぜなら、この疑問は「寿命を何歳に設定すれば良いのか」という、評価関数を特定できない最大効用問題に置き換えられてしまうからです。

 それはさておき。

 介護を支える金は、税金と介護保険の保険料で支えられています。

 自動車保険などであれば、「安全運転には絶対の自信があるから大丈夫だ」と言うこともできるでしょう。しかし、介護に関しては、何人も「私には関係がない」と言うことが難しいのです。なぜなら、今の時代、事故や災害にでも合わない限り、病気ですら簡単に死ぬことができないからです。

 私たちの多くは、生と死の間の中間状態「生きながら死ぬ」とか「死にながら生きる」という、ファジィな状態を過ごす運命にあるのです。これが「介護」の真実です。少なくとも、現在の社会(の法律と制度と世間)が「自死に関する自己決定権」を認めてはいない以上、ここから逃げることはできないのです。

支出(=介護サービスの料金)について考えてみる

 さて、ここまでは、介護に関する財源(収入)の話でしたが、ここからは介護サービスの料金(支出)について着目してみたいと思います。

 下図は、各年齢に対する介護費用の変化を記載したものです(介護保険の保険金は65歳以上から受給を受けることができます)。

 上のグラフのように、介護費用は、年齢とともに線形で増加しています。しかも2種類の線形があります。(i)80歳前と(ii)80歳後では、明らかに傾向が異なります。現在の日本の平均寿命は、ざっくり84歳くらいですので、80歳のターンポイントは、平均寿命と介護費用の増大に密接に関連していると考えられます。

 ただし、このグラフをもって、「だから長生きは財政を圧迫する」と考えるのは早計です。ここには、人口比率が考慮されていないからです。

 言うまでもなく、高齢になればなるほど、死亡する可能性は高くなります。具体的には、90歳の人が、91歳までに死亡する確率は20%程度となります(ちなみに私の年齢の場合、私が翌年までに死去する確率は0.4%以下です)。

 現在は、高齢化社会で高齢者の総人口は増えつつありますが、それでも一定の年齢を超えれば、誰でも確実に死亡するのです。

 下図は、各年齢の人口比率を考慮した上で、各年齢における介護費用を算出したものです*)

*)各年齢の人口に正確に比例して要介護者が発生する訳でもありませんし、介護レベルも一律になる訳ではありませんので、あくまでこれは全体感を把握するための材料として見てください。

 偶然の一致だろうと思いますが、介護費用が最大となる年齢は、平均寿命とほぼドンピシャとなりました。これは、前述した通り、「介護サービスの費用と、残された人生の時間の間には、明らかに相関がある」と解釈して良いのだと思います。

 さて、次ページから、冒頭に申し上げた「悪魔の計算」の説明と計算結果を開始したいと思います。

 ここから行う計算は、非人道の極みです。人間として許される計算の類ではなく、ましてや公の場所で発表するものでもありません(ですから、私がやるのです)。

 繰り返しますが、不快な気持ちになりたくない人、不愉快な気分を避けたい人は、ここで、このコラムを読むのを中断してください。

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