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» 2008年12月01日 00時00分 公開

無線通信技術 BAN:活用始まる人体無線網、ヘルスケアから新市場が立ち上がる (1/8)

わざわざ操作しなくても、身の回りにあるさまざまな機器が人間の要望にきちんと応えてくれる…。運動量や体温、心拍数といった生体情報を活用すれば、そんな生活が可能になるかもしれない。

[前川慎光,EE Times Japan]

 朝起きると照明がともり、エアコンの電源が自動的に入る。オフィスから外出しようとすると、携帯電話機の画面に天気情報が表示されたり、プリンタから電車の時刻表が自動的に印刷されたりする――。

 わざわざ操作しなくても、身の回りにあるさまざまな機器が人間の要望にきちんと応えてくれる…。運動量や体温、心拍数といった生体情報を活用すれば、そんな生活が可能になるかもしれない。「生体情報を利用して、人間の行動把握や行動予測を実現できれば、例えば携帯電話機の各種入力を自動化するような、まったく新たなアプリケーションを生み出せる可能性がある」(東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻の教授である保坂寛氏)という。

 生体情報を活用可能な範囲は多岐にわたるものの、まずはヘルスケア(健康管理)や医療といった分野から活用が始まる。今まさに、各種センサーを使って人体表面または体内から生体情報を収集し、ヘルスケアや医療といった分野で活用しようという動きが盛り上がっているのである。例えば、小型センサーを人体表面に取り付けて、各種生体情報を無線で継続的に収集したり、まるで風邪薬を飲むかのようにカプセル型医療機器を体内に取り込んで、画像や映像を体外に無線伝送したりする。さらには、複数の機器が無線ネットワークのノード(端末)を構成し、互いに情報をやりとりして動作する。こういった仕組みが実現できれば、日々の健康管理に役立てられる。長期にわたって収集したデータを分析することで、医療機関の定期検診では気付かないような病気を発見できる可能性がある。

 こうした、人体に向けたセンサー・ネットワークでは、端末間を有線で結ぶことを前提にできない。行動の自由を制限し、生活の質自体が低下するからだ。そこで、各種センサーで生体情報を測定して無線で収集することに向けた、いわば「人体無線網(BAN:Body Area Network)」が必要になる*1)

 すでに先駆けとなる、BANの適用例が現われてきた。例えば、利用者に情報を提供してリハビリテーションやヘルスケアに生かすというサービスを始めた企業があるほか、インターネットを介して情報提供するサービスを事業化する動きがある。このような動きは個々の企業にとどまらない。IEEE(米国電気電子学会)の標準化組織では、BANに向けた国際標準規格「IEEE 802.15.6」の策定作業が着実に進んでいる。その作業部会で規格策定を主導する河野隆二氏*2)は、「(規格策定およびBAN実用化への取り組みが)今、非常に盛り上がっていることを、ひしひしと感じている」と力強く語る。

 身の回りを見れば、携帯電話機やデジタル家電、パソコンと数多くの電子機器がある。宇宙には、先進的な電子技術の固まりである人工衛星が打ち上がる。電子技術はさまざまな場所と分野に広がり、ついには人体そのものに焦点を当てようとしている。これまでは、「宇宙」に関連した分野が、先端技術の研究・開発をけん引してきたが、これからは「ヘルスケアや医療の分野がそれにとってかわる」(同氏)というのだ。「将来、携帯電話機なのか医療機器なのかという境目が分からないような機器が登場する時代がくるだろう」(同氏)。

 第1部では、BANの用途や現在の利用動向、実用に向けた取り組みが活発化している背景をふかんする。BANに向けた無線通信方式には、消費電力の低さが必要不可欠だ。無線端末の現在の動力源が電池だからである(電池を不要にする取り組みについては、p.35の別掲記事「電池不要で利便性高める」を参照)。そこで第2部では、低消費電力を特徴とした無線通信方式に注目する。最後に第3部では、無線センサー・ネットワークのノードを扱う。具体的には、複数社が相次いで製品化した、飲み込むタイプの内視鏡などについて解説する。

第1部 市場動向、社会的な機運が盛り上がる

第2部 無線通信技術、低消費で高信頼性の要求が強い

第3部 医療機器への適用、飲み込み型でBAN活用へ

*1. BANは、人体そのものを通信の媒体とする、いわゆる「人体通信」とは異なる。人体通信では、人体が送信側機器と受信側機器を接続する経路になる。これを使えば、握手をするだけでさまざまな情報を交換したり、ドアに触れるだけで鍵を開けたりといったことが可能になる。例えば、NTTが同社独自の人体通信技術「RedTacton」を採用した機器を製品化済みである。

*2. 河野氏は、横浜国立大学大学院工学研究院の教授と同大学未来情報通信医療社会基盤センターのセンター長、情報通信研究機構(NICT)の次世代ワイヤレス研究センター医療支援ICTグループのグループリーダーを兼任している。

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