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陰湿な人工知能 〜「ハズレ」の中から「マシな奴」を選ぶOver the AI ―― AIの向こう側に (8)(1/10 ページ)

「せっかく参加したけど、この合コンはハズレだ」――。いえいえ、結論を急がないでください。「イケてない奴」の中から「マシな奴」を選ぶという、大変興味深い人工知能技術があるのです。今回はその技術を、「グルメな彼氏を姉妹で奪い合う」という泥沼な(?)シチュエーションを設定して解説しましょう。

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今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー


100行のプログラムを自分で書いてみる

 前回お話ししましたように、先日、

 「AIブームの終焉 -End of the Boom-」

というタイトルで講演してきました(参考サイト)。

 お招きいただいたCSAJの人工知能技術研究会の皆さま、ならびに、ご聴講いただいた皆さま。最初から最後まで、私の大きい声の講演にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

 当日、スーツで出かけようとしたのですが、家族から『似合わない』と一刀両断されました。その後3回ほど衣服を替えたのですが、いずれも評判が悪く、「いっそのこと白衣で講演してやろうか」と言ったところ、「そっちの方がいい」と言われたので、今回初めて、白衣で講演をやってみました*)

*)CSAJ事務局の方には許可(というかオファー)をいただきました。

 なお、私が「白衣」で登壇したことに対して、聴講者のどなたからもツッコミがなかったことについて、

 ―― 私は全く気にしておりません

のでご安心ください。

 それはさておき。

 今回の講演では、この連載コラムの最終回の「落とし所」のネタバレもお話してきたのですが、そのプロセスで「AIのプログラムなんぞ、ネットにゴロゴロ転がっている」とか、「AI技術は、ゴキブリホイホイのように使い捨てるものである」とか、過激な発言を連発させていただきました。

 講演の後には質疑応答の時間がありましたが、特に若い方からは、「AI技術を理解するには、どうしたらよいですか」という質問が多かったように思えます。

 この質問に対する、私の答えはいつも同じです。


 「100冊の人工知能の本を読んでも時間の無駄です。最もてっとり早いのは、100行のプログラムを自分で書くことです」


 AI技術のコアのプログラムが、ものすごく単純で、恐しく短いプログラムになることは、意外に知られていません。うそ偽りなく、私がこれまで書いてきたAI技術のコアのプログラムで、100行を超えたものはないのです。

 もっとも、プログラムは100行でも、AIのプログラムがまともに動くようになるまでパラメータのチューニングを行うために、100時間を軽く超えることは珍しくありません。そして、最大の問題点は、AI技術を実際に設計する場合、その設計方針が存在しないことです。

 例えば、

  • 今回のAIブームのきっかけとなった、深層学習が可能となったニューラルネットワークには、その設計指針(ノード数、レイヤー数、重み付け初期値)が存在しません
  • 前回お話しした、遺伝的アルゴリズ(GA)も、その染色体数や突然変異の発生確率などは、実際に試してみるまで、どのような値のパラメータが良いのか分かりません
  • ファジィ推論についても、作成したファジィルールと、メンバーシップ関数の相性についての設計方針もありません

 これが、AI技術の設計が、いまだに、テクノロジーではなく、アート(またはセンス)といわれる所以(ゆえん)です。

 こうなってくると、「AI技術」自体が「技術」と呼べる代物であるかどうかも、怪しくなってきます*)

*)例えば、特許法の解釈においては、「技術」とは「客観的に第三者に伝達可能なもの」と定義しています。本人の資質や能力に依拠する「技能」とは、完全に区別しています。

 しかし、その一方、AI技術は、時として信じられないような顕著な効果を発揮することもあり ―― 詰まるところ、私たち研究員は、いつだって、AI技術が「大嫌い」で、そして「大好き」なのです。

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