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直接A-D変換方式で帯域幅32GHz、アジレントがハイエンドのリアルタイム・オシロを投入テスト/計測 オシロスコープ

» 2010年04月28日 18時08分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 アジレント・テクノロジーは、リアルタイム・サンプリング型ハイエンド・オシロスコープを拡充し、新たに「Infiniium 90000 X」シリーズの販売を開始した(図1)。同社の「Infiniium 9000」や「Infiniium 90000 A」に続く新シリーズで、周波数帯域幅が最大32GHzと極めて広いことが最大の特長だ。「最大32GHzの周波数帯域幅は業界初」(同社の代表取締役社長である梅島正明氏(図2))。

 「見たい信号が正確に見える」

 競合他社も、周波数帯域幅が広いことを訴求したリアルタイム・オシロスコープを市場に投入している。具体的には、米Lecroy社が周波数帯域幅が最大30GHzの機種、米Tektronix社が最大20GHzを製品化している。これらの機種との違いは、アナログ信号を直接、A-D変換処理して取り込んでいることにある。

図1 図1 周波数帯域幅が最大32GHzのリアルタイム・オシロスコープ
サンプリング速度は最大80Gサンプル/秒(2チャネルの信号を取り込むとき)で、波形メモリーは最大2Gポイント。雑音フロアは2mV(32GHz幅対応機種で、50mV/divのとき)、ジッター測定フロアは180f(フェムト)秒以下とする。周波数帯域幅が16GHz〜32GHzの範囲で10機種を用意した。購入後、製品の差額分を支払うことでアップグレードが可能である。
図2 図2 新シリーズの位置付けを説明するアジレント・テクノロジーの梅島正明氏
同社の代表取締役社長を務めている。
図3 図3 採用した技術を説明する米Agilent Technologies社のJun Chie氏
同社オシロスコープ事業部のマーケティング部長を務めている。

 競合他社の機種では、アナログ信号をダウン・コンバートした後、デジタル信号に変換する周波数インターリーブ処理を採用したり、アナログ信号からデジタル信号に変換した後にDSPを使った補正処理を施したりすることで、周波数帯域幅を広げている。しかし、周波数インターリーブ処理方式には、ダウン・コンバートする回路ブロックで雑音が混入してしまうという課題がある。また、DSPを使った補正処理では、測定したいアナログ信号だけではなく、雑音のレベルも高めてしまうという課題があるという。

 アナログ信号を直接、A-D変換処理して取り込めば、雑音フロアを低く抑えられ、周波数応答をフラットにできるとする。米Agilent Technologies社のオシロスコープ事業部のマーケティング部長であるJun Chie氏(図3)は、新シリーズの報道機関向け製品説明会で「ハイエンドのリアルタイム・オシロスコープに最も必要なことは、見たい信号を正確に見られること。これに勝負が掛かっている」という言葉を何度も繰り返した。「見たい信号を正確に見る」には、直接A-D変換処理方式の採用が不可欠だったとの考えである。「これまで、直接A-D変換処理をして取り込める上限の周波数帯域幅は16GHzだった」(同氏)。

 InP材料の専用ASICを開発

 周波数帯域幅が32GHzと極めて広帯域のアナログ信号を忠実にA-D変換処理するには、A-D変換処理するまでのアナログ回路ブロック(アナログ・フロントエンド)の作り込みが重要になる。「A-D変換処理するまでにアナログ信号をひずませないこと。これに特性の良しあしがかかっている」(Jun Chie氏)。

 そこで今回、アナログ信号を取り込むタイミングを調整し、取り込んだアナログ信号の振幅レベルを変える役割のアナログ・フロントエンドに向けて、新たなマルチ・チップ・モジュールを開発した(図4)。プリアンプ用ASICとトリガ用ASICをそれぞれ2つと、サンプラ用ASICを1つで構成しており、2チャネル当たり1つのモジュールを使う。「当社は、製品ラインナップに、ハイエンドのスペクトル・アナライザやネットワーク・アナライザを有しており、これらの製品群にも開発した専用ASICを利用できる」(同氏)ことから、新たな専用ASICの開発に投資する価値があると判断したという。

図4 図4 新たに開発したアナログ・フロントエンド用マルチチップ・モジュール
インジウム・リン(InP)材料のトランジスタを使った。また、チップ間の干渉や外部からの雑音の混入を防ぐパッケージング技術にも特長がある。

 今回の専用ASICには、インジウム・リン(InP)材料のヘテロ接合バイポーラ・トランジスタ(HBT)を採用している。これによって、トランジスタのブレークダウン電圧とスイッチング周波数に対する要求を満たしたという。同社従来機種に採用していたASICには、ガリウム・ヒ素(GaAs)材料のトランジスタを採用していた。また、トランジスタの製造技術だけではなく、外部からの雑音の混入を防ぎ、チップ間の干渉を防ぐパッケージング技術にも独自の工夫が施していると説明した。

 雑音とジッタも業界最小レベル

 雑音フロアは2mV(32GHz幅対応機種で、50mV/divのとき)、ジッター測定フロアは180f(フェムト)秒以下である(図5)。「広帯域化すると雑音フロアやジッタ測定フロアが高くなってしまうという問題がついてまわるものの、新シリーズでは、雑音フロアとジッタ測定フロアも小さい」(Jun Chie氏)。サンプリング速度は最大80Gサンプル/秒(2チャネルの信号を取り込むとき)。波形メモリーは最大2Gポイントである。

 周波数帯域幅が16GHz〜32GHzの範囲で10機種を用意した。出荷開始時期は2010年7月を予定している。32GHz幅対応機種の販売価格は、3436万4000円(税抜き)である。

 なお、付属プローブの周波数帯域は30GHz、プローブに接続する計測用アクセサリの周波数帯域は28GHzである。43種類のアプリケーション・ソフトウエアも用した。

図5 図5 アイ・パターンを比較した
競合他社のリアルタイム・オシロスコープの結果(右下)と、アジレント・テクノロジーの新シリーズのアイ・パターン(左上)を比較した。雑音フロアやジッタ測定フロアが小さいことが、アイ・パターンに現れていると説明した。また、周波数帯域幅が広ければ、急峻(きゅうしゅん)な立ち上がりの信号を正確に測定できることになる。

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