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電解質を固体化したリチウムイオン電池、温度特性に優れ、電流密度は10mA/cm2エネルギー技術 二次電池

材料の安定性が高いため、特に安全性の求められる車載用途の他、蓄電機能が備わっていない風力発電装置や太陽光発電装置との組み合わせ用途に向けるとした。

» 2008年09月18日 11時00分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]

 リチウムイオン二次電池は、重量当たりのエネルギー密度が高く、高い電圧が得られるため、携帯型機器を中心に広く使われている。

 ただし、欠点もある。電解質に液体を用いているため揮発や漏出の恐れがあること、温度変化に弱いことである。出光興産は、これらの欠点を解決するため、電解質を固体化した「硫化物系リチウムイオン電池」を開発した(図1)。電解質としてLi2S(硫化リチウム)を用いる。2008年10月に特定顧客向けにサンプルの提供を開始し、2012年に量産出荷を始める。特に安全性の求められる車載用途の他、蓄電機能が備わっていない風力発電装置や太陽光発電装置との組み合わせ用途に向けるとした。

ALT 図1 固体電解質リチウムイオン二次電池 シート状の単セルである。電池として機能する部分は6cm×10cm。2006年に試作した段階では直径40mmの円形であり、プレス機による積層が必要であったため、量産には向かなかった。サンプル出荷数は500〜1000個/月を予定する。

 試作品の電極材にはイチウムイオン電池で一般的なC(炭素)とLiCoO2(コバルト酸リチウム)を用いた。「固体電解質として用いるLi2Sは粉末であるため、液体電解質を用いたときよりも電解質と正極材との接触面積が小さくなる。接触面積を増やすために、正極材の表面にLi4Ti5O12(チタン酸リチウム)をコートした」(出光興産の研究開発部新事業開発センター リチウム電池グループでグループリーダー代理を務める三牧英明氏)。

材料は400℃まで安定

 Li2S材料は不活性ガス下で約400℃に至るまで結晶構造が安定している。さらに電気化学的にも安定しており、外部から10Vの電圧を印加しても分解しない。「電極材の組み合わせによっては従来の3.7Vという取り出し電圧の限界を超えることが可能」(三牧氏)という。

 従来の有機系やポリマー系液体電解質を用いた電池の動作温度範囲は0〜50℃である。0℃以下では電気伝導度が急速に下がってしまい、高温では電解液が漏出する危険性がある。しかし車載用途では、−30℃の低温や、50℃を超える高温での動作も考慮する必要がある。

 Li2S固体電解質の動作温度範囲は液体電解質よりも広い。−40〜200℃の範囲で伝導度が温度に対して線形に変化するためだ。イオン伝導度は、−40℃において10−5S・cm−1、25℃では4.0×10−3S・cm−1、200℃では10−1S・cm−1である。

 25℃におけるイオン伝導度は有機系電解質の約4割にとどまるが、全イオンに占めるリチウムイオンの比率(リチウムイオン輸率)が有機系の約3倍に相当する100%と高いため、イオンの輸送能力はほぼ同等である。

 充放電特性については1万160μA/cm2(約10mA/cm2)での放電が可能である。この場合、放電開始時の電圧は約3Vであり、放電量が45mAh/gに達した時点で1Vまで電圧が下がる。放電量に対してほぼ線形に電圧が下がるため、充電時期の予測が立てやすい。1mA/cm2の電流密度で放電した場合は、4Vから開始し、放電量が60mAh/gの時点では約3.5Vになる。その後、急速に電圧が低下し、80mAh/gを超えた時点で1Vに至る。

 ただし、室温での性能は従来の液体電解質を用いた電池よりも劣る。「試作品では従来のリチウムイオン電池と比較してエネルギー密度が1/5と低い。今後は、固体電解質以外、例えば電極材料や、電極材料との界面の構造を工夫することで、改良したい」(三牧氏)とした。

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