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1ミリでいいからコロナに反撃したいエンジニアのための“仮想特効薬”の作り方世界を「数字」で回してみよう(63) 番外編(1/7 ページ)

私は今、新型コロナウイルスに対して心底腹を立てています。とんでもなく立腹しています。在宅勤務が続くストレスと相まって、もう我慢ならん! と思っています。1ミリでいいから反撃したい。たとえ、その行為がコロナの終息に、直接的には少しも貢献しないとしても、自分が納得するための反撃の手段が欲しい――。そう考えていた矢先のことでした。あの“シバタ先生”から、予想の斜め上を行く提案を頂いたのは。

» 2020年05月03日 19時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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私は今、新型コロナウイルスに対して心底腹を立てています。とんでもなく立腹しています。1ミリでいいから反撃したい。たとえ、その行為がコロナの終息に、直接的には少しも貢献しないとしても、自分が納得するための反撃の手段が欲しい――。そう考えていた矢先のことでした。あの“シバタ先生”から、予想の斜め上を行く提案を頂いたのは。⇒「世界を『数字』で回してみよう」連載バックナンバー一覧


「コロナのクスリ、作ってみませんか」

シバタ先生:「江端さん。新型コロナウイルスのクスリ、作ってみませんか?」

江端:「……はい?」

 いつも、シバタ(通称、「轢断のシバタ」)先生からのメールは、私を驚かせますが、今回も、予想の斜め上を越えるメールを頂くことになりました。



 現時点(2020年4月25日現在)で、確認されているだけでも、全世界で感染者数279万人、死亡者数20万人という、今世紀最大の未曾有の大災禍である、新型コロナウイルス感染症。

 現時点では、有効な治療薬(ワクチンなど)も、有効な治療方法もなく、免疫力の弱い人を、最悪で数日(最短1日)で殺害し、その一方で免疫力のある人(特に若い人)には、1mmの自覚症状を与えず、ただ、「ウイルスを最大の効果でバラまく」という役割を演じさせる――。

 一体、どの世界の悪魔が設計したのか?

と叫びたくなる、新型コロナウイルス(COVID-19)。

 現在、世界各国の政府は、感染エリアだけではなく、都市、あるいは国家全体を封鎖し、人の外出を禁止し、店舗(一部を除き)も閉鎖させています。今、世界は、細菌兵器や中性子爆弾*)を投下されて絶滅したようにさえ見えます。

*)中性子爆弾とは、建築物を中性子が通過し、生物だけを選択的に殺傷することを特徴とする爆弾

 もちろん、世界中の研究者が、世界を守る闘いをするために、COVID-19に対抗する特効薬やワクチン開発に全力を注いでいます。

 ―― 特効薬とワクチンの出し惜しみなんぞすれば、世界全員で心中することになる

という、リアルがあります。

 今、人類は、初めて「世界は一つ」を実感しているはずです ―― 美しくない形ではありますが。

 そんな中、いきなり「コロナウイルスのクスリ、作ってみませんか?」と言われたら、驚くのは当然です。



 そりゃ、私だって、「最近の医薬が、コンピュータの計算によって作られる」という話は ―― まあ、話だけですが ―― 知っています。

 しかし、それは、室温20℃以下の空冷の地下室の中に鎮座している、巨大なスーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」(「京」の後継機)を取り囲んでいる、医薬に精通した白衣のエリートグループ集団のことでしょう ―― 知らんけど

 医薬の計算って、スパコンの計算リソースを目一杯独占しながら、最新のAI技術(×AI)(機械学習とかアニーリングアルゴリズム)とかを使いながら、作るものでしょう ―― 知らんけど

 私なんて ―― 数千円程度のマイクロコンピュータ「ラズパイ」とか、初年度無料のクラウド「AWS(Amazon Web Service)」とかを使って、なんとかITシステムを組み上げて、自宅では16GB程度のメモリ搭載したPCを使って、週末のシミュレーションをして悦に入っている程度の、ショボい週末エンジニアです ―― 残念ながら、それは知っている

 多分、シバタ先生は、そこのところ分かっていないんだろうと思います。

 うん、まあ、仕方ないんですけどね。それに、まあ、その誤解のおかげで、私がこれまで「いい目」にあってきたのも事実です。

 例えば、結婚の報告のために、嫁さんの実家に行った時、『コンピュータを使う仕事をしている』と言っただけで、「不当なほどに高く評価され」て、「厚遇された」のは事実です(少なくとも『娘をくれてやるから、一発殴らせろ』というような、古いヒット曲の内容とは無縁でした)。

 シバタ先生には、いずれ、コンピュータ業界のヒエラルヒー(階層構造)について、お話ししなければならないなぁ ―― てなことを、考えていました。



 シバタ先生のメールには、コンピュータを使ったクスリの設計を行う手法が記載されていたようですが、

「私の頭では理解できないような、高度な化学物質の構造式が出てくるんだろうなぁ」
「面倒くさいアニーリングの温度変化のパラメータを設定しなければならないんだろうなぁ」
「PCでの計算に要する時間が、100〜200時間くらいはかかるんだろうなぁ」

 まあ、総じて『まあ、多分、面倒くさいに違いないだろう』と思っていました。

 しかし、同時に、ここは踏んばりどころかもしれない、と考え直しました。

 少なくとも、内容が理解できなくても、医薬製造のプロセスを知ることができるだろうと思ったのです。

 そんでもって、そのプロセスが分かれば、

(1)そもそもウイルスとはどういうものなのか
(2)COVID-19は具体的にどういう姿をしているのか
(3)なぜ、COVID-19は私達を殺せるのか
(4)では、逆に、どうやれば、私達はCOVID-19を殺せるのか

てなことを知ることができるかもしれない、と思いました。

 なにより、私も連日の在宅勤務、自宅待機で、ストレスが限界に達しつつあります。

 本気で、こいつ(COVID-19)をぶっ殺してやりたい、という気分になってきています。

本気で、本気でぶっ殺してやる……!!

 私は、スーパーコンピュータを使わせてもらえるような身分ではありませんが、もし、頭の中で模擬戦(シミュレーション)をやって、やつら(COVID-19)を殲滅(せんめつ)するプロセスがイメージできれば、それだけでも、さぞ気分が良いだろうと思いました。

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