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IBM、実用的な量子コンピュータに近づく成果新技術(1/3 ページ)

IBMは、量子ビット数を拡張できる量子コンピューティング アーキテクチャを開発したという。量子コンピュータ実現に向けた大きな課題であるビット反転エラー/フェーズ反転エラーを補正できる冗長性を持たせたアーキテクチャで、規模を拡大させやすいとする。

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格子状の構造

 Googleのような新参者を含め、世界中のあらゆる主要な研究所が量子コンピュータを追及している。だが、IBMの量子コンピューティング研究における30年の経験は、Googleの“線形”設計が全く的外れであることを示しているとIBMは主張する。なぜなら、IBMの“格子状”の設計なら、量子コンピューティングにおける最も重要な課題の両方を解決できる上に、将来的に必要となるあらゆるサイズへの拡張が可能だからだ。

 IBMの量子コンピュータに適したアーキテクチャの研究は、1981年、ノーベル賞を受賞者した著名な物理学者であるRichard Feynman(リチャード・ファインマン)氏による、情報物理に関する初めてのワークショップに同社が参加したことをきっかけに始まった。同氏はそのワークショップで量子コンピュータの概念を提示した。

ムーアの法則は無限に延長される?

 IBMはその後34年以上にわたってファインマン氏の理論を発展させ、独自のアーキテクチャを生み出してきた他、今回の“量子ビットの数を確実に拡張できるデバイスの実現”につながる実験を行ってきた。この技術の実現により、ムーアの法則は無限に延長されるといえる。なぜなら、わずか50量子ビットで、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位ランキング「TOP500」にランクインした最速のスーパーコンピュータを上回るからだ。

 米国ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツにあるIBM Research Centerの実験的量子コンピューティング部門でマネジャーを務めるJerry Chow氏は、EE Timesに対し、「当社は現在、4量子ビットのシステムについて報告している他、既に8量子ビットのシステムで実験を行っている。だが、他の設計とは異なり、われわれが解決した一連の課題は、あらゆる量子ビット数の超伝導量子コンピュータに適用できる」と述べた。

ビット反転&フェーズ反転エラーの訂正も可能

 現在のプロトタイプは商用のスーパー冷却装置を用いて絶対温度で15mK(ミリケルビン)まで過冷却されている。また、IBMによると、このプロトタイプでは、現在の量子コンピューティングにおける2つの最重要課題を解決したという。つまり、ビット反転およびフェーズ反転のエラーを補正していると同時に、いかなるサイズにも完璧に拡張可能なのである。


4ビット量子ビットに対応する格子状チップのプロトタイプ。ビット反転およびフェーズ反転、両方のエラーを検出できる 出典:IBM Research

 Chow氏はEE Timesに「量子コンピュータの発展において、エラー訂正は最も重要な問題である。なぜなら、量子ビットは通常のコンピュータのビットのように堅固ではないからだ。量子ビットは非常にもろく、環境やシステムの残りの部分にある、あらゆる種類のノイズによって役に立たなくなる」と語った。

 量子コンピュータで訂正する必要のあるエラーには主に、ビット反転のエラー(1が0に、もしくは0が1に反転する)とフェーズ反転のエラー(これにより、信号は足す代わりにお互いから引くようになる)という2つのタイプがある。残念なことに、これらのエラーの両方を解決するのは非常に難しい。両方のエラーを解決するため、IBMはGoogleのような線形アレイのアーキテクチャの代わりに四角いアーキテクチャを用いる必要があった。IBMによると、線型アレイのアーキテクチャでは課題のうち1つしか解決できず、両方の解決は不可能だという。

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