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» 2018年10月19日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(52) 働き方改革(11):介護サービス市場を正しく理解するための“悪魔の計算” (4/8)

[江端智一,EE Times Japan]

もしも意図的に「死亡率」を上げたなら

 ……よいですね?

 では、始めます。

 現在、わが国では、世界一の平均寿命の高さを誇っていますが、それが「個人」の幸福に資しているのか疑問であることは、前述しました。

 今回私が試みる計算は、一言で言えば、「もし、高齢者を意図的かつ組織的に「死」に導いたら、介護費用はどうなるだろうか」ということです。

 国家レベルの陰謀とか、カルト宗教団体の暴走とか、そういうこととは一切関係なく、単に個人として興味を持っただけです(ただし、これは後述する、「人生100年時代」の話と大いに関係が出てきます)。

 まず、現状の各世代の介護費用を総計したものが現在10兆円である、という事実を基本データとします。

 これに対して、単純に65歳以上の高齢者全ての死亡率を一律に上げて、シミュレーターで上図の赤色の面積にあたる介護費用の総計を、再計算してみました。それ以外のデータやパラメータ(年齢別介護費用など)には、一切変更を加えていません。

 ※シミュレーションプログラムは、こちら(www.kobore.net/birth_test_2010_20181007.cpp)です。私の私による私のためだけのシミュレーターですので、ご質問には応じられません。

 これによって得られた結果が以下の通りです。

 たった0.1%(1000分の1)死亡率を悪化させただけで、4000億円ほどの費用削減が実現されており、1%(100分の1)の死亡率の悪化で4兆円、3%(100分の3)では8兆円の削減が可能となります。8兆円削減できるのであれば、介護保険制度を撤廃することができます。

 あまりにも効果が顕著に現われるので、これは、平均年齢も相当に下がるんだろうなぁ(例えば、平均年齢が10歳も低くなる)とか思っていたら、驚いたことに、1%程度の死亡率の悪化では、平均年齢にはほとんど影響が出ないのです(後述します)。

 これは、平均年齢の変化がわずかであっても、介護費用に対して、ものすごくセンシティブに働くということです。

「死亡率」を改善したらどうなるか

 この結果は、私に十分にショックを与えたのですが、さらに「これを逆に考えてみたらどうなるだろうか」と考えてみました。

 つまり、死亡率を改善してみる、ということです。

 今後も医療は発展し続けていくことは間違いないでしょうし、「100年長寿社会」が、一国の総理の口から出てくるような世の中が実現すれば、当然、死亡率も劇的に向上するはずです ―― さきほどの計算を、「悪魔の計算」と呼ぶのであれば、これは「天使の計算」と言えるものとなる、と思っていました。


 ―― 計算結果を見るまでは。


 たった1%死亡率が改善されるだけで、介護費用は、現在の10兆円に加えて、5.8兆円必要になります。劇的な医療技術(例えば、先端科学技術を使った施術やガンの特効薬など)が発明されれば、死亡率3%の改善など、軽く達成してしまいます(前述の「ごく最近の"寿命"の歴史」参照)。

 そして、介護費用は、なんと37兆円に至ることになります。介護だけで、現在の一般会計の社会保障費の全部を超越する金額にも及ぶのです。

 これは、「天使の計算」どころか、「悪魔の計算」よりも、もっと恐ろしい未来を描いています。

 さらに、このような死亡率の変化によって、平均寿命がどのような影響を受けるのかも計算してみました*)

*)平均寿命の計算方法は、こちらのサイトに記載があります。

 このように、死亡率に対して、介護費用総計は非常にセンシティブに反応し、他方、平均年齢には、大きく反応しないことが分かりました。

 つまり、わずかな平均年齢の上昇は、兆円単位の介護費用の増大を発生させる、ということなのです。医療の目的が「人間の死との闘い」である以上、介護費用の増大は避けられないことなのです。

 ちなみに「100歳社会」の方の計算は断念しました。そのような社会では、出生率も死亡率も大規模に変わっているはずで、現在の私のシミュレーションで取り扱っているパラメーターでは、対応できないと考えたからです。

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