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» 2011年09月09日 12時58分 公開

電源設計 デジタル制御:目的から手段に変わるデジタル制御、電源の市場要求に応える切り札に (2/2)

[薩川格広,EE Times Japan]
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デジタルが市場要求に応える手段に

 こうした電源メーカーの見解を裏打ちするように、2011年7月20〜22日に開催された技術展示会「TECHNO-FRONTIER 2011」(東京ビッグサイト)では、デジタル制御電源関連の展示が存在感を放っていた。2000年代半ばに大きな注目を浴びた後、商用レベルでの普及で足踏みしたという事情もあってか、ここ数年間は展示会などでのデジタル制御電源の訴求も一時期に比べて控えめという印象だったが、今回は様子が違った。

 TECHNO-FRONTIER 2011の会場では、主要な電源モジュールメーカーがこぞってデジタル制御品を展示しており、大型の電源のみならず、小型のオンボード電源にも適用が進んでいることが確認できた(図2)。半導体ベンダー数社もデジタル制御用のコントローラICや開発キットを見せていた(図3)。また、展示会場で複数の出展社が共同で開催したセミナーも、開場と同時に聴講者であっという間に席が埋まっていた。

図2 図2 デジタル制御電源でヘリを飛ばす コーセルとTDKラムダ、ベルニクスの3社がTECHNO-FRONTIER 2011の会場で見せたデモの様子である。各社のデジタル制御電源を使う。システム構成はこうだ。交流100VをTDKラムダのAC-DCコンバータ「EFX300」に供給し、直流24Vに変換してから、コーセルの絶縁DC-DCコンバータ「CES」に送る。そこで直流12Vに降圧し、ベルニクスのPOLコンバータ「BDZ」に引き渡す。BDZは4つ用意してあり、それぞれ直流0.69〜3.3Vの電圧を負荷に供給する。このデモでは、負荷としてリモコンヘリコプター模型をつなぎ、BDZの出力電圧を変化させることで上昇/下降と回転を制御した。ユーザーがタブレット端末「iPad」を操作すると、その情報がシリアルインタフェース経由で出力され、電源制御用のバスインタフェース「PMBus」に変換された上で、ベルニクスのPOLコンバータに送られる。BDZはそれを受けて、ヘリに供給する電圧をデジタル制御でリアルタイムに変化させる仕組みだ。

 このセミナーで講演に立ったTDKラムダ 技術統括部 ユニット電源開発部 チーフエンジニアの村山寿市氏は、市場が突き付ける要求に電源メーカーが応えるための手段として、デジタル制御が現実的な解になっている現状を説明した。同氏が引き合いに出したのは、同社が製品化している、複合共振コンバータトポロジーを適用したソフトスイッチング方式のスイッチング電源である。

 ソフトスイッチングとは、スイッチング素子にかかる電圧や電流の波形をなまらせることで、高調波成分を抑えて放射電磁雑音(EMI)を低減したり、スイッチング損失を抑えて効率を改善したりできる方式だ。電圧や電流の波形をなまらせるには、インダクタとコンデンサからなる共振回路をスイッチング素子に組み合わせる。電流共振(ZCS:Zero Current Switching)や電圧共振(ZVS:Zero Voltage Switching)があり、複数を使うのが複合共振コンバータである。

 同氏によれば、「電源市場では、顧客は常に小型、高効率、低ノイズを求めている。それらは複合共振コンバータというトポロジーが原理的に備える特徴とうまく合致する。ただし、このトポロジーでは、顧客ごとのアプリケーションに特化した設定と特性が必要な上に、ソフトスタートや定常動作、過電流保護といった機能でもアプリケーションごとに異なる制御性能が不可欠だ。従って、より複雑な制御が必要になる。もちろんアナログで達成することも可能だが、デジタルの方が高度かつ柔軟に複雑な制御を実装できる」という。

図3 図3 デジタル制御電源の実習用評価ボード マイクロチップ テクノロジー ジャパンが参考展示した。DSPを統合した同社のマイコン製品群(同社はDSC(Digital Signal Controller)と呼ぶ)である「dsPIC」のうち、スイッチング電源向けの品種を使ったデジタル制御電源の実習用評価ボードである。

デジタルをアナログのアシスト役に

 コストパフォーマンスでアナログ制御をしのぐレベルに近づきつつあるデジタル制御電源。ただし、デジタル制御を適用した電源モジュールは、そのコストだけに注目すれば、アナログ制御の機種よりも高くなってしまうのが現状だ。そこで、同じセミナーで講演したコーセル AS開発部 部長の安田勲氏は、比較的高価なDSPではなく、低価格の汎用マイコンを使ってデジタル制御を実現するという同社の取り組みを紹介した。

 同氏によると、コーセルは約6年前にスイッチング電源の制御にマイコンを利用し始めた。「顧客はデジタル制御を採用しているからといって電源を購入するわけではない。小型で高効率、低価格という電源本来の価値が備わっていなければだめだ。ところが当時、デジタル制御に使う高性能DSPは、消費電力が大きく、価格も1000円以上と高かった。今でこそ価格の低下が進んでおり、使いやすくなってきているのは事実だが、当時、当社は低価格で入手できる汎用マイコンを何とか利用できないかと考えた」(同氏)。

