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一流の科学技術力を持つ日本人イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(1)(2/2 ページ)

日本の半導体業界およびエレクトロニクス業界では、低迷が叫ばれて久しい。だが、日本には確かな技術力があるのだ。群雄割拠のこの時代、日本が技術力を余すところなくビジネスにつなげるヒントは、世界屈指のハイテク産業地帯、米国シリコンバレーにある。シリコンバレーのビジネスを30年以上にわたり、最前線で見てきた著者が、“シリコンバレーの活用術”を説く。

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「イノベーション=技術革新」ではない!?

 だが問題は、こうした日本人の科学技術力が、ビジネスにきちんと転換されているかという点にある。ひらたく言ってしまえば、「技術力が、もうかる事業に転換されているのか」ということだ。

 これは、本連載の軸となる大きなテーマでもある。

 じっくりと考えていきたいので、まずは「invention(インベンション)」「innovation(イノベーション)」、そして「entrepreneurs(アントレプルナー)」という3つのキーワードについて意味と関係性を明らかにしておきたい。多少、“教科書的”にはなってしまうが、読者の皆さまにはお付き合いいただきたい。

 まずinvention(インベンション)だ。これは「発明」と訳されている。ラテン語の「in(その中、その上)」と「venue(来る)」を語源としている。つまり、「発明」という言葉は、「従来はなかった新しいものを考え出す」というこのラテン語の本来の意味をよくくみ取った日本語訳といえるだろう。

 一方で、innovation(イノベーション)は「技術革新」と訳されることが多いが、実はこれは誤解を招く訳である。こちらも語源はラテン語で、「in」に「novare(改良・改善)」を足した言葉からきている。

 1911年、オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeterが、その著書『経済発展の理論』の中で、「“新結合(NeueKombination)”が起きた時に経済は成長する」ということを提唱した。

 シュンペーターは、「われわれが取り扱おうとしている変化は経済体系の内部から生ずるものである。それは、経済体系の均衡点を動かすものであるが、新しい均衡点は、古い均衡点からの“微分的な歩み”によっては到達し得ないものである。“郵便馬車”をいくら連続的に加えても、“鉄道”を得られることはできない」と、とても分かりやすいたとえを使って、「発明」と「改良・改善」の違いを説明している。上記の例でいえば、鉄道を生み出すことは「発明」に当たり、改良や改善ではない。

 『経済発展の理論』の中で「イノベーション」という言葉は使っていないが、「新結合」は、これはそのまま「イノベーション」を意味している。従って、「イノベーション」をあらためて定義し直すと、「新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化をもたらすこと」を指す。日本では「技術革新」は、どちらかといえば「発明(=インベンション)」に近い意味合いで使われている。そのため本連載では「イノベーション」という言葉を、そのまま使うことにする。

 イノベーションがインベンションと違う点は、イノベーションは「新結合」なので、全くの無から有を生み出すものである必要はない、ということである。“生みの苦しみ”という点では、イノベーションは、インベンションよりは気楽になるのかもしれない。

 これまでにあったいろいろな“粒”を、新しい考え方やアイデアでつなぎ合わせ、従来にはなかった価値を生み出すのが、イノベーションなのである。

 加えて、シュンペーターはイノベーションを担う経済主体のことを「entrepreneurs((企業者、アントレプルナー)」と呼んでいる。シュンペーターによれば、「企業者」はあくまでも「新結合を遂行する」経済主体だから、一定のルーチンをこなす経営管理者は「企業者」ではない。

 そして、この企業者をつき動かす動機は何なのか。

 シュンペーターによれば、それは「自分の帝国を建設したいという夢と意思」「勝利への意欲」「創造の喜び」の3つである。「アントレプルナー」の動機は、経済的動機、つまり単なる“金もうけ”とは大きく離れていることが分かる。

(次回につづく)


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。

米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍

AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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