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» 2008年06月01日 00時00分 公開

Analog ABC(アナログ技術基礎講座):執筆者インタビュー「空想する、結果を思い描く」

アナログ技術基礎講座「Analog ABC」の執筆者であるディー・クルー・テクノロジーズの美齊津摂夫氏へのインタビュー。EE Time Japanの2008年6月号の技術者インタビュー「Spotlight」の内容を再録したものです。

[前川慎光,EE Times Japan]

アナログ技術基礎講座「Analog ABC」一覧

 美齊津摂夫(みさいず せつお)氏は、高周波アナログ・チップなどの設計/開発を手掛けるベンチャー企業、ディー・クルー・テクノロジーズのエンジニアである。研究/開発部門のリーダーを務める。17年間に渡って大手通信系ハードウエア開発会社でアナログ関連製品の設計/開発に携わった後、2004年に当時設立間もない同社へ転職した。

 アナログ技術は面白い、という同氏になぜですかと聞いたところ、「1と0の間の中間値があるから。まったく同じ特性のチップは世の中に2つと存在せず、それぞれに個性があることがとても面白い」と語る。最近の成果は、2008年3月にサンプル出荷を開始したWiMAX向けパワー・アンプIC「DC1102A」の設計/開発に携わったことだ。これに続いて、電力付加効率(PAE)を現在の20%程度から30%クラスにまで大幅に高めた品種の開発に取り組んでいる。「30%クラスのPAEが実現できれば、業界最高レベルのパワー・アンプになる。WiMAX端末の実用化に向けたインパクトは大きい」(同氏)。実現技術はほぼ確立しており、市場投入のメドも付いているという。

図 ディー・クルー・テクノロジーズの美齊津摂夫氏

EETJ 仕事上で心掛けていることは。

美齊津氏 設計作業に取り掛かる前に、得たい特性や出力波形を空想する、思い描くということだ。時間をかけて考えて、それを紙の上に簡単にまとめておく。頭の中で具体的に思い描ける内容は、実際に回路として実現できることだと信じているからだ。またこの作業は、回路の全体像を事前に捉えることにつながる。思い描いた通りの結果が得られることが、私にとって何より嬉しいこと。働いていて楽しいと感じるときだ。

 さらに、ギリギリの最適値を見極めるということも心掛けている。何事にも「一番良いころ合」があり、超えてはいけない壁があると考えている。例を挙げよう。ある回路で矩形波を出力したいとする。一般に、矩形波の立ち上がり/立下り時間は短い方が良いとされている。しかし、短くし過ぎるとほかの回路ブロックに悪影響を与えてしまう。この最適値をいくらにするのか。これを判断するのは、設計者それぞれが持つ直感や感性だろう。うまく説明できないが、出力波形や得られた特性、回路図などを見て、美しい/美しくないといったことを感じられるかどうかが大切だと思う。回路全体として高い特性を得るには、それぞれの回路ブロックで得られる特性を、最適値に少しでも近づけるという細かい調整の積み重ねが必要である。

EETJ 技術者として誇れる点は。

美齊津氏 新しいことを知りたいという欲求が昔から何ら変わっていないことだ。新たなチップを設計して特性が高められたとしても、さらに上の段階がある。「きり」のない世界だ。上の段階を目指し続けるには、知らないことを知る、できないことをできるようにする、という欲求を常に高く持ち続けることが大切だろう。

 一方、知らないことを知らないと言える勇気はもっと持ちたい。年々、立場や年齢といった足かせが重たくなる。しかし、「知らないです、教えて下さい」とはっきり言える方が、理解の食い違いや勘違いの発生を防げるだろう。

EETJ 大手企業からベンチャー企業に転職したきっかけを教えて欲しい。

美齊津氏 きっかけ、といわれればこの会社を立ち上げた現社長に誘われたからだろうか。ただ、今思えばあのとき、大手企業で勤務することに限界が来ていたのかもしれない。前社では、勤務年数が長くなっていくほどに、やりたいことと、やっていることにギャップが広がっていった。設計/開発に携わりたいのに、日々の業務といえば、予算をどう管理するか、部下をどうマネジメントするかということだった。妻に言わせると、毎日深いため息をついていたらしい。その時は、サラリーマンとして、その状況は普通なのかなと思っていた。

EETJ 今はどうだろうか。

美齊津氏 新しい回路の仕組みを考えながら鼻歌を歌えるぐらい、思う存分にやりたいことに取り組めている。確かに大手企業に比べると、開発環境や予算という側面では、不自由な部分はある。ただ、居心地(いごごち)がいい、やりたいことがやれるということが働く上で最も大切なことではないかなと思う。

Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「美齊津摂夫氏のブログ(〜それでもアナログはなくならない〜)



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