 そこで同社は、そもそもなぜ高性能DSPが必要なのかに立ち戻って検討した。それは、出力電圧の誤差をフィードバックループで制御するためだ。低コストの汎用マイコンの性能では、満足なループ速度は得られない。「ならばフィードバック制御はアナログ方式でいくと割り切った」(同氏)。その上で、アナログ方式で問題になっていた部品の特性ばらつきに起因したスイッチング精度の低下を、デジタル処理で補償するというアプローチを採った。

 アナログ制御では、使用部品の個体ごとの特性のばらつきよって、スイッチング素子のオン時間がばらついてしまう。そのためオン時間が長い方に振れてもパワートランスが飽和しないように、マージンを確保しておく必要があった。デジタル補正でそのばらつきを取り除けば、そのマージンを削ることができ、それは電源モジュールの小型化に結び付くというわけだ。

 「アナログ方式の制御ICが不要になって市場からなくなるということはない。それどころか、今も進化を続けている。デジタルありきではなく、アナログならではの長所も活用し、マイコンの負担を軽減するという考え方である」(同氏)。このコンセプトに基づく電源を同社は「デジタルアシスト制御電源」と呼ぶ。

 具体的な製品の例としては、無線通信基地局のパワーアンプ用電源として使えるDC-DCコンバータ「CQHSシリーズ」を挙げた(図4)。デジタルアシスト制御を採用することで、同社従来品で200Wだった出力電力を1.5倍の300Wに引き上げつつ、サイズを従来品のハーフ(1/2)ブリックからクォータ(1/4)ブリックへと小型化し、実装面積を2/3に削減したという。電力密度では2.5倍の向上に相当する。

図4 図4 デジタルを生かして電源を小型化 コーセルがデジタルアシスト制御電源と呼ぶコンセプトを適用して小型化したDC-DCコンバータモジュール「CQHS300」である。入力電圧範囲は36〜76V。出力電圧が32Vで出力電流が9.4Aの品種と、同50V、6.0Aの品種がある。変換効率は94%。外形寸法は57.9×12.7×36.8mm。重量は75g。電力密度は同社従来品の2.5倍に達するという。

電源設計者でもプログラムは書ける

 TECHNO-FRONTIER 2011では、デジタル制御電源の普及を阻むと可能性があると指摘されていたもう1つの大きな壁についても、電源業界の見解が明らかになった。すなわち、制御アルゴリズムをマイコンやDSPに実装する際のソフトウェア開発という壁だ。アナログ制御に熟練した電源設計者は、必ずしもソフトウェア技術に精通しているわけではない。制御アルゴリズムをC言語やアセンブリ言語を使ってプログラムコードに落とし込む作業は、かなりハードルが高いとみられていた。

 TECHNO-FRONTIER 2011の「第26回 スイッチング電源技術シンポジウム」に設けられたセッション「進化するデジタル制御技術」では、質疑応答の時間に各社の講演者が見解を語った。

 前述のデジタルアシスト制御電源に取り組むコーセル AS開発部 主任技師 堀井一宏氏は、「マイコンのスペックを考えると、現状は(C言語に比べてマイコンの性能を引き出しやすい)アセンブラを使わざるを得ない」とした上で、「アセンブラは電源回路との相性がいい。電気回路の設計者にアセンブラを教えると、すんなりと飲み込める。アセンブラはマイコンのハードウェアに直結しており、マイコンの中のいろんなスイッチをオン/オフする作業をソフトウェアで行うようなものだ。マイコンの中のハードウェアのイメージがわけば、アセンブラは案外、すっと飲み込める。ソフトウェアの専任はいらないと思う。回路設計者がソフトウェアをしっかりと理解して、プログラムコードを記述できるようにしていくのが良いだろう」と述べた。

 日本テキサス・インスツルメンツの営業・技術本部 マーケティング/応用技術統括部でパワーアプリケーション マネージャを務める財津俊行氏も、「個人的な考え」と前置きした上で、次のように語った。「電源がデジタル制御になったとき、技術の観点で一番大事なのは、電源のエンジニアがデジタル制御を勉強し、ソフトウェアを記述できるようになることだと思う。もちろん、ソフトウェアのエンジニアが電源回路を学んで、両者の知見が融合することは望ましい。だが、やはり電源のエンジニアが自身でコードを書けることが重要だ。自分自身、50の手習いで今、一生懸命に勉強しているところだ」。

 さらに、TDKラムダ 技術統括部 ユニット電源開発部 エンジニアの田原佳和氏も、「最近、マイコンやDSPは以前に比べて特性が良くなっている。だからこそ今、デジタル制御電源に取り組むに当たって、ソフトウェアをどうやって勉強していくか、プログラミングをスムーズに習得するにはどうすればよいのかが一番の課題になっていると感じる。今後、デジタル制御電源を開発できるエンジニアをどうやって短期間で育成していくかが大きな課題になると思う」と語った。

 「もう既に、デジタル制御をしているかどうかを問題にするフェーズは過ぎた。今は、デジタル制御でどんな価値を生み出せるかという勝負のフェーズに入ってきている。アナログ電源を超えることができなければ、デジタル制御を使う意味はない」(コーセルの長原氏)。

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