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注目集める印刷エレクトロニクス、nano tech 2009が開催プロセス技術 印刷エレクトロニクス(2/3 ページ)

» 2009年03月11日 00時00分 公開
[前川慎光, 畑陽一郎 ,EE Times Japan]

2次電池と1次電池も登場

 NECとドイツFraunhofer Institution for Electronic Nano Systems(ENAS)は印刷技術を用いた電池を出展した。

 NECの展示内容は有機ラジカル*2)の酸化還元反応を利用した2次電池「有機ラジカル電池」である(図3)。エネルギ密度は高出力型のリチウムイオン2次電池の1/2だが、電気2重層コンデンサと同程度まで電流密度が高く取れ、出力に要する時間も短いことが特長である。このような性質を生かして、LEDフラッシュと一体化した機材を展示していた。負極上にセパレータを載せ、その上にゲル状有機ラジカル・ポリマーと、導電補助材となるナノ炭素繊維の混合物を塗布した形を採る。厚さは0.3mm。出力密度は5kW/l(外装を含まない場合は12kW/l)、最大出力は1.8W(3.5V、1A時)、100mAで1万回のパルス放電が可能とした。

図 図3 NECの有機ラジカル電池 上方の3つはカードに組み込んだもの(中央の1つは発光中)。左下は電磁誘導方式で外部から無線充電できるタイプ、右下はLEDフラッシュを左端に付けたタイプである。

 ENASの電池は安価で使い捨て可能なフレキシブル電池とするため、製造には2本のロール間で基材となる樹脂フィルムを送りながら回路を印刷するロール・ツー・ロール(R2R)印刷技術を用いた(図4)。1個当たり数円以下で製造できる。この電池は1次電池であり、廃棄時の環境負荷が低いZn(亜鉛)とMn(マンガン)を使用した。ICカードへの内蔵、経皮投薬する医療機器や皮膚にはり付けるセンサーへの給電、ラボオン・チップ用途、「インテリジェント・ダンボール箱」などに用いる。1セルの電圧は1.5Vで、展示品は直列に接続した4セル品までだったが、5セル以上の接続も可能だという。セル容量は10mAh。37μAの電流を単セルから取り出した際、起電力は150時間後に約1.25V、200時間後に約0.75Vになるという。2009年第4四半期に製品化するとした。

図 図4 ドイツFraunhofer Instituteが開発した1次電池 円形部分が電圧1.5Vの単セル。2枚の基板の間に集電電極、陽極、電解液、セパレータ、電解液、負極、集電電極を挟み込んだ。
*2)ラジカルとはほかの原子と結合する能力がありながら、結合していない電子(不対電子)を持つ原子または分子である。一般に反応性が高く、ほかの原子や分子との間で酸化還元反応を起こして安定な分子やイオンになる。NECの「有機ラジカル」では高分子中に2つのC(炭素)と結合したN(窒素)にさらにO(酸素)が結合した部位が多数存在する。充電前はOがラジカルになっており、充電後はNの電子がOと結びついてNがプラスの電荷を帯びる。

R2Rでディスプレイを製造

 フレキシブル・ディスプレイを印刷で製造する手法の展開も著しい。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、R2R法を用いた3.5インチ型TFT液晶パネルを開発した(図5)。

 フレキシブル・ディスプレイの製造法を確立するために、3種類の技術を開発したという。まずディスプレイに必要な部材の集積化である。フレキシブルではない液晶パネルはTFT回路やカラー・フィルタ、偏光板など最大30層にも及ぶ部材を順に重ねて製造する。R2R法では層の数が少ない方が接着などの点で製造に有利になるため、5層に集約した*3)。5層の内容は、バックライト部材、偏光/位相差部材、TFT基板、カラー・フィルタ、偏光/位相差部材である。層自体の厚みも抑えた。例えば従来のバックライト部材は厚さ1〜1.5mmであり5層で構成されていた。これを厚さ0.26mmの1層に置き換えた。

図 図5 NEDOが開発した3.5インチ型液晶パネル プラスチック基板を用いているため重量は7gと軽く、厚さは0.5mm以下である。1画素を駆動するTFTの幅は254μm。

 2つ目の技術は、複数のロールを組み合わせてパネルを連続一貫製造する手法である。具体的にはカラー・フィルタ・ロールを水平に動かしながら、シール材をその上に描画、次に液晶を滴下する。その後、上方からTFT基板を印刷したロールを載せてはり合わせ、シールを硬化させるというものである。

 3つ目の技術は有機TFTアレイを印刷技術で製造する手法である。印刷に用いる有機半導体材料は移動度が小さい。少しでも移動度を高めるために、まず有機半導体材料の純度を高めた。次にソース-ドレイン間のギャップを短くできるような印刷法を開発したという。製造したTFTアレイの寸法は15cm角である。

 このほか、R2R法では部材の熱膨張によるずれが欠陥を生むため、各部材の熱膨張率をそろえるなどの工夫を盛り込んだ。材料自体の熱膨張率はガラスの熱膨張率の約4倍だという。なお、製造時の温度は最大200℃に抑えた。

 NEDOではR2R法以外にも印刷エレクトロニクスを用いた有機TFTアレイの製造法を確立した。開発目標はA4版のフレキシブル・ディスプレイである。まず、6インチのSi(シリコン)ウエハー上にTFTアレイを描画し、凸版印刷技術を用いた。現在は、凸版印刷を用いず、300mm×400mmのPENフィルム上にナノ銀インクを用いてTFTアレイを形成しているとした。

 千葉大学大学院融合科学研究科小関研究室が開発した「マイクロカプセル化液晶」は、NEDOとはまったく異なるアプローチを採る(図6)。テレビ受像機や液晶ディスプレイではなく、デジタル・サイネージなど広告用ディスプレイを目指した技術である。試作品はアクティブ・マトリクス駆動ではなく、ITO(酸化インジウム・スズ)フィルムとITO蒸着膜の間に液晶層を設け、セグメント表示していた。

図 図6 千葉大学のマイクロカプセル化液晶 液晶を直径20μmの球状カプセルに封入してから印刷によってフレキシブル・ディスプレイを製造する。

 同ディスプレイの特長は、液体状の液晶を封止するのではなく、まず直径2μmの球状マイクロ・カプセルに液晶を封入し、これを偏光板上に印刷するというものである。マイクロ・カプセルを用いることで、封止や液晶の配向処理が不要になるため、大型のフレキシブル・ディスプレイを安価に製造するために役立つとした。

*3)例えばカラー・フィルタのブラック・マトリクスは幅が27μmしかない。この幅に別層のTFTの配線パターンを重ね合わせる必要がある。

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