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SoCインターコネクトの内製化に潜むリスク自作は危険!(1/2 ページ)

Facebook、Intelはそれぞれ、SoC(Systems on a Chip)向けインターコネクト技術を開発する企業を買収しました。しかし、両社は「DIY(自作)はしない」という意識的な決定を下しています。なぜ、インターコネクト技術を内製しないのか。インターコネクト技術の内製化に潜むリスクを考えます。

» 2020年02月06日 10時00分 公開

 「十分な時間とお金と固い決意があれば、単一チップ用のインターコネクトくらい誰でも作れる」ということは、もしかすると言えるのかもしれません。それがクロスバースイッチであろうと、高度なSoC(Systems on a Chip)向けのNoC(Network-on-Chip)アーキテクチャであろうと、必要なものは正しい知識と十分な予算だけだ、と。実際、いずれはそうなるかもしれません。2018年のIntelによるNetSpeed買収と、2019年のFacebookによるSonics買収を見て、インターコネクトの自社開発を検討するチップ企業が出てくるかもしれません。しかし問題は、それが「できるか?」ではなく、そう「すべきなのか?」ということです。SoCアプリケーションでは目まぐるしく変わっていく要件が多すぎるため、悠長にインターコネクトを自社開発している余裕などありません。非常に競争が激しく、変化のスピードが速いIC市場においては、おそらくどのチップ企業も自分たちの時間とお金と才能をもっと他のことに使ったほうがいいでしょう。

 実のところ、インターコネクトの構築はそんな生やさしいものではありません――電力、遅延、データパス、セキュリティのすべてのパラメータを最適化する必要があるのですから。ほぼどんなSoCにも対応できるコンフィギュラブルインターコネクトIP製品の製作となると、もはや技術の域を超えています。それはアートであり、今やクリティカルアートになりつつあります。FacebookとIntelがそのスキルセットを欲しがった理由はここにあるのかもしれません。

 ただ私としては、FacebookとIntelがそれぞれ異なる戦略で買収に踏み切ったと見ています。Sonicsはクロスバー方式を用いていたことに加え、近年では電源管理IPを提供していました。Facebookが自社のOculus VR/ARグループにSonicsを吸収したのはそのためかもしれません。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)分野では省電力が鍵であり、Facebookは速いペースでOEM向けに多種多様なチップを大量生産する市場にいるわけではありませんから、同社のインターコネクト技術で十分なのかもしれません。

 NetSpeedはインターコネクト市場に参入した当初、コーナールーターメッシュ方式で大規模サーバーSoCをターゲットにしていたことから、Intelにとってはデータセンターをターゲットとした製品向けにより柔軟なSoC開発方式を確立していく上でNetSpeedのナレッジとIPが役立つと判断したのかもしれません。もちろん内部事情を知っているわけではありませんが、彼らの技術と専門知識がピタリとはまるのはこの部分しかないように私には思えます。

 FacebookもIntelも、インターコネクト技術を外部から調達することを選択したわけですが、最も興味深いのは両社とも「DIY(自作)はしない」という意識的な決定を下したことです。

危険、NoCのDIY

 それでも依然としてインターコネクトIPを自社開発したいと考えているチップ企業があるかもしれません。そこでNoCインターコネクトの開発には何が必要なのかを考えてみることにしましょう。NoC技術ではパケット方式を用います。配線を減らし占有面積を減らすことで消費電力も低減できるからです。面積も電力も増やすことなく、パケットを必要な場所に、必要なタイミングで送り届けるようNoCを設計するのが一番難しい部分です。これには一流のスキルを持った3人の専門家――パケット、チャネル、QoS(Quality of Service)を細分化するネットワーク専門家、設計と検証を行い、ゲートレベルまでの設計に対応できるVerilogの知識を持った半導体専門家、そしてそのすべてを最適化させるソフトウェア専門家――が必要です。

 実際には、このようなNoCの開発にはたいてい20〜30人のエンジニアが必要になり、おそらくそのチームは上記3つの分野のいずれかが弱いでしょう。それでも製品化を急ぐ必要がないなら最終的にはそのチームだけでどうにか成功にこぎ着けられるかもしれません。しかし今日のチップ市場は設計者たちがついていけないほど速いペースで変化し続けています。1つのNoCが完成するやいなや新しい要件が明確になり、次のチップ設計ではまた振り出しに戻って、性能、帯域幅、キャッシュコヒーレンス、アービトレーション、遅延、QoS、電源管理、セキュリティに関する新たな要件を満たさなくてはなりません。

 そしてこの点では、自動運転車へのシフトによってセンシング、通信、AI(人工知能)の高度化が求められている車載向け設計ほど目まぐるしく変化している分野はありません(図1)。

図1:自動運転車は安全性においてだけでなくICの設計とイテレーションにおいても常に最先端をいっている 画像提供:Arteris

 新しいインターコネクトをIC設計チームの他のメンバーたちと共に定義し、実装するには1年を要するかもしれません。これは明らかに長すぎます。そんなことをしている間に市場競争に負けてしまうでしょう。大変な思いをして18カ月間も費やした揚げ句、「残り物」で我慢させられることになります。

 もちろん、自社のICに最適なNoCを開発できればそれに越したことはありませんが、設計のクリティカルパスにその開発を入れてしまうことによって無駄に市場機会を失うことになりかねません。おそらく自分たちの強みは別のところにあるでしょうから、ソフトウェアの向上や、チップの処理能力、メモリ、ペリフェラル、I/Oをバランスよく組み合わせるといったことに注力するといいかもしれません。つまるところ、より効果的なリソースの使い方こそが大きな違いを生むのです。

 苦労の末にライセンス取得モデルへの切り替えを検討するチームもあるでしょう。その間に多くの顧客が現れては消えていってしまうかもしれません。まったくダーウィンの進化論さながらのビジネスです。

 ひとたび決心がついたら、専門のインターコネクトデベロッパーからNoC IPのライセンスを取得するのが技術面とビジネス面のどちらから見ても得策です。一般的に言ってライセンスを供与できるくらいの企業であれば多様な業界の設計に何年も携わっているはずですから、チームが必要とするものはすべて持っている可能性が高いでしょう。インターコネクトの設計は彼らに任せて、自社のチップの価値を高めることに専念すべきです。

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