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» 2011年11月07日 10時00分 公開

水晶デバイス基礎講座:第11回 高周波出力に対応した水晶発振器を解説 (2/5)

[宮澤輝久,セイコーエプソン]

発振器の出力とジッタの関係

 水晶発振器は、本来発振すべき周波数以外の周波数成分も出力します。図2(a)に示した水晶発振器の出力信号の周波数特性を見ると、基本周波数の近辺にある他の周波数の「裾」が見られます。これは、ランダムな信号による位相変調、つまり、雑音源が発振器を変調することによって生じるものです。一般に、位相雑音と呼ばれ、これらの周波数はほとんどの場合、ノイズフロアよりも高く、キャリア周波数に近い部分に現れます。雑音を数式で表すと以下のようになります。

図 図2 水晶発振器の出力信号の周波数特性の概略図 (a)は、水晶発振器の基本周波数近傍の周波数特性、(b)は、SSB(Single Side Band)位相雑音特性の概略図。

 理想的な信号 V(t)=A×sin2πf0t

 実際の信号 V(t)=(A+E(t))sin(2πf0t+φ(t))

 ここで、E(t)は振幅の変動(AM雑音)で、φ(t)は位相の変動(PM雑音)です。φ(t)が位相雑音です。位相雑音は通常、キャリアから離れたオフセット周波数における雑音電力とキャリア電力の比として規定されます。位相雑音は全てジッタになります。

 一般に、位相雑音を表現するのに「SSB(Single Side Band)位相雑音L(f)を使用します。L(f)は、オフセット周波数fの関数で、単位はdBc/Hzです。位相変動によるSSB電力で定義し、搬送波周波数から fHz離れた周波数における1Hz帯域幅の電力信号の総電力で規格化します(図2(b))。数式で表現すると、以下のように表せます。

 L(f)=(中心周波数+fHz)の1Hzバンド幅での電力/信号の全電力 

 L(f)は雑音ですので、1Hz単位に換算しなければ、比較できません。位相雑音を測定したときの測定帯域幅をAとすれば、測定された位相ノイズをAで割って算出します。例えば、1kHzの測定帯域幅で−70dBcと測定されたのならば、−70dBc−30dBとなるので−100dBc/Hzという結果になります。1Hzは1kHzの1/1000なので、帯域幅当たりの出力も1/1000(=−30dB)になります。dBc/Hzは、位相雑音を表す標準的な単位です。

 位相雑音は、水晶発振回路に起因するものの他、後述するPLL回路を使用した場合には、各回路部の雑音成分や、ループ特性に起因した雑音によって発生します。位相雑音は、信号の位相の揺らぎを表わしていますので、これは、時間軸で観測すると、先に説明した波形のジッタになります。

 位相雑音とジッタは、ともに信号の安定性を表しており、お互いに関係があります。具体的には、位相雑音は周波数領域で表現した周波数の不安定さで、ジッタは時間領域における信号波形の揺らぎです。この2つの測定値を結び付ける分かりやすい文献は非常に少なく思います。例えば、位相雑音とジッタの関係を探った解説として、トランジスタ技術(CQ出版)の2009年2月号や、2009年3月号の連載記事が参考になると思います。

 位相雑音特性を基にジッタが仕様化されている通信方式もあります。例えば、同期型光ネットワーク(SONET:Synchronous Optical Network)では、通信の形態が「送信」、「PLL回路同期」、「再送信」というループになるため、ループの周波数帯域内にある位相雑音が仕様化されています(「位相ジッタ」という言葉で規格化されています)。

 このSONETの場合は、通信ループの帯域内に相当する12k〜20MHzの位相ジッタが通信システムの性能を左右します。従って、SONETに使われる高周波の水晶発振器も、12k〜20MHzの帯域の位相ジッタが重要な指標になります。理想は、12k〜20MHzの帯域で、1psを下回ることです。

高周波出力を得る幾つかの手法

 通信機器やネットワーク機器に不可欠な高周波の基準信号源ですが、高周波の基準信号を安定して生み出すのは、そう簡単ではありません。1MHzを超えるような発振周波数を実現するには、水晶原石の結晶軸から「ATカット」と呼ぶ切断角度で切り出した水晶片を使います(関連記事第4回 水晶振動子の発振周波数はどう決まるのか」)。

 本連載の第4回で説明した通り、ATカットの水晶振動子は、発振周波数が水晶片の厚みに比例します。水晶片の設計によって発振周波数は異なりますが、例えば厚さ1mmのときの発振周波数が2MHzの設計では、200MHzの発振周波数を得るには厚さを1/100に薄型化する必要があります。高い周波数を発振させるには、水晶片を薄くする必要がありますが、それには加工手法や機械的な強度、発振のしやすさといった観点で限界があります。これらの点が、高周波の水晶発振器を実現するときの技術的な挑戦です。

 一般には、比較的扱いやすい30MHz帯の発振周波数を有するATカット型水晶振動子に、周波数逓倍(ていばい)回路や位相同期(PLL)回路を使って高周波の安定した基準信号を作り出します。そこで、周波数逓倍回路やPLL回路の概略を説明しましょう。

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