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3D印刷でドーム状の小型アンテナを試作、「性能指標はモノポールを1桁上回る」無線通信技術 アンテナ設計

米イリノイ大学の研究チームは、金属ナノ粒子インクと3次元制御の射出ノズルを用いる全方位印刷技術を使って、極小サイズの高性能アンテナを試作した。

» 2011年04月12日 15時20分 公開
[Julien Happich,EE Times Europe]

 米イリノイ大学の研究チームは、金属ナノ粒子インクと3次元制御の射出ノズルを用いる全方位印刷技術を使って、極小サイズの高性能アンテナを試作した(図1)。

 従来、アンテナの製造には、スクリーン印刷やインクジェット印刷、あるいは液体金属を充填(じゅうてん)したマイクロ流体技術が使われてきた。こうした手法で製造できるアンテナの形状は、ダイポール型やループ型などの単純なものであり、形状の空間的な分解能や次元性に限界があった。すなわち、アンテナ素子は平面状で、得られる性能の割には専有面積が大きかった。

 イリノイ大学のMaterials Science and Engineering教授で、Frederick Seitz Materials Research Laboratoryのディレクターも務めるJennifer A. Lewis氏は、「金属ナノ粒子インクを利用する全方位印刷は、3D形状で電気的なサイズを小型化したアンテナを実現する際に求められる、難しいフォームファクタの要件に応える技術だ」と述べた。

 同研究チームによると、3D形状で電気的なサイズを小型化したアンテナは、波長に対してアンテナの寸法を小さくできる。通常は、波長の1/12以下に抑えられるという。しかも、アンテナとしての性能指標については、モノポールアンテナを1桁上回るとする。

 イリノイ大学のElectrical and Computer Engineering教授であるJennifer Truman Bernhard氏は、特定の周波数でなるべく形状が小さく効率が高いアンテナを作るという、いわゆる「Electrically Small Antenna(ESA)」の分野では、「蓄積されるエネルギーと放射されるエネルギーの比率、すなわちESAのQ値が長年の課題だった」と指摘する。同氏は、「ドーム状の基板にアンテナ素子を直接印刷することで、理論的な限界値(Chu limitとして知られる)に近いQ値を実現できる、非常に幅広い用途に向けた単一モードのアンテナを実現した。コンフォーマルに印刷する(対象物の任意の形状に沿って印刷する)技術により、アンテナ素子のメアンダ(蛇行)パターンをドーム状の基板の外側にも内側にも印刷できるようになった」と述べる。

図1 図1 3Dアンテナを印刷している様子 ドーム状の構造体の上にアンテナ素子を直接印刷で形成する。

 「平面状の基板とは異なり、ドーム状の基板では曲面状の表面で法線が連続的に変化する。それも製造上の課題だった」とLewis氏は指摘する。ドーム状の基板上にアンテナの素子パターンをコンフォーマルに印刷する場合、デポジションノズル(直径100μm)が印刷面に対して垂直になってもパターニンできるように、銀のインクは十分な湿性を備えていなければならない。

 アンテナの機械的な強度を確保するには、例えば銀のナノ粒子インクをガラス製のドームの内部表面に塗るような手法が考えられる。これと似たような手法で他の非球状のESAを設計・印刷し、Q値の低いアンテナを携帯電話機の筐体の内側や無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)の羽の部分に組み込むことが可能になる。このアンテナの動作周波数範囲は主に、印刷された導体の横断面や、各アームのメアンダ配線同士の間隔(ピッチ)によって決まる。

 研究チームによれば、この設計は周波帯範囲や素子サイズが異なったり、機械的な信頼性を高める封止方法を採用したりなどする、新たな仕様にも短期間で適用できるという。このコンフォーマル印刷技術は、折り曲げられる体内埋め込みタイプや身に着ける(ウエアラブル)タイプのアンテナやセンサーといった、さまざまなアプリケーションに応用できる可能性がある。

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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