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不揮発メモリ新時代(後編)メモリ/ストレージ技術(5/5 ページ)

» 2009年02月01日 10時05分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]
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信頼性確保が第一

 ReRAMの課題は2つある。まずは書き換え時に抵抗値が変化する原理を明らかにすることである。これは産業技術総合研究所やパナソニックによる従来のPt(白金)電極からTa(タンタル)電極による置き換えなどの結果により、次第に明らかになってきた。従来は上下の電極間にある酸化物層に何らかの電流導通路を設ける操作(フォーミング)が必要になり、これがReRAMの動作速度の上限を決めるとする意見があった。実際には「導通路の形成のために特別な動作は必要なく、いわゆるフォーミングに相当する動作はnsオーダーで終了する」(秋永氏)という。同氏はTa電極下部に自発形成されるTaO(酸化タンタル)を用いた新素子を試作している。

 もう1点は信頼性である。素子単体の動作ではなく、NAND型フラッシュメモリと同等に集積化した際、信頼性も同等でなければならない。だが、信頼性を評価する段階にも至っていない。

 逆に書き換え回数の向上や多値化は課題ではないという。「106回という現在のReRAMの書き換え可能回数がPRAMのような1012回に向上したとしても、それにふさわしいNAND型フラッシュメモリとは異なる新しい用途が見えない。MRAMとは異なり1016回を実現できそうにないためだ。確かに多値化の潜在能力は高く、NAND型フラッシュメモリをはるかに超える多値化は実現できるだろう。だが、現在は信頼性を高めて用途を確立する段階である」(秋永氏)。

さらに新しい不揮発メモリへ

 FeRAM、MRAM、PRAM、ReRAM以外にもさまざまな不揮発メモリの開発が進められている。以下では比較的最近発見された、メモリ素子に利用できそうな現象を3つ紹介する。

 まず、磁化方向を電流ではなく、電圧(電界)で制御する方式である。これには複数の現象が見つかった。どれもメモリ素子としての安定性が不十分だが、その中でも新しいメモリの原理として応用できる可能性がある2つの方式を紹介する。

 東北大学の方式は図A-1の左に示した構造を採る†3)。(Ga,Mn)As(ガリウム・マンガン・ヒ素)からなる強磁性半導体の薄膜上に比誘電率の高いZrO2(二酸化ジルコニウム)層を形成し、Au(金)とCr(クロム)を積層した電極を載せた構造を採る。強磁性半導体薄膜と電極の間に12Vの電圧を印加することで、強磁性体半導体膜の磁化の方向を10度回転できた。薄膜の面に垂直な方向に電流は流れていない。


図A-1 さらに新しい不揮発メモリへ 左は東北大学の電圧によって磁化の方向が変わる素子の構造を背面から見たところ、出典:英Nature誌の資料を基に本誌が作成 中央は大阪大学が発見した電圧によって磁化が起こる素子の構造、出典:英Nature Nanotechnology誌の資料を基に本誌が作成 右は産業技術総合研究所と船井電機新応用技術研究所が開発したナノギャップスイッチの構造、出典:産業技術総合研究所

 このような現象が起こる理由は、(Ga,Mn)Asが磁化されやすい方向、つまり磁気異方性が材料内部の正孔濃度に依存することに加えて、正孔濃度の分布が電圧の印加によって異なるからだ。(Ga,Mn)Asの荷電子帯は複数の電子の充満帯からなる。充満帯によっては電子のスピンが特定の方向を向いている。このため、電圧を印加して特定の充満帯の影響が外部に現れるようにすると、磁化の方向が変化する。

 大阪大学でも、電圧によって磁化させる試みに成功している†4)。MgO(酸化マグネシウム)基板上に、MgO、Cr、Au、Fe(鉄)、MgO、有機物の高分子であるポリイミドを順に積層し、最上部にITO電極を形成した構造を採る(図A-1 中央)。AuとITOの間に200Vの電圧を印加すると、それまで磁化されていなかったFe層が膜と垂直方向に磁化され、逆方向に電圧を印加すると逆方向に磁化されることが分かった。

 産業技術総合研究所と船井電機新応用技術研究所は、SiO2基板上にほぼ直線をなして平行な約10nmのすきまを挟む1対のAu電極を置き、電圧を印加するだけでメモリ素子として動作する「ナノギャップスイッチ」を集積化するための構造を開発したと発表した。開発した構造を図A-1 右に示す。Au膜とSiO2上のAu層の境界に「ナノギャップ」が形成できた。SiO2層にエッチングでホールを形成し、そこにナノギャップ構造を作り込んだという。

 ナノギャップスイッチは電圧を印加することで、Auなどの原子の位置がずれることにより電極間の距離が原子数個分変化し、トンネル抵抗が変化することを利用した素子。電極間が接近した状態が抵抗値の低いオン状態、離れた状態がオフ状態となる。書き換え回数は105を超え、抵抗変化の信号比は104〜107と高い。書き換え時間は10ns以下である。多値化技術も利用でき、4値までの記録を実証した。


†3) Chiba D.et al,"Magnetization vector manipulation by electric fields", Nature 455, 515-518(2008)

Maruyama T.et al,"Large voltage-induced magnetic anisotropy change in a few atomic layers of iron" ,Nature Nanotechnology online 18 Jan. 2009


FeRAMをマイコンに用いる

 FeRAMはセル面積が大きく、破壊読み出しであるという欠点がありながら、最初に特定用途を切り開いた不揮発メモリである。電流駆動ではなく電圧駆動であることから省電力だという特長を備え、電源を内蔵できない用途、例えば書き換え可能な非接触ICカード向けに大量に採用されている。次の用途も見えてきた。FeRAMを採用したマイコンである。MRAMマイコンと似た用途を想定する。

 富士通マイクロエレクトロニクスは2007年に「FRAMマイコン」としてSRAMのほかにFeRAMを集積した品種のサンプル出荷を開始した。2009年第1四半期には8KバイトのFeRAMを集積した8ビットマイコン「MB95R203」の量産出荷を開始する。同社はFeRAM部分を、SRAMと合わせてRAM領域としても、ROM領域としても使えると主張する。プログラム領域として使うほか、タイマーログの記録やA-D変換の結果を毎秒上書き保存するような用途を想定する。2011年には容量を16Kバイトに増やした品種「MB95Rxxx」の出荷も予定する。

 NAND型フラッシュメモリを内蔵したマイコンと比べ、以下のようなメリットがあるとした。例えば、NAND型フラッシュメモリの場合はRAM領域としては使えないが、FeRAMであれば利用できる。これは書き換え時間がmsオーダーであるNAND型フラッシュメモリと比べてFeRAMでは50n〜100nsと短いからだ。さらにデータの消去中に電源が切断されると、SRAM+NAND型フラッシュメモリという従来の構成の場合、プログラムやデータの保存が間に合わないが、FeRAMではSRAMからデータをコピーする場合でも処理時間が短く、必要な電力が少なくて済むため、電源の切断に強いシステムを構成できるとした。マイコンの消費電力自体も25%削減できるという。

 ただし、MRAMマイコンなどと比べた場合の欠点もある。FeRAMマイコンが0.5MHzで動作した場合、寿命が3年(約1013のアクセス)と短いことだ。



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