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第1回 楽しいアナログ回路設計Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(1/2 ページ)

「アナログ」という言葉を聞くと「古い」、「時代遅れ」、「頑固親父」なんていう印象を持つ人が多いかもしれません。アナログは「アナクロニズム(時代錯誤)」と語感が似ていることが原因かもしれませんが、アナログ回路の世界は楽しいものなのです。

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]

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 「アナログ」という言葉を聞くと「古い」、「時代遅れ」、「頑固親父」なんていう印象を持つ人が多いかもしれません。アナログは「アナクロニズム(時代錯誤)」と語感が似ていることが原因かもしれませんが、アナログ回路の世界は楽しいものなのです。本連載では、これからアナログ回路設計に携わる方などを対象に、アナログ回路の役割や重要な要素回路の動作などを説明します。アナログ回路設計の楽しさを多くの方に分かって頂けると、減少する一方のアナログ回路設計者が少しでも増えるかなと思っています。1回目の今回は、アナログ回路の役割や回路設計の全体像を紹介します。

アナログは無くならない

 「アナログ(analog)」の語源は、「analogy(類似性)」だと言われています。ここでは、アナログという言葉を「連続している」という意味で使うことにします。アナログ回路では、扱う信号の状態変化が不連続になることはありません。

 今では身の回りにある電子回路の多くがデジタル化されて、アナログ回路を見つけるのが難しくなりつつあります。しかし、アナログ回路が無くなることはありません。それは、自然界に存在する信号や人間が扱える信号がアナログだからです。地上デジタル・テレビ放送でも電波そのものの振幅はアナログ的に変化しますし、携帯型音楽プレーヤがスピーカから出力する「音」もまたアナログ信号です*1)。デジタル放送に対応した薄型テレビであっても、液晶パネルを駆動する最後の段にはアナログ回路が使われています。ゲーム機「Wii」のリモコンには、ユーザーの操作を検出するセンサーが入っています。センサーにはアナログ回路が必要です。さらには、デジタル回路を構成するトランジスタは、回路全体が「0」から「1」に変化している最中にも、アナログ的に動作しています。仮に、アナログと呼ばれる回路が無くなったとしても、アナログ的な動作をする部分は必ず残るはずです*2)

*1) 最近では、スピーカをデジタル信号で駆動する技術が登場したようです。しかし、空間を実際に伝わる音波はアナログ信号です。

*2) デジタル化が進むからこそ、さらに高い性能を実現するのであれば、連続したものを扱うというアナログ的な考え方が必要になってくると考えています。例えば、自動車のハンドルには「遊び」があって、人間が少し間違った操作をしてもすぐには自動車が反応しないようになっています。この遊びがなくてすぐに自動車が反応してしまう、すなわち、0から1の状態へ急激に変化してしまうと、運転者は緊張の連続で疲れてしまうでしょう。

自然界が見本

 一般に、アナログ回路設計は難しい、理解しにくいと思われがちです。でも、身の回りには「自然」という非常に優れたお手本があります。自然現象の中には、アナログ回路の挙動を理解する手助けとなるものが数多くあるのです。

 いくつか例を挙げましょう。「インピーダンス整合」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。高周波信号の伝送路のインピーダンス(「特性インピーダンス」と呼びます)と、同じインピーダンスの電子部品を伝送路端に取り付けて、インピーダンスを整合させます。そうすると、伝送路を伝わる高周波信号は、伝送路がずっと続いていると「錯覚」して反射しません。高周波回路では、インピーダンスが整合(マッチング)していないと、送りたい高周波信号が「反射」してしまい、効率良く伝送できなくなってしまいます。信号波形も歪みます。

図1 図1 自動車のブレーキに相当するダンピング抵抗 信号が基準を超えて振動してしまうオーバー・シュートを抑えるために、自動車のブレーキに相当するダンピング抵抗を入れて調整します。

 同様の現象は自然界にいくつか存在します。環境が急に変わると嫌がって元の道を戻ってしまうのは、何となく動物と一緒です。また、山頂で「ヤッホー」と大声を出したとき、この声が向こうの山に当たって反射して戻ってくるのは、空気と山の性質が異なるからです。キャッチ・ボールで速い球を受けるときに、少しだけグローブを引くのは無意識にインピーダンスを整合させているのです。

 ほかにも例はあります。「車は急に止まれない」と言います。勢いよく動いているものは、急には止まれません。アナログ回路でも同じです。電気信号も急に止まれないので、信号が基準を超えて振動してしまう「オーバー・シュート」や遅延といった現象が起こるのです。車を目的の位置で止めるには、目的位置よりも少し前でブレーキをかけます。荷物の重さに応じて、ブレーキのかけ方を変えることが必要です。アナログ回路でも例えば、負荷(荷物)の大きさに応じて、ダンピング抵抗(ブレーキ)の値を調整します(図1)。

 筆者は、アナログ回路は自然の真似をしているだけに過ぎないのでは、と思うことが多くあります。異なるのは扱うスケール(尺度)だけではないでしょうか。自然現象とアナログ回路の内部の現象は、同じような原理原則に基づいた密接な関係にあり、両者はまさに「連続している」と感じています。

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