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「分厚いデータシートに別れを告げよう」、センサー用アナログ設計をナショセミが簡略化アナログ設計

アナログ半導体の大手メーカーであるナショナル セミコンダクターは、センサー用アナログフロントエンドを短期間で簡単に設計できる仕組みを用意した。

» 2011年01月25日 14時27分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 センサーを利用する電子機器では通常、センサーが捉えた情報をマイコンで処理することで機器の動作に反映させる。各種ブリッジセンサーや温度センサーなど、アナログ出力のセンサーを使う場合は、センサー出力をそのままマイコンにつなぐことはできない。センサーの出力信号をアンプで増幅し、A-D変換器ICを介してデジタル信号に変換してマイコンに供給するアナログ信号処理回路(いわゆるアナログフロントエンド:AFE)を設計する必要がある。

図1 図1 ナショナル セミコンダクターのJames Ashe氏 プレシジョン・シグナルパス・ディビジョンのバイス・プレジデントを務める。

 ただしこれは、それほど簡単な仕事ではない。「センサー選びから始まって、分厚いデータシートを眺めながら部品を選んで回路全体の性能を見積もり、次はプリント基板のレイアウトや組み立て、設計検証と続く。そして試作にこぎ着けるまで、全体では数週間から場合によっては数カ月を要する作業だ」(ナショナル セミコンダクターでプレシジョン・シグナルパス・ディビジョンのバイス・プレジデントを務めるJames Ashe氏)(図1)。

 課題は設計期間だけではない。そもそも、アナログフロントエンドを設計できるエンジニアが社内にいないという企業もある。「電子機器のデジタル化が進展しており、アナログ設計者の減少が続いている」(ナショナル セミコンダクター ジャパンでモバイルセグメント&プロダクトマーケティング本部の部長を務める安西一郎氏)といった背景がある。

アナログフロントエンドの設計作業を「数分まで短縮」

図2 図2 センサAFEシステム アナログフロントエンドLSIと、その自動設定を担うオンライン設計ツール、実機での性能評価に向けたテストボードで構成するシステムである。

 そこでアナログ半導体の大手メーカーであるナショナル セミコンダクターは、センサー用アナログフロントエンドを短期間で簡単に設計できる仕組みを用意した(図2)。「センサAFEシステム」と呼ぶ。このシステムを利用すれば、「分厚いデータシートを読み込んで、詳細な計算を手作業で行う必要は無くなる」(James Ashe氏)。設計の所要時間については、わずか数分に短縮できるという。

 センサAFEシステムは、3つの要素で構成する。1つ目はアナログフロントエンドを構成する基本回路をまとめて集積したLSI、2つ目はオンライン設計支援ツール、3つ目は評価環境である。以下、それぞれについて詳しく説明しよう。

 1つ目のアナログフロントエンドLSIは、対応するセンサーの種別が異なる2品種を用意した。1つは各種の温度センサーやブリッジセンサーに対応する「LMP90100」、もう1つは有毒ガスの検出などに使う電気化学センサーに対応する「LMP91000」である。いずれの品種も、接続するセンサー個々の特性に合わせて、LSIに集積した回路の特性を調整する機能を備えている。

 例えば温度/ブリッジセンサー用のLMP90100は、8チャネルのアナログ入力を備えており、4本の差動入力もしくは7本のシングルエンド入力として使える(図3)。LSI内部では、これらの複数の入力から1本をアナログマルチプレクサで選択し、プログラマブル利得アンプ(PGA)に供給して増幅してから、24ビットのΔΣ型A-D変換器に入力してデジタル信号に変換する仕組みだ。こうして取得したデジタル信号は、SPIインターフェイスを介してアナログフロントエンドLSIに直結したマイコンに送信できる。特定品種のセンサーの特性や、アナログフロントエンド全体として求められる特性に応じて、PGAの利得とA-D変換器のサンプリング周波数を調整することが可能だ。さらに、外付けするセンサーの励起用電流源や参照電圧源も集積しており、それらの特性も調整できる。実際には、マイコンからSPI経由でLSI内部の設定用レジスタの値を変更することで特性を調整する。

図3 図3 ブリッジセンサー向けのアナログフロントエンドLSI 新製品のアナログフロントエンドLSI「LMP90100」を使った回路構成の例である。LSI内部では、青色で示した入力部と、赤色のアナログ信号処理部、緑色のサンプリング速度設定部それぞれの特性を調整できる。使用するセンサー個々に合わせたアナログ信号処理を、ユーザーが手元で実装可能だ。

 2つ目のオンライン設計支援ツールは、「WEBENCH AFE Designer」と呼ぶ。同社が従来からウェブサイトで無償提供していたオンライン設計ツール群「WEBENCH」を拡充し、新たな機能として追加した。前述のアナログフロントエンドLSIに対応する。ユーザーが使用したいセンサーの種別と品種を指定すると、WEBENCH AFE Designerはそのセンサーの特性に応じて、アナログフロントエンドLSIが内蔵する各回路の特性を自動的に調整し、その設定で得られる回路全体の性能を見積もって表示する仕組みだ。センサーの特性情報については、ナショナル セミコンダクターがあらかじめライブラリ化して登録してある(図4)。現在のところ200品種以上がライブラリ化済みだという。ライブラリ化されていない品種でも、ユーザーがこれらの特性情報をツールに入力すればカスタム品として登録でき、そのカスタム品に合わせてアナログフロントエンドLSIを調整可能だ。

 なお同社は従来から、センサー信号処理向けのオンライン設計支援ツール「WEBENCH Sensor Designer」を提供していたが、これは個別ICとして提供されている同社のアンプICとA-D変換器ICを組み合わせてアナログフロントエンドの推奨回路を自動的に構成するツールだった。

図4 図4 センサーを種別とメーカーで絞り込む 「WEBENCH AFE Designer」ではまず、使用するセンサーの品種を指定する。熱電対や圧力センサー、ロードセルなどの種別を選び、次に特定のメーカーの特定の品種を指定すればよい。市販のセンサーが数多くあらかじめライブラリ化されている。

 今回のセンサAFEシステムの要素の3つ目は、前記2つの要素で作成したアナログフロントエンド回路を評価する環境で、アナログフロントエンドLSIを実装した評価ボードと評価ソフトウエアからなる。評価ボードにセンサーを取り付けるとともに、評価ソフトウエアが稼動するPCをUSBインターフェイスで接続して使う。オンライン設計支援ツールで生成した設定情報を評価ボード上のアナログフロントエンドLSIに書き込んで、実際の回路全体の性能を実機で評価できる(図5)。

 アナログフロントエンドLSIは2品種ともに出荷を開始している。LMP90100は28端子TSSOP封止品の1000個購入時の単価が4.95米ドル。2012年には、医療機器などに向けて性能を高めた品種を投入する計画だという。WEBENCH AFE Designerは2011年1月25日に提供を始める。ユーザー登録が必要だが、無償で利用可能だ。

図5 図5 性能の実機評価も可能 評価ソフトウエアは、オシロスコープモードを備えており、横軸に時間(サンプル数)をとったグラフ上に、実際の計測データを表示させることができる。

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