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エネルギーを吸収するディスプレイ、通信も発電や通信が可能な表示装置(1/2 ページ)

可視光を用いて情報だけでなく、エネルギーを送受信できるディスプレイを米イリノイ大学の研究チームが作り上げた。ユーザーインタフェースに新しい切り口が加わる他、環境光を電力として取り組むことが可能になる。

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 4Kや8Kなどの高解像対応や、有機ELを採用した小型軽量品。ディスプレイには決まり切ったつまらない未来しかないのか。

 そうではない。ディスプレイにはまだまだ開拓されていない未来がある。米イリノイ大学の研究グループは光を放出するだけでなく、吸収(検出)できるディスプレイを開発した*1)。薄いフィルム上にナノメートルサイズの棒状の「LED」を多数配置することで実現した(図1)。

*1) Nuri Oh et al. Double-heterojunction nanorod light-responsive LEDs for display applications. Science, 2017 DOI: 10.1126/science.aal2038 (サイエンス誌に投稿した論文)。米Dow Chemicalとの共同研究である。


図1 開発したディスプレイの外観 出典:イリノイ大学

情報とエネルギー、それぞれ相互作用が可能

 光を吸収する能力は、どのように役立つのだろうか。

 直接画面を触らなくても、指を近づけるだけで操作できるタッチパネル。周囲の光で自らを充電する表示装置*2)。光を使って低速通信を実現するディスプレイ。このような応用が考えられるのだという。

 同大学で材料科学と工学の教授を務めるMoonsub Shim氏は発表資料の中で次のように語っている(図2)。「(開発品は)情報の表示だけでなく、インタラクティブなデバイスへの移行の橋渡しとなるものだ。さまざまなエレクトロニクス品のための新しいデザインを提供するだろう」

*2) 太陽電池の試験で用いられるAM1.5照明下における電力変換効率は0.2〜0.3%だった。起電力が1.49Vと高いため、0.1Fのコンデンサを充電できた。


図2 ディスプレイ技術を開発したイリノイ大学教授のMoonsub Shim氏(左)とポストドクトリアル研究者のSeong-yong Cho氏

 Shim氏によれば、具体的な利用シーンはこうだ。

 「タブレットを手に持ち、木陰で読書をするとしよう。光と影のパターンが画面に落ちて読みにくいはずだ。開発した技術を用いれば、画素ごとに光と影を検出し、コントラストをリアルタイムに自動調整できる」

 画素ごとに、という手法が重要だ。同様に光を吸収し電力に変えることもできる。「あたかも太陽電池であるかのように働く。携帯電話に採用したとすると、環境光からディスプレイ表示用の電力を得ることが可能になる。表示機能を損なうことなく、エネルギーハーベスティングを実現できるだろう」

 端末間の通信に光を使うアイデアはどのように生きるのだろうか。Shim氏によれば、通信速度自体はBluetoothのような既存の技術よりも低速だ。だが、Bluetoothはシリアル通信。開発した技術は画素ごとに通信を確立できるため、大規模なパラレル通信が可能になる。つまりリアルタイム性が高まる*3)

 開発品はナノサイズの赤色LEDアレイを組み合わせたものだ。今後はフルカラーを実現するために必要な青色と緑色の画素を作り込む。さらに、取り込んだ光を電力に変えるエネルギーハーベスティングの能力を高めるため、微小なLEDアレイの配置を工夫するという*4)

*3)50kHzで「点滅」した場合でもBluetoothよりも通信速度が低くなる。しかし、今回開発したディスプレイ技術では、2500画素/インチの密度で画素を配置できるため、高いリアルタイム性が得られるとした。Bluetoothでデータを送った場合、転送速度自体は早いものの、最初に送ったビットと最後に送ったビットの間に時間差が生じるため、リアルタイム通信には向かない。
*4) 変換効率が十分高くない理由は、受光部のDHNRがごく薄い単層だからだ。入射光子の平均自由行程よりも薄い。

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