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» 2011年12月08日 10時00分 公開

水晶デバイス基礎講座:最終回 水晶ジャイロセンサーの動作原理と特徴 (3/3)

[宮澤輝久,セイコーエプソン]
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センサーを選ぶ5つの視点

 そもそもセンサーとは、ある物理量を電気信号や別の物理量に変換するデバイスです。被測定対象である物理量に最適なセンサーを選ぶことが大切です。センサーを使うときには、信号を入力した最初の段階で可能な限り雑音を抑えることがポイントです。

 統計処理や補正のためのアルゴリズム技術は日々進歩していますが、補正に頼るのは最後の手段だと考えましょう。優れたセンサーとは、以下の「5S」が達成できているものだと考えています。

Speed(応答性) 物理量の変化にすぐに反応する

Sensitivity(感度) 物理量の変化に大きく反応する

Selectivity(選択性) 要求される物理量だけに反応する

Straight Response(正確性) 物理量の変化に正確に反応する

Stability(安定性) 外的環境に影響を受けない

 狙った物理量をセンシングするときには、数あるセンサーの中から、これらの特性がバランス良く確保できている品種を選ぶことが、アプリケーションを製品化する際の最短ルートになるでしょう。センサーの良しあしを見極めるポイントには、(1)雑音特性、(2)温度特性、(3)振動特性、(4)衝撃特性などがあります。

 最後に、それぞれの特性曲線のグラフと解説をまとめました。図5は、水晶ジャイロセンサーの雑音特性です。横軸は周波数、縦軸は雑音密度を示しています。センサーを利用する周波数帯域において雑音密度が低いほど、安定度が高いといえます。

図 図5 水晶ジャイロセンサーの雑音特性 横軸は周波数で、縦軸はノイズ密度。雑音密度が小さいほど、センサー出力は高安定だといえます。

 図6は、温度特性の一例です。まず、初期値(ゼロ点)が温度変化に対してどのように影響されるかを確認してください。ゼロ点の温度特性が良好だと、センシングする物体が静止しているとき、静止していることをきちんと測定することができます。センサー出力の初期値が温度変化に対して影響されると、静止していたとしても、位置がずれているかのような信号が出力されてしまいます。温度特性の曲線がなるべく直線で、変動幅が小さいほど、高安定だといえます。

図 図6 水晶ジャイロセンサーの温度特性 横軸は温度で、縦軸はセンサー出力の測定感度。

 図7は、振動特性の一例です。ジャイロセンサーは、角速度以外の振動(例えば、加速度など)に影響されず、正確に測定できることが重要です。センシングする物体が初期位置にある(ゼロ点)状態で、角速度以外の振動周波数を与えたときに、図7の赤い色のラインやピンクのラインのように雑音が発生してしまうと、誤測定の原因になります。この振動特性を確認することも、高い安定度を得るのに大切なポイントです。

図 図7 水晶ジャイロセンサーの振動特性 横軸は印加振動周波数、縦軸はセンサー出力の変化量。角速度以外の振動(加速度など)に影響されずに計測できるほど、センサー出力は高安定になる。

 図8に水晶ジャイロセンサーの衝撃特性を示しました。ジャイロセンサーを採用する際、耐衝撃性の確認は必須です。耐衝撃性の試験には、(1)どの程度の衝撃までセンサーが破壊されないか、(2)どの程度の衝撃まで特性が変化しないかという2つの項目があります。仕様書に記載されている耐衝撃性の数値がどちらを意味しているのかをきちんと確認して、製品を選ぶ必要があります。衝撃によってジャイロセンサーが破壊されないのはもちろんのこと、衝撃で特性が変わりにくいことが高安定のセンシングを実現する上で重要です。

図 図8 水晶ジャイロセンサーの衝撃特性 横軸は時間、縦軸はセンサー出力の変動量(上図)および、印加衝撃加速度(下図)。衝撃が加わったときに破壊されないことはもちろん、衝撃で特性が変わりにくいことがポイントです。

おわりに

 新しい発想を取り入れた魅力的な製品の誕生には、機器メーカーのコンセプトを実現する電子デバイスが必要不可欠であると考えています。常に機器メーカーの皆さまから、電子デバイスに対する要望をお聞きし、できる限り早くそれに答えていくことが、電子デバイスメーカーとしての使命です。そのためには、設計者が互いに共通の理解を持って話ができることが必要だと感じています。

 そこで、水晶デバイスについて、使うときに知っておくべき技術内容や、実際に使うときの勘所を解説させていただきました。基礎的な内容を中心に、良い面のみならず、特性上の使い勝手が悪い部分なども、極力記載しました。ほぼ1年にわたる長期の連載となりましたが、日本のエレクトロニクス産業の発展のために、水晶デバイスをより理解していただく、ご参考になれば幸いです。


参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



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