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第27回 n型MOSFETにp型追加して利得向上Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)

» 2011年03月10日 17時32分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]
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 図2(a)は、本連載の第26回に紹介した増幅回路に、能動負荷としてp型MOSFETを追加した回路です。p型MOSFETのVgsを、n型MOSFETのVgsと同じにするために、R1を11kΩ、R7を39kΩに設定しました。図2(b)は、p型MOSFETを追加した増幅回路の小信号特性です。利得は前回の20dBより大幅に高くなり、38dBとなりました。一方で、利得を高められたのと引き替えに、高域遮断周波数は、800MHzから40MHzに下がっています。

図2 図2(a) 能動負荷としてp型MOSFETを追加 p型MOSFETを追加した回路図です。
図2 図2(b) 能動負荷としてp型MOSFETを追加 周波数特性です。赤色の線は入力電圧を示しています。

 続いて、過渡解析に移ります(図3)。入力信号には、周波数が100MHzの正弦波を使いました。0.1Vppと0.2Vpp、0.4Vpp、0.6Vpp、0.8Vpp、1.0Vppと振幅を大きくした正弦波信号を入力しています。

 

 振幅が0.1Vと小さい場合、位相の遅れが顕著です。これは小信号特性の高域遮断周波数(およそ40MHz)よりも変化の早い100MHzを入力したためです。また、100MHzの利得は30dBに低下していますので、出力振幅も電源レベルまで達していません。入力信号の周波数を10MHzに下げたところ、出力信号の位相が遅れることも無く、電源レベルまで十分な振幅を得られることを確認しました。

図3 図3 入力電圧と出力電圧の振幅波形の変化 周波数が100MHzと高いとき、振幅が小さくなると位相の遅れが顕著になります。また、利得が下がってしまい、出力振幅も電源レベルまで達していません。

特性のずれが特性劣化を引き起こす

 今まで使ってきた増幅回路のp型MOSFETは、理想的な相補型でした。従って、出力動作点は電源電圧の1/2に相当する2.5Vになっています(図4)。しかし実際には、理想的な相補型トランジスタは作れません。


図4 図4 相補型デバイスの特性のずれが特性劣化を引き起こす p型MOSFETのしきい値電圧(Vth)が20mVずれたときの出力電圧の波形。

 例えば、図4に示したように、p型のしきい値電圧(Vth)が20mV大きくなり、n型のVthが0.7V、p型のVthが0.72Vとなっただけで、動作点がずれてしまいます。結果、出力波形のデューティ比もずれ、小信号特性の利得も低下してしまいます。

今回、負荷抵抗に能動素子を使うことで、利得を高めることができました。特にCMOS増幅回路は、相補型デバイス間の特性の差異が小さいので、能動素子を使う利点は大きいと言えます。

 しかし、利得を高められる替わりに、応答速度が遅くなる点や、しきい値(Vth)のわずかなずれが、利得や動作点に大きな影響を与える点が、欠点に挙げられます。次回は、欠点を改善する手法を紹介していきたいと思います。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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