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全てを包むLED照明、照明の未来は「紫」活用で開くLED/発光デバイス LED照明(6/8 ページ)

» 2009年04月01日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 具体的に、演色性を表す指標である「演色評価数」*1)を比べると、紫色LEDチップを使った場合の平均演色評価数(Ra)は一般に95を超える。「発光スペクトルをうまく設計すれば、Raはほぼ100に達する」(田口氏)。これは、白熱電球や太陽光で照らした場合とほぼ同じ値である。「特殊演色評価数(R9〜R15)も95を上回る」(同氏)。これに対して、青色LEDチップと蛍光体を組み合わせたタイプはRa70程度にとどまる。特殊演色評価数に関しては、赤色の再現性の指標であるR9や、黄色のR10、青のR12、日本人の顔色のR15が60を下回るレベルになってしまうこともある。これらの評価指標の差は、例えば人の肌を照らしたときに、はっきりと視認可能な色の差として表れる。

 もちろん、青色LEDチップを使うタイプでも演色性を高める改良を施したものがある。各社が「高演色タイプ」として売り出している品種で、青色LEDチップに赤色と緑色の蛍光体を組み合わせたものが多い。ただしこのような品種でも、例えばR9やR12が落ち込むなど、演色性の観点から紫色LEDチップを使ったものに軍配が上がる。「演色性を良くしようと青色LEDに赤や緑の蛍光体を組み合わせるとなかなか寿命試験に通らない。吸湿なども起こる。現状では、良い蛍光体が見付かっていない」(ライティング・フェア 2009でのフィリップスエレクトロニクスジャパンブースの説明員)、「青色LEDチップを使った場合は、青色より波長が短い領域の可視光成分が得られない。これでは、可視光全域にわたる連続スペクトルが得られず、照明光源として致命的だと考えている」(田口氏)という指摘もある。

 さらに、青色LED素子が発する放射光をそのまま照明光に使うことに起因した「色むら」が、課題として残る。前述のように、青色LEDチップを使う白色LEDでは、青色LEDチップが放射した青色光をそのまま、照明光に使う。この結果、光がLEDチップの半導体物性の悪影響を受ける。例えば、周囲温度が高くなると青色光の明るさ(光束)がわずかに低下する。ただし、明るさの低下幅は、蛍光体で励起された黄色光と青色光で異なる。この結果、黄色光と青色光のバランスが崩れてしまう。このほか、LEDへの投入電流が増えると、青色光の発光波長が変化してしまい、青色光で蛍光体を励起して得られる黄色光の明るさに影響を与える。これらの現象によって放射光の色合いが変わり、最悪の場合色むらを引き起こす。

 これに比べると、紫色(近紫外線)LEDチップを使う白色LEDでは、可視光全域を蛍光体発光で得ているため、青色LEDチップに比べて、輝度と色度ともに変化量が少ないとされている*2)

*1. 演色評価数とは、ある基準に対して照明光の色再現度がどれだけずれているかを表した指標である。具体的には、評価に使う試験光が日本規格協会(JIS)で規定されており、これと試験対象である照明光それぞれで、色が付いた演色評価色票を照らしたときの、色の見え方のずれを数値化する。色票は、R1〜R15の全15色ある。R1〜R8の演色評価数の平均を「平均演色評価数(Ra)」と呼ぶ。Raの最大値は100で、太陽光や白熱灯で照らしたときRaは100となる。色のずれは、国際照明委員会(CIE)が定めた色度図で評価する。

*2. 近紫外線LEDの利点は、供給電流量を増やすにつれてエネルギ変換効率が下がってしまう「ドループ(Droop)現象」の悪影響が、青色LEDに比べて小さい点もありそうだ。1つのLEDチップで得られる光束量を増やす際に課題となる。「近紫外線LEDは青色LEDよりも材料の『素性』が良い。波長が短いので、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、N(窒素)からなる発光層材料のうち、Inの割合が少ないからだ。青色より短波長側の近紫外線LEDを使う最大のメリットはこの点だ」(名城大学理工学部材料機能工学科教授の上山智氏)。

効率と演色性を兼ね備えた照明へ

 演色性や照明の「色むら」に関して青色LEDよりもメリットがあるにも関わらず、紫色(近紫外線)LEDが現在広く使われていないのはなぜか。大きな理由の1つが、これまでエネルギ変換効率が青色LEDチップに比べて低かったことだ。照明用途に青色LEDチップが普及したのは、高効率化が先行したことが背景にある*3)

 ただし、紫色(近紫外線)LEDの高効率化の研究・開発も、青色LEDの後を追って着々と進んでいる。蛍光体についても、紫色(または近紫外線)に適した品種の開発が進められている。例えば、山口大学の田口氏の研究グループは、研究段階ながらも、変換効率が80〜90lm/Wのレベルに達する白色LEDを開発した(図3)。発光波長が405nmの紫色LEDチップにRGBの蛍光体を組み合わせた。色温度が5322K(ケルビン)の試作品でRa99である。特殊演色評価数はR9〜R15のいずれも95を超える。これまでに比べて、変換効率が大きく向上しており、青色LEDチップを使った高演色型白色LEDに匹敵する数値である。「緑色のスペクトル強度を強くすれば、Raは40〜60に下がるものの、変換効率は150lm/W程度になる」(同氏)。

図 図3 Raが99で変換効率が60〜80lm/W (a)は山口大学の田口氏の研究グループが開発した白色LEDチップ構造の概略図と発光イメージ図である。(b)は発光スペクトル、(c)はこのLEDの各種特性である。出典:山口大学の田口常正氏の資料を基に本誌が作成

 この試作チップで重要な部分は、RGBの蛍光体それぞれを積層したことにある。「積層構造を最適化する制御方法に、我々のノウハウがある。RGB蛍光体を樹脂に混ぜて使う一般的な方法では、なかなか蛍光体部分の損失が減らせない」(同氏)。RとGの蛍光体の変換効率はそれぞれ80%程度、Bの蛍光体は50%程度だという。実用化時期は未定だが、「基礎研究の段階でこれだけの数値が出ていれば、企業が力を入れて開発に取り組めば製品化もそれほど難しくないだろう」(同氏)。今後の展開については、「紫色(近紫外線)LEDチップを使った白色LEDの理論限界効率は300lm/W。まだまだ、変換効率を高める余地は十分にある」(同氏)と語る(図4)。

図 図4 エネルギ変換効率は今後も向上する 紫色(近紫外線)LEDチップを使った白色LEDのエネルギ変換効率の推移である。今後も、変換効率は向上する見込みである。
*3. 山口大学の田口氏は、「エネルギ変換効率と演色評価数の双方を考慮した上で、照明向け白色LEDを評価すべき」と語る。一般に、エネルギ変換効率と演色性はトレード・オフの関係にあるからだ。「演色性とエネルギ変換効率の双方を高めるには、目的とする発光スペクトルをあらかじめ設計して、それに合わせてLEDチップと蛍光体を開発することが重要である」(同氏)。

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