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メニーコア時代に新風を吹き込む、注目集める新興企業ビジネスニュース 市場動向

本格的なメニーコア時代に突入する中、フランスのある企業が注目を集めている。メニーコアプロセッサの中でも、特定用途向けに比べて実用化が困難とされる汎用向けを手掛けており、フランス政府や複数の投資会社から約2700万米ドルの資金提供を受けている。

» 2012年01月26日 10時18分 公開
[Peter Clarke,EE Times]

 Joel Monnier氏は、STMicroelectronicsの研究開発センターでバイスプレジデントを務めた経歴を持つ人物だ。同氏は現在、汎用向けメニーコアプロセッサの開発を手掛けるフランスのKalrayという企業を率いている。同社はパリ近郊のオルセー(Orsay)に本社を構え、開発拠点をグルノーブル(Grenoble)に置く。同社はベンチャーキャピタルから2000万米ドルの資金提供を受けて、2008年7月に設立された。同社は、28nmプロセスを適用したCMOSチップ上に256個のコアを集積するプロセッサアレイの開発に取り組んでおり、「このメニーコアプロセッサに、所要のソフトウェアを組み合わせることで、これまでメニーコアの実用化を阻んできた障壁を乗り越えることができる」(同社)と主張する。

 Kalrayは自社のWebサイトで、2011年第4四半期に新チップを発表するとしていた。しかし、現時点では同チップが完成したのかどうかは定かではなく、情報を求めるメールに対しても返信はない。

 Kalrayが「MPPA(Multi-Purpose Processor Array)」と呼ぶこのチップは、16個のコアを1つのクラスタとし、そのクラスタを16個まとめて集積している。すなわち16×16で合計256個のプロセッサコアが1枚のチップに載り、それらが並列動作する。また、これらのクラスタ同士はNoC(Network on Chip)を介して、インターネット上のコンピュータクラスタのように相互に通信する。同チップは、同社独自のVLIW(Very Long Instruction Word)アーキテクチャを採用し、32ビット/64ビットの浮動小数点演算ユニットを集積している。

 MPPAは、動作周波数が400MHzのときに200GOPS(Giga Operations per Second)の演算性能が得られると見込まれている。最大では約500GOPSの性能を発揮できるという。その際の消費電力は5Wである。

 しかし、このような性能は簡単に実現できるものではない。Kalrayは、最先端プロセス技術を適用してメニーコアプロセッサを開発するだけでなく、簡単かつ分かりやすいソフトウェアの開発手法や、コードを効率的に実行できる開発環境を用意する必要がある。

 英国のフェムトセルチップセットメーカーPicoChipの基地局用プロトコル実行アレイや、米国のファブレス半導体企業NetLogic Microsystemsのネットワークチップのように、特定の用途に絞ったメニーコアプロセッサであれば、開発は比較的やりやすい。だが、より汎用的なニーズを満たし、さまざまな用途に対して効率的な処理を行えるよう各コアをオン/オフできるアレイの開発は、難しいといわれている。

 イスラエルのPluralityは2010年4月、アクセラレーションプロセッサIP「HyperCore」を発表した。こちらも、無線インフラアプリケーション向けではあるが、256個のコアを集積したプロセッサである。

 KalrayのWebサイトによると、同社のメニーコアプロセッサは、並列化のメリットを享受できる幅広いアプリケーションに向けるという。例えば、イメージングや、通信インフラ、データセキュリティ、ネットワーク機器、組み込みアプリケーションなどである。

 Kalrayは、2008年と2009年に1910万米ドルの資金を調達している。また、2011年には、シリーズB投資ラウンドで780万米ドルを確保したと発表した。同社には50人のエンジニアが在籍しており、新興企業を支援するフランス政府機関を含む、複数のフランスの投資会社から資金提供を受けている。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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