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「これが次世代のスピーカーの姿」、デジタル駆動型が2011年にも登場かオーディオ処理技術 スピーカー(1/2 ページ)

一般的なスピーカーではオーディオ信号の振幅変化に対応したアナログ信号を入力するのに対して、デジタル駆動のスピーカーにはデジタル信号を入力する。

» 2010年11月17日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 「フルデジタルスピーカー」と呼ぶ、従来とは駆動方法が大きく異なるスピーカーの製品化時期が近づいてきた。

 一般的なスピーカーではオーディオ信号の振幅変化に対応したアナログ信号を入力するのに対して、デジタル駆動のスピーカーにはデジタル信号を入力する。トライジェンスセミコンダクター(Trigence Semiconductor)は、デジタル駆動スピーカーの設計手法を2008年に発表し、実用化に向けた取り組みを進めてきた。

 発表当初は、既存の機器に使われているスピーカーに比べて音質が良くないといった課題があったものの、この2年間で状況は大きく変わった。音質が大幅に向上したことに加え、デジタル駆動スピーカーを実現する独自のデジタル信号処理「Dnote」向けLSIのサンプル提供を開始した(図1)。

 同社の取締役兼開発部長を務める岡村淳一氏(図2)は、「当社の技術を使えば、機器メーカーは今すぐにでも、デジタル駆動スピーカーを商品化できる段階だ」と意気込む。

図1 図1 デジタル駆動スピーカーのリファレンスボード USB給電のスピーカシステムに組み込んだ様子。裏面を示している。リファレンスボードは、6コイル型スピーカーを駆動するDnote処理用LSIを2つと、インタフェース回路などで構成している。Dnote処理用LSIは、手前に2つ並んだチップである。2011年の早い段階には、USBインタフェースまたは、I2Sインタフェースを集積した品種の提供も開始する予定だ。

 デジタル駆動スピーカーは、iPodやiPhoneなどのドッキングステーション型スピーカーステムのほか、ノートPCやデジタルテレビに使うスピーカーなどに幅広く使える。Dnote処理用LSIのほか、USB給電のスピーカーシステム用のリファレンスボードも用意した。現在、LSIの量産に向けた準備を進めているという。「LSIが入手できるようになれば、すぐに商品化を計画したいという企業はいくつかある。2011年中には、いくつかの製品が発売されることを期待している」(同氏)。

図2 図2 トライジェンスセミコンダクターの取締役兼開発部長を務める岡村淳一氏(左)と、同社の戦略営業担当の落合興一郎氏(右) この2年間で、スピーカー本体やスピーカー筐体、評価用基板を手掛ける企業との協業体制を構築できたことも大きな進展だという。これまでは、音質を向上させるために、主にDnote処理用LSIの改善を進めてきた。スピーカーそのものをDnote処理に最適化することで、さらに音質の向上が見込めるという。

スピーカシステムの消費電力が1/4に

 デジタル駆動スピーカーは、永久磁石と振動板、コイルで構成しており、一般的なダイナミック型スピーカーと何ら変わらない。ただ、一般的なスピーカーと異なり、複数のコイルが必要である。オーディオ信号の振幅の大小に合わせて、通電するコイル数を高速に増減し、音を空間に放射する*1)。必要なコイル数は、例えば、USBバス給電のスピーカーシステムであれば、6コイル程度でよい。

*1)複数のスピーカーを使ったマルチスピーカーシステムの開発も進めていた。現在は、マルチコイル型のピーカーを中心に、開発を進めている。

 それぞれのコイルは、(1)通電している、(2)通電していないという2つの状態だけを採る。オーディオ信号の振幅の変化に合わせて、通電の状態を高速に変える。このとき、通電している状態が「オン」、通電していない状態が「オフ」と考えると、デジタル的に動作していることになる。これが、フルデジタルスピーカーと呼ぶゆえんである。

 デジタル駆動スピーカーの最大の特徴は、消費電力が低いことだ。「デジタル駆動スピーカーを評価した企業によれば、同等の音量・音質で比較して消費電力をおよそ1/4に減らせるという結果を得た。1週間だった電池の寿命を、1カ月に延ばすことが可能だ」(岡村氏)という。

 消費電力を削減できる理由は、オーディオ信号の振幅の大小に合わせて、通電するコイル数を変化させるからに、ほかならない。その時々のオーディオ信号に必要なだけの電力消費だけですむ。

 現在、スピーカーを駆動するには、D級アンプICを使うのが一般的だ。D級アンプICのデジタル出力を外付けのフィルタでアナログ信号に変換した後、スピーカーに入力する。D級アンプICには、変換効率が高いという特徴があるものの、出力電力が低い領域ではどうしても変換効率が低下してしまう。結果、消費電力も増えてしまう。デジタル駆動スピーカーは、D級アンプICとは異なり、オーディオ信号の振幅の大小によらず消費電力を削減できるというわけだ。

 このほか、デジタル駆動スピーカーは、スピーカーシステムのコスト削減にも貢献する。例えば、USB接続のスピーカーシステムでは、ある程度以上の音量を確保しようとすると、オーディオ信号とは別系統でACアダプタを使って電力を供給する必要がある。「デジタル駆動スピーカーを使えば、音量や音質を損なうことなく、ACアダプタを不要にできる」(同氏)という。

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