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インタビュー

AIで働く人々は幸福になれるのか日立製作所の矢野和男氏に聞く(2/3 ページ)

日立製作所は2016年6月、AI技術を活用し、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを、各個人の行動データから自動で作成する技術を発表した。今回の発表に伴い、ソーシャルメディア上では、AIに対する期待と不安の声が混じっている。AIは私たちの幸福感を高めてくれるのだろうか。そこで、このAIを活用した技術を開発した日立製作所の矢野和男氏にインタビューを行った。

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行動の多様性が高いほど、幸福感が高い

EETJ ウェアラブルセンサーで検知した人の動きは、どのように幸福に結びついているのでしょうか? 例えば、「しゃべっているときに、○○の動きをすると人は不快に感じる」のようなパターンがあらかじめ、データベースに入力されているのですか。

矢野氏 それは違う。本人も気づいていない、幸せな人に共通する無意識的で精密に決まっているパターンから、共通に計測できる。

 当社は、長期にわたって、ムードが悪くなったり、充実感を感じていたりする際に、人間がどのような反応をするかを大量に分析してきた。10個の組織、468人に幸福感に関する20個のアンケートを行った。アンケートを組織ごとに平均化し、その組織が幸せかどうかを数値化する。そして、468人にウェアラブルセンサーを長期間着けてもらい、体の動きを検知すると、行動の多様性が強いほど、組織での幸福感が高いことが分かった。

行動の多様性が高いほど、組織での幸福感は高くなる傾向にある (クリックで拡大) 出典:日立製作所

 具体的には、幸せな人は「短い動き」と「長い動き」が混じっていた。逆に、あまり幸せでない人は、バラつきが少ないことが分かった。1回動き出したら、10分くらい動かないとか。つまり、瞬間ごとの幸福感は分からないが、1日分のまとまったデータで「短い動き」と「長い動き」が混じりあっているかを見ると、その人や周辺の人々が幸せなムードに包まれているかどうかが分かる。

 「じゃあ、たくさん動けばいいの?」「動いている人が、止まっている人より幸せなの?」と聞かれるが、そんな簡単に幸せにはなれない(笑)。非常に無意識で微妙なパターンから検知しているので、意識的にそのパターンを変えることは基本的にできない。

AIアドバイスまでは1カ月間必要

EETJ 発表資料によると、Hが行動データを分析して、アドバイスしてくれるようになるまでには、ウェアラブルセンサーを着けて1カ月の期間が必要だとありました。

矢野氏 幸せなムードに包まれているかどうかは、1日分の行動データがあれば分かる。しかし、どのような行動をすると幸福感が高まるかは、1日分の行動データだけでは分からない。曜日によって、業務や会う人に違いがあるからだ。1カ月間の行動データがあると、「水曜日の会議は、皆の幸福感が下がっている」とか、「上司Bは午前中に会うと良い」などの事象がはっきりと現れるので、それをHで自動解析する。行動データは日々更新し、蓄積されていくので、環境の変化が起こったとしても対応できる。


スマートフォンアプリ画面の表示例 (クリックで拡大) 出典:日立製作所

EETJ ウェアラブルセンサーを首にかける抵抗感はないのでしょうか?

矢野氏 これは難しいところで、「全くない」といったらうそになる。しかし、「重たい」「邪魔だ」と思われるかどうかは、最終的にどんな効果が得られるかとの比較になる。今回の場合、「自分の幸せのために、行動データを活用する」といったように、どんな効果が得られるかが非常に分かりやすいため、問題ないと考えている*)

*)ウェアラブルセンサーで検知した個人のデータは、所属企業には公開しない。ただ、「1時間以上の会議は、20%幸福感が下がっている」といったレポートを、個人を特定しない形で企業側に提供する場合があるという。

EETJ ウェアラブルセンサーは社員証と一体化できそうですし、スマートフォンをウェアラブルセンサー代わりにも使えそうです。

矢野氏 社員証との併用は、可能性として大いにある。スマートフォンは既に多くの人が持っており、加速度センサーも搭載されているので、技術的には問題ない。しかし、机に置いたり、かばんに入れたりする人も多いため、運用面で課題があるだろう。

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