メディア

第9回 発振回路を評価する3つの作業〜発振余裕度と励振レベル〜水晶デバイス基礎講座(2/2 ページ)

» 2011年07月29日 18時00分 公開
[宮澤輝久,セイコーエプソン]
前のページへ 1|2       

励振レベルを評価

 発振余裕度に続いて、最後に励振レベル(ドライブレベル)を評価しましょう。励振レベルとは、水晶振動子が振動しているときの消費電力を指します。励振レベルは通常、水晶振動子の仕様内に抑えることが望ましいと考えます。大まかな目安としては、100μW以下が望ましい値ですが、水晶メーカーごとに若干異なるので、注意しましょう。

 励振レベルが高い場合、発振周波数が変動したり、安定度が低下したり、等価回路パラメータが変化したり、周波数ひずみが発生したりといった現象を引き起こしてしまいます。最悪の場合、異常発振を繰り返したり、故障を招いてしまうこともあります。励振レベル(P)は、次の(3)式で求められます。

 ここで、Iは水晶振動子に流れる電流、Reは水晶振動子の負荷時の等価抵抗です。もし、規格よりも励振レベルが大きい場合は、発振回路の定数を調整し、水晶振動子に流れる電流を小さくする必要があります。

 励振レベルを抑えるにはCgまたは、Cdを小さくすればよいのですが、発振回路の負荷容量も変化します。最も効果的で、簡単な手法は、Rdを大きくすることですが、損失が大きくなり、負性抵抗が小さくなるという点で注意が必要です。うまくいかない場合は、水晶メーカーに問い合わせ、仕様を再検討してください。

 実際には、励振レベルは直接測定できる値ではありません。発振回路と組み合わせ動作している水晶振動子のHOT端子に測定プローブをあてオシロスコープで印加電圧Vppを測定し、その実効値を基に水晶振動子に流れる電流を計算します。

 図3に、励振レベルの測定の様子を示しました。評価用の水晶振動子の端子に電流プローブを通し、それをプリント基板のXtal部に載せます。その後、オシロスコープで発振を確認したら、波形を基にVppを測定します。

図 図3 励振レベル測定の様子

 例えば、オシロスコープの波形からVpp=0.205V、測定プローブの設定が1mA/Div、プローブインピーダンス50Ω、オシロスコープの測定レンジが50mV/Div、水晶振動子の負荷時等価抵抗Reが45Ωだとすると、

Vpp/50[mV/div]=205/50=4.1div

4.1/(2√2)=1.45div

 50[mV/div]/50Ω=1mA/divなので、水晶振動子に流れる電流Iは、1.45div×1mA/div=1.45mAとなります。励振レベルPは、I2×Re=1.45×1.45×45=95μWと計算できます。この値が、水晶メーカーの規定値より低くなっているかを確認しましょう。

最適な発振回路を作るには

 これまで数回に分けて解説してきた通り、最適な回路定数は、(1)周波数マッチングの最適化、(2)負性抵抗(発振余裕度)の最適化、(3)励振レベル(ドライブレベル)の最適化の兼ね合いで決まることになります。

図 表2 周波数マッチング、負性抵抗、励振レベルの状況とそれぞれの対処法

 いずれに対しても最適な回路定数を設定できるのがベストですが、適合しないケースもあります。表2に示した状況ごとの対処法を以下にまとめました。

A・・・評価時の回路定数で、問題ありません。

B・・・励振レベルに関しては水晶振動子の仕様を見直しましょう。つまり評価結果の励振レベルが水晶振動子に問題を与えないか確認します。問題ないようであれば、振動子の仕様に反映してもらいましょう。

C・・・負性抵抗(発振余裕度)に関して、水晶振動子の仕様を見直しましょう。つまり、発振余裕度が5以上になるように、水晶振動子の等価直列抵抗の規格値R1を変更できないか確認します。問題ないようであれば、水晶振動子の仕様に反映してもらいましょう。

D・・・周波数マッチングに関して、あらかじめ規定した標準の負荷容量を、実際に水晶振動子を実装する基板の負荷容量に合わせ込んでもらいましょう。

E・・・「B+C+D」を組み合わせた対処

F・・・「B+C」を組み合わせた対処

G・・・「B+D」を組み合わせた対処

H・・・「C+D」を組み合わせた対処

これまで説明した情報が、信頼性の高い発振回路を設計する際の参考になれば幸いです。次回は、あらかじめ水晶振動子と発振回路を1つのパッケージに収めた水晶発振器について解説します。


参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.