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ルネサスがマイコンの統合で一歩前進、SoCやパワー半導体の成長戦略も明らかにビジネスニュース 企業動向(1/2 ページ)

マイコンの製造コストを抑え、統合のメリットを出すための方策を明らかにした。旧2社の微細化世代ごとの製造プロセス技術を一本化するほか、マイコンの周辺回路を共通化し、ソフトウェア開発環境を統合する。

» 2010年10月01日 11時00分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]

 ルネサス エレクトロニクスは、2010年9月、同社の4つの事業部について個別の事業説明会を相次いで開催し、今後の製品展開の方針を発表した。いずれも2010年4月1日に旧NECエレクトロニクスと旧ルネサス テクノロジが統合した後、両社の強みを引き出し、成長分野を選び出す「100日プロジェクト」の検討結果に基づく。

 同社はマイコン(MPU事業本部)とSoC(SoC第一事業本部、同第二事業本部)、アナログ・パワー半導体(アナログ&パワー事業本部)の3つの事業を柱としている。2010年度の全社の半導体売上高は1兆900億円を見込む。それぞれの事業が売上高の37%、32%、31%を占める。同社は、2012年度までに売上高比で営業利益率2けたを目指している。そのためには3本柱を全て伸ばし、利益率の低い部門から高い部門へ投資を再配分する必要がある。

 SoCやアナログ・パワー半導体では、旧2社の重複が比較的少なく、統合のメリットを享受しやすい。ただし、マイコンの統合では似たような用途に向けたマイコンコアをどのように切り分け、今後の成長につなげるかががカギになっていた。

マイコンの重複を回避

 同社は、旧2社のマイコンコア5つを全て残し、今後もそれらに投資し続けることを2010年7月に表明している(関連記事「ルネサス、5つのプロセッサコアへの投資は減らさず」)。マイコン全体を処理性能などに応じてハイエンド(「V850」と「SuperH」)、ミドルレンジ(「RX」)、ローエンド(「78K」と「R8C」)の3つのカテゴリに分けた。

 今回明らかにしたのは製造コストを抑え、統合のメリットを出すための3つの方策だ。具体的には、旧2社の微細化世代ごとの製造プロセス技術を一本化する他、マイコンの周辺回路を共通化し、ソフトウェア開発環境を統合する。

ALT 図1 マイコンの製造技術を世代ごとに一本化 旧2社の6つの製造技術を3つに集約し、それぞれにマイコンコアを割り当てた。

 旧NECエレクトロニクスは統合以前には40nmと90nm、0.13μmの製造技術を用い、旧ルネサス テクノロジは55nmと90nm、0.15μmの製造技術を使っていた(図1)。

 今後は、高速高性能をうたう大規模なフラッシュマイコン製品に40nmと90nmの製造技術を使う。V850やSuperH、RXに適用する。R8Cや78Kを内蔵する低価格で低消費電力をうたう中小規模のフラッシュマイコンには、0.13μmの製造技術を使う。

 さらに、Al配線を使った0.13μmの製造技術は旧NECエレクトロニクスの方式に集約し、Cu配線を使用した90nmの製造技術には旧ルネサス テクノロジの方式を利用する。サンプル出荷開始を2012年に予定する40nmの製造技術を適用した製品では、旧2社の技術を組み合わせる。旧NECエレクトロニクスの製造技術を基本とし、旧ルネサス テクノロジの高誘電率(high-k)/金属ゲート技術を加える。40nm品の主な用途はハイエンドの車載機器だ。

ALT 図2 マイコンの開発期間を2/3に短縮 マイコンを構成するコアやメモリ、周辺IPをどのように組み合わせても動作するようにしておき、必要な部品を選ぶだけで所望のマイコン製品を設計できるようにする。

 2番目の方策であるマイコン周辺回路の共通化では、同社の新規のマイコン製品の開発期間短縮をもくろむ。旧2社がそれぞれ利用していた開発プラットフォームを持ち寄り、「MCU設計プラットフォーム」としてまとめた。これを使うことでマイコンチップの開発期間を従来の2/3に短縮できるという(図2)。コアと内蔵メモリ、周辺機能部品を選ぶだけでマイコン製品が完成する仕組みである。ただし、コアやメモリなどを製造技術の世代ごとに最適化し、あらかじめ同社内で検証を施しておく必要がある。

 3番目の方策であるソフトウェア開発環境の統合では、マイコン上で動作するソフトウェアをユーザー企業が開発する際の負担を減らす。マイコンが異なっても同一の統合開発環境(IDE)を利用できる他、デバイスドライバソフトウェアも共通化する(図3)。「当社は開発環境やドライバソフトウェア、各種共通周辺IPを提供することで、どのマイコンを利用しても同じソフトウェアが利用できるようにする。ARMコアを採用しているマイコンメーカーは多数あるが、当社のように同一のツール、同一のIPが使えるようにはなっていないため、ソフトウェアの共通化は難しいだろう」(同社 執行役員 兼 MCU事業本部長の水垣重生氏)。

ALT 図3 ソフトウェア資産をより広い範囲で利用可能に どのマイコンコアを使ったとしてもユーザーは同じツールでソフトウェアを開発できる。例えば操作パネルに触れたことを検出する機能を実装する場合、マイコンコアが異なっていても同じ周辺IPを利用できる。

 以上のような方策を進めることで、2010年度から2012年度まで年平均成長率8%〜10%を維持するという。国内向けはほぼ横ばいであり、中国を中心とした海外向けで成長すると説明した。

SiCパワー半導体を2011年度に製品化

 パワー半導体事業では、パワーMOSFET市場が年率10%以上で成長するという予測に基づき、2012年度までにパワーMOSFETを570品種投入するとした(関連記事「ルネサスがパワー半導体事業を強化、2012年度までに約1000品種を開発へ」)。MOSFETはアナログ&パワー事業本部の売上高の1/4を占めており、耐圧150V以下の品種に限れば、2009年度の世界シェア1位であるが、さらに強化する方針だ。

 Si(シリコン)の次を担うパワー半導体として注目を集めるSiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)についても計画を明らかにした。

 「SiCはまず来年度中にショットキバリアダイオードを製品化する」(同社 執行役員兼アナログ&パワー事業本部長を務める宮路吉朗氏)。狙いはオン抵抗の引き下げにある。「家電製品に内蔵するための品種は2012年度に製品化し、2013年度以降に車載向けを製品化したい」(同社 アナログ&パワー事業本部パワーデバイス事業部長を務める青木勉氏)という。

 旧NECエレクトロニクスが研究開発を続けてきたGaNはパワー半導体ではなく、高周波スイッチング用のFETとして早ければ2011年度中に製品化する。パワー半導体用途ではMOSFETを開発中であり、PCやサーバなどに向けるとしたものの、製品化時期は未定だという。

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