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基幹技術が出そろった電気自動車、その近未来像NIDays 2011 開催リポート

かつてモノづくり立国として世界をリードした日本が、リーマンショック、そして東日本大震災により、製品製造の見直しを余儀なくされている。そんな中、工業製品は、便利・安いといった「機能的価値」にとどまらず、顧客にとって特別な意味をもたらす「意味的価値」の創造が求められる。

» 2012年01月23日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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 2011年12月1日、日本ナショナルインスツルメンツ主催のテクノロジイベント「NIDays」が開催された。その幕開けでは、日本における電気自動車の草分けともいえるSIM-Drive社長 兼 慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏が、「21世紀社会のエネルギーと電気自動車」というテーマで基調講演を行なった。これまでのテクノロジの進化から電気自動車の近未来ビジョンまでを語る、大変興味深いものであった。

SIM-Drive社長 兼 慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏 SIM-Drive社長 兼 慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏

電気自動車を普及させる3つの鍵

 19世紀の産業革命は、「力学」で支えられていた。そして電磁気学の時代、量子力学の時代へと進み、トランジスタの発明によって20世紀の社会は大きく変わった。1954年に誕生した太陽電池も、ようやく実用として使える時代になり、世界の70億人がその恩恵を受ける時代になっている。

 さらにカーボンファイバの実用化、ネオジウム磁石の発明、リチウムイオン電池の発明は、全て日本人の手によって行なわれてきた。これらの技術を使った、新しい車の時代がやってくる。それが電気自動車だ。

 電気自動車には数多くのメリットがあるが、エネルギーという視点から見ると、ガソリン車よりも効率がいい点が挙げられる。化石燃料から実際に自動車を走らせるまでの効率を見ると、ガソリン車は8.6%にすぎないが、電気自動車は実に35%に上る。さらに電力は今後太陽エネルギーから取るようになることを考えれば、化石燃料を使う必要もなくなる。

化石燃料を始点にしても、電気自動車の方が効率がいい 化石燃料を始点にしても、電気自動車の方が効率がいい

 ただし、単純にエコ(環境に優しい)というだけでは、消費者の意識は変わっていかない。消費者が自動車の性能を評価する3つの価値、すなわち「加速感」、「乗り心地」、「広さ」を満足させる必要がある。

自動車の価値を決める3つの要素 自動車の価値を決める3つの要素

 最も難題とされてきた「加速感」については、清水教授が2004年に開発したEliicaが1つの答えだ。8つのタイヤを持つこの電気自動車は、時速400kmを目標に設計された。残念ながら最高時速は370kmにとどまったが、加速テストではポルシェ911ターボを上回る加速性能をたたき出した。この模様はテレビなどのメディアを通じて広く周知され、この車がきっかけとなって、社会の電気自動車に対する見方は大きく変わった。

電気自動車に対する社会の見方を変えたEliica 電気自動車に対する社会の見方を変えたEliica

 「広さ」については、まず動力源が変わることで、車の構造自体も変わらなければならない点を指摘する。単純にエンジンが入っていたところをモータに入れ替えるだけでは、素晴らしい電気自動車はできない。

 Eliicaをはじめとする清水教授の電気自動車は、車輪の中にモータを入れる構造(インホイールモータ)となっている。これにより動力の伝達ロスを大きく低減することが出来た。また、エンジンルームが不要になることから、その分を乗客のスペースに充て、広大なキャビンスペースを実現することが出来た。 

 さらにバッテリ類も全て座席の下に配置することで、車室がフラットで広く取れる。そうなれば、車内の広さをどう使うか、新しいアイデアが試される場となるだろう。

自動車として必要な部品はすべて座席の下に 自動車として必要な部品はすべて座席の下に

 「乗り心地」に関しては、いわゆる「バネ下重量」の問題が、インホイールモータに対して既存自動車メーカが抵抗する理由だ。従来の自動車設計では、サスペンションの下、すなわち「バネ下」の重量が大きいと、悪路での乗り心地が悪くなるとされてきた。一方電気自動車は、バッテリやモータなどの動力部分をサスペンションよりも下に配置することになるため、どうしてもバネ下重量が大きくなる。

 しかし清水教授によると、現在はサスペンション技術が上がり、また道路もコンディションが良くなったことで、むしろバネ下重量が重い方が乗り心地が良くなってきているという。

すぐ目の前に新しい時代が

 現在電気自動車と分類されるものには、エンジンを併用するもの、燃料電池で発電するもの、充電池を使うものなど、いくつかのタイプが存在する。しかし清水教授は過去の例からみれば、この中で生き残る技術は1つしかないという。1つの社会、1つの時代の中で、ある目的の技術は1つしか必要とされないからである。

 これまで音楽レコードがCDに変わり、フィルムカメラがデジタルカメラに変わっていった。これらの変化は、技術が生まれて古い技術に置き換わるまで、約7年しかかかっていない。

新しい技術が普及するまでは約7年程度 新しい技術が普及するまでは約7年程度

 一方、作り手側としては、急激な変化を望んでおらず、自動車業界では電気自動車に置き換わるまでのスパンを10年で10%、20年で20%とみている。しかし変化の速度を決めるのは、あくまでもユーザである。最初の購入タイミングには躊躇(ちゅうちょ)があっても、その次の購入タイミングでは新しい技術のものを選択する。こうして新しい技術の普及が加速していくわけである。

 さらに音楽や写真でも起こった現象から学べることは、新しい技術に置き換わると、産業規模が大きくなるという点だ。新しい技術は使いやすく、価格も安くなるため、市場は3倍程度まで拡大する。

 電気自動車は、従来のエンジン型自動車に比べて構造がシンプルで、部品数も少ない。従って量産化が始まれば、あっという間にコストは下がる。先進諸国における自動車の普及は既にかなりの飽和状態にあるが、途上国で新たなビジネスが発展するだろう。

 自動車産業は主力が電気自動車に変わることで、従来の自動車関連メーカだけでない、新しい企業にも参入の余地がある。そして自動車に対する新しいアプリケーションが誕生する。従来のように走るだけの道具から、生活を一変させる道具へと進化するのである。携帯電話の世界がスマートフォンの登場によって衝撃を受けたようなことが、自動車産業の中で起こる事になる。

 電気自動車の時代は、そう遠くない未来でわれわれを待ち構えていることを理解しなければならない。


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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2012年2月22日

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