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マイクロ波でモーター駆動の絶縁電源と光カプラを不要に、パナソニック開発ISSCC 2012 電源設計

モーター用インバータなどに使う大電力トランジスタの絶縁型ゲート駆動回路を、1/10以下に小型化できるという。駆動用PWM信号で5.8GHzの搬送波を変調し、非接触で大電力トランジスタ側に伝える。ゲート駆動回路の絶縁電源とフォトカプラが不要になり、1個の半導体チップに回路全体を集積できるようになる。

» 2012年02月29日 15時00分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

 パナソニックは、モーター用インバータなどのパワーシステムに使う大電力トランジスタの絶縁型ゲート駆動回路を「1/10以下」(同社)と大幅に小型化できる技術を開発した。マイクロ波を利用してパワーシステムを制御する新しいコンセプトの方式を採用しており、これを「Drive-by-microwave駆動方式」と呼ぶ。パワーデバイスの絶縁駆動回路全体を1枚の半導体チップに集積できるので、小型化に加えて、大幅なコスト削減も可能になるという。同社は、このような1チップ化は「世界初だ」と主張している(図1)。

図1 図1 絶縁型ゲート駆動回路を1チップ化 チップ上の回路の実効面積は5.0×2.5mm。1次側(入力側)にスイッチング制御用PWM信号を供給すると、電気的な絶縁を確保しながら、その信号を2次側(出力側)から取り出せ、そのまま大電力トランジスタの駆動信号として使える(クリックで画像を拡大)。出典:パナソニックの報道発表資料

 通常、パワーシステムの絶縁型ゲート駆動回路を構成するには、絶縁トランスを使った電源回路(絶縁電源)とフォトカプラが必要になる。大電力トランジスタのスイッチングを制御する情報を載せたPWM信号を生成するコントローラと、高電圧を扱うパワーシステムの間で、電気的な絶縁を確保するためだ。ゲート駆動回路の大電力トランジスタ(ゲートドライバ)に対して、絶縁電源を介して電力を供給するとともに、フォトカプラ経由でPWM信号を伝える。絶縁電源もフォトカプラも、それぞれ製造技術や材料が異なる個別部品なので、1個の半導体チップに集積することは不可能だった。

 そこでパナソニックが開発したのが今回の方式である。電気的な絶縁を確保しながらも、絶縁電源もフォトカプラも使わずに、コントローラ側からパワーシステム側にPWM信号とゲートドライバ用の電源を供給できる。

ワイヤレス給電技術を応用

 同社が利用したのは、金属接点やコネクタなどを介さずに非接触で電力を伝送する、ワイヤレス給電技術だ。既にスマートフォンやタブレットPCといったモバイル機器を中心に実用化が進んでいることからも分かる通り、構成回路を半導体チップに集積化しやすいというメリットがある。同社は、これをコントローラとパワーシステムの電気的な絶縁の確保に応用できると考え、絶縁型ゲート駆動回路全体を置き換えるワイヤレス給電チップの開発に取り組んだ(図2)。

 ワイヤレス給電技術の複数ある方式のうち、「電磁界共鳴方式」と呼ばれるものを採用した(参考記事:ワイヤレス送電第二幕、「共鳴型」が本命か)。送電側と受電側それぞれに電極パターンを用意し、双方のインダクタンス(L)とキャパシタンス(C)を調整することで両者を特定の周波数で共振させる。これが電磁的な結合器として機能する。送電側の電極パターンに高周波電力を加えると、受電側の電力パターンにその電力がワイヤレスで伝送される仕組みだ。

 パナソニックは、送電側でこの高周波電力にスイッチング制御用PWM信号で変調を掛け、受電側で整流することで、元のPWM信号を復元できるようにした。

図2 図2 ワイヤレス給電技術で絶縁電源とフォトカプラを不要に 図の上側は、モーター用3相インバータの一般的な構成方法。絶縁電源とフォトカプラを使うゲート駆動回路が必要だった。図の下側は、パナソニックが開発した手法。5.8GHzのマイクロ波帯を使うワイヤレス給電技術で、絶縁型ゲート駆動回路を1枚のチップに置き換えられる(クリックで画像を拡大)。出典:パナソニックのISSCC 2012における学会発表資料

結合器をチップ集積可能なレベルに小型化

 同社が採用した電磁界共鳴という方式自体は一般的なものだが、同社は今回、次の3つの工夫を施すことで、結合器を大幅に小型化した。

 1つ目は、高周波電力の周波数を5.8GHzと非常に高いマイクロ波帯に設定したことである。結合器の大きさは周波数が高いほど小さくできるからだ。これにより結合器の直径を3mmまで小型化できたという。「従来は1MHzが使われており、結合器の直径は1mだった」(パナソニック)。

 2つ目は、新たに開発したバタフライ型の電極パターンを採用し、電磁界を集中させられるようにしたことだ。単位面積当たりで扱える電力が大きくなり、電力が一定であれば結合器を小さくできる。

 3つ目は、結合器のポート間に分離配線を設けることで、1個の結合器で2系統の信号を受電側に送れるようにしたことである。同社によれば、通常の手法でPWM信号を電磁界共鳴方式でワイヤレス伝送しようとすると、PWM信号の立ち上がりと立ち下りそれぞれに対応する結合器を用意する必要があるが、こうすれば1個で済む。すなわち、結合器の専有面積を半減できる。

数mm角のチップに絶縁型ゲート駆動回路が収まる

 これらの工夫により、結合器を半導体チップ上に形成できるサイズまで小型化できたