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不揮発メモリ新時代(前編)メモリ/ストレージ技術(2/3 ページ)

» 2009年02月01日 10時00分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]

なぜNAND型ではだめなのか

 現在、最も勢いがある不揮発メモリは、HDDをSSDという形で代替しつつあるNAND型フラッシュメモリだろう。書き換え可能で電源を切っても内容が残るいわゆる「ストレージメモリ」としては最も有望だ。2009年初頭には、製造プロセスが34nmにまで微細化が進んでいる。例えば、34nm品は50nm品と比べて記憶容量当たりの製造コストを半減できる。

 微細化に加えて、1つのメモリセルに複数のビット情報を記録する多値化技術を採用することによって、書き換え可能回数は減るものの容量を伸ばしてきた。2008年には東芝と米SanDiskが3ビット品(8値)の出荷を開始し、2009年には両社が4ビット品に適用可能な技術を発表している。

 ただし、NAND型にも微細化に限界がある。DRAMよりは制限が緩いが、「20nm付近に限界があるだろう」(安達氏)。NAND型では浮遊ゲートに電荷を蓄積することで、メモリ素子として機能する。微細化を進めるほど、隣接セル間の浮遊ゲート同士が容量カップリングを起こしやすくなり、誤動作の要因となるからだ。さらに微細化によって蓄える電荷が減ると多値化しにくくなる。

 NAND型固有の欠点もある。書き込み時間が遅く、書き換え回数にも104〜106回という上限があることだ。現在はDRAMと組み合わせて外部からは1つのモジュールとして見せたり、ファイルシステムを工夫することによって、書き換え回数の制限を覆い隠している。しかし、次に説明するように、NAND型の用途が急拡大しつつある現在、このままではNAND型だけでは対応できなくなると考える機器メーカーもある。

 例えば電池で駆動する携帯型機器である。携帯電話機はもちろん、携帯型音楽プレーヤーには数Gバイトのフラッシュメモリが搭載されている。静止画を記録したり、PCからデータをダウンロードして使う場合には現在の容量で十分だ。書き込み時間の長さもあまり問題にはならない。ところが、ワンセグケータイや動画が表示できるiPod、iPhoneが普及する中、携帯電話機メーカーは今後、マルチメディアデータの容量が劇的に拡大すると予測している。例えば、最大320×240画素のワンセグが1920×1080のHDTV(High Definition Television)へ、2D(2次元)コンテンツが3Dコンテンツへという動きだ。さらに、あらかじめ記録したデータを視聴するのではなく、その場で受信し、録画するという使い方が広がりそうだ。大容量で高速書き込み可能な不揮発メモリが必要になる。「ストレージの用途が映像などマルチメディアデータに移っていくにつれ、高速アクセス性と低消費電力性が強く求められるようになる。2010〜2011年の実用化を目指して次世代不揮発メモリの開発を進めている」(シャープ)。

 シャープが選んだ不揮発メモリは、抵抗値の変化を利用してビットを記録するReRAM(Resistive RAM)である。同社がReRAMを推す理由は書き込みが速く、低消費電力で原理的に微細化に向くからだ。

夢の全不揮発化へ

 不揮発メモリへの期待が高い分野がほかにもある。例えば、論理回路とSRAM、フラッシュメモリを一体化したシステムLSIである。100%の回路を24時間常に動作させているシステムLSIはごく少ない。論理回路やSRAMなどを含めたシステムLSI全体を不揮発化できれば、待機時消費電力をゼロに抑え込むことが可能になり、消費電力低減に役立つ(図2図3)。

図2 NECが想定するMRAMマイコンの構成 既存のレジスタ(DFF)とワークメモリとして用いるSRAM、フラッシュメモリ部分にMRAM技術を適用して全体を不揮発化する。MFFにはMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を用いた。
図3 NECが試作したMFFのチップ写真 寸法は3.2mm×1.6mm。4層のCMOSプロセスと5層目の金属配線層の間にMTJ素子を形成し、16段の8ビットのシフトレジスタとして機能させた。250MHzで動作可能とする。

 「例えば文章入力のような低負荷時のPCを例に挙げると、キー入力間隔である100msに比べ、不揮発システムLSIの応答時間は0.1ms以下と小さい。このためキーボードを打つごとにLSIの電源をオン/オフすることも可能だ」(NEC デバイスプラットフォーム研究所で研究部長を務める杉林直彦氏)。同社の試算によると、CPUの平均負荷が10%の場合、不揮発化によってノートPC全体の消費電力を約13Wから約6Wまで58%低減できるという。

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