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» 2010年05月13日 00時00分 公開

ワイヤレス給電の次なる課題、「電源ケーブルが消える日」はくるかワイヤレス給電技術 共鳴方式(5/6 ページ)

[前川慎光,EE Times Japan]

第2部 理論は帯域通過フィルタそのもの

 第2部では、2010年3月に開催された電子情報通信学会 総合大会で公開された共鳴型ワイヤレス給電技術に関する発表の中から、技術進展の観点で特に興味深かったもの2つを中心に紹介する。

 1つは、「MIT型ワイヤレス給電システムの精密な設計法」と題するもので、龍谷大学理工学部電子情報学科の教授である粟井郁雄氏が発表した(発表番号は「BS-9-6」)。

 送電側/受電側コイルの線間キャパシタンスやグラウンドに対するキャパシタンスも含めた忠実な等価回路を作成し(図1)、この等価回路を解析した。そうすることで基本的な設計理論を、明確に説明した点に意義がある*1)。第1部で取り上げた最終機器が世の中に登場するまでの3つの段階のうち、(1)の「基本的な設計手法の確立」に関連した発表である。

図 図1 共鳴型ワイヤレス給電システムの等価回路  (a)は、第1部の図3を極力忠実に反映させた等価回路。CgとClはループ・コイルのキャパシタンス、C0はヘリカル・コイルの線間キャパシタンス、Ceはヘリカル・コイルのグラウンドに対するキャパシタンスである。Mは、ヘリカル・コイル間の相互インダクタンス、L0はヘリカル・コイルの自己インダクタンスである。(b)は、(a)を簡略化した等価回路。この等価回路を基に、共鳴型ワイヤレス給電システムの挙動を解析的に理解する。

 米Massachusetts Institute of Technology (MIT)が2006年と2007年に発表した論文では、インダクタンスやキャパシタンスといった集中定数で送電側/受電側コイルを表現するのではなく、電磁波の波動性を考慮した「モード結合理論」を使って、共鳴型ワイヤレス給電技術を説明していた。これに対して同氏は、「(簡単な)料理を作るのに、まるで牛刀を使うような大げさなもの」と疑問を呈した。利用する周波数がそれほど高くないので、電磁波の波動性を考慮したモード結合理論を使わずとも、うまく現象を説明できるという指摘である。

*1. 図1(a)の送電側コイルと受電側コイルの結合部分は、インダクタンス成分のみで表現しているが、今後はキャパシタンス成分も考慮する必要があるかもしれない。龍谷大学理工学部の粟井氏の最近の研究成果によれば、「コイルを使ったとき、磁気結合成分のみを考慮すればよいかというとそうでもない。(キャパシタンス成分で表現する)電界結合成分も無視できないほど大きいようだ」という。

フィルタ理論を生かせる

 等価回路を考察した結果から粟井氏は、「共鳴型ワイヤレス給電システムとは何ぞや」という疑問に対して「まさに、2段構成の帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)そのもの」と説明した。BPFについては、古くから研究が続けられており、膨大な知見が蓄積されている技術である。設計指針も明確だ。このBPFの設計指針を、共鳴型ワイヤレス給電システムの設計に最大限生かせるというのが同氏の考えである。

 また、MITが実証実験で使った第1部の図1の構成に対して同氏は、「実に巧妙な方法」とも説明した。すなわち、送電を担当するスパイラル・コイルに対して、高周波電源からわざわざループ・コイルを介して電力を供給し、受電を担当するスパイラル・コイルからループ・コイルを介して電力を負荷に伝えるという構成のうち、ループ・コイルを使ったことが「巧妙」と説明したゆえんである。

 具体的には、送電側/受電側コイル間の相互インダクタンスや負荷が変わったときにも、スパイラル・コイルや高周波電源の部分は調整せずに、送電側または受電側のループ・コイルのパラメータを変えるだけで、最適な状態(高い伝送効率)を維持できるとする。ループ・コイルを一種の「トランス(変圧器)」と考えれば、インピーダンス変換を担当させたことを意味する。

 例えば、図1(b)において、送電側ループ・コイルの自己インダクタンスをLg、送電側スパイラル・コイルとの相互インダクタンスをMgとする。一方の負荷側ループ・コイルの自己インダクタンスをLl、受電側スパイラル・コイルとの相互インダクタンスをMl、電源抵抗をRg、負荷抵抗をRlとすると、以下の関係が得られる。

 関係式(1)から、負荷抵抗に応じて、負荷側ループ・コイルの最適なインダクタンスを決められる。

 なお粟井氏は、マイクロ波帯高周波回路や電磁界理論などの研究活動を長年進めており、これまでの研究の知見を共鳴型ワイヤレス給電技術に適用した。発表会場での質疑応答や、発表後の議論で興味深かったのは、「マイクロ波帯フィルタ分野の過去の議論と、まったく同じ討論をしている」、「昔の研究会を、再びやり直しているようだ」という会話があったことだ。今後、これまでの技術蓄積を活用した研究開発が進むだろう。

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