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未来の省エネ材料に新候補、“酸化ガリウム”のトランジスタ動作が初実証パワー半導体

酸化ガリウムは、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった現在注目を集めるパワー半導体に比べ、バンドギャップが広いという特徴がある。酸化ガリウムを使った研究開発は始まったばかりだが、将来のパワー半導体材料としてさまざまな特徴がある。

» 2012年01月05日 16時26分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 情報通信研究機構(NICT)は、Ga2O3(酸化ガリウム)単結晶を使った電界効果トランジスタ(FET)を開発し、世界で初めて動作を実証した。

 酸化ガリウムを材料として使うことで、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった既存の材料を使ったときよりも、さらに高耐圧・低損失のパワー半導体を実現できる可能性がある。タムラ製作所と光波の2社と共同で開発した。

SiCやGaNよりも高耐圧/低損失

 現在、さまざまな機器のエネルギー効率を高めようという社会的な要求を背景に、Si(シリコン)よりも高耐圧/低損失のパワー半導体を実用化する機運が高まっている(関連記事その1その2)。そこで注目を集めているのが、前述のSiCやGaNといったワイドギャップのパワー半導体材料である。

図 図1 SiCやGaNに続く次世代パワー半導体として可能性を秘める酸化ガリウム (a)は、パワー半導体材料における酸化ガリウムの位置付け。(b)は、各種材料のオン抵抗と耐圧の関係。グラフが右下にあるほどパワー半導体として優れた特性があることになる。酸化ガリウムは、SiやSiC、GaNと比べて最も右下にあることが分かる。

 今回NICTが注目した酸化ガリウムは、これらのSiC材料やGaN材料よりもバンドギャップが広く、パワー半導体の高耐圧/低損失化をさらに進められる可能性がある(図1)。しかも、単結晶基板の大型化が比較的容易で、製造時に高温・高圧といった条件が不要な「融液成長法」と呼ぶ手法を利用できることから、製造コストの面でもメリットが見込めるという(図2)。「パワー半導体の材料として高い可能性があるにもかかわらず、研究開発はこれまでほとんど手付かずの状態だった」(NICT)。

 実際に酸化ガリウム材料を使って、MES(MEtal Semiconductor)構造のFETを製造したところ、研究の初期段階ながらも、良好なトランジスタ特性を確認できたという(図3)。具体的には、(1)高いオフ状態耐圧(250V以上)、(2)小さいリーク電流(数μA/mm程度)、(3)高い電流オン/オフ比(約1万)といった特性である。

 研究成果は、米国物理学会誌「Applied Physics Letters」のオンライン版の1月2日号に掲載された。論文タイトルは、「Gallium oxide (Ga2O3) metal-semiconductor field-effect transistors on single-crystal β-Ga2O3 (010) substrates」である(同誌のWebサイト)。

図 図2 融液成長法により作製した2インチ角の酸化ガリウム単結晶基板
図 図3 酸化ガリウム材料を使ってMESFETを試作 融液成長法の1つである「フローティングゾーン法」で作成した単結晶の酸化ガリウム基板に、分子線エピタキシー法で高品質のn型酸化ガリウムの薄膜を成膜した(a)。(b)は顕微鏡写真。

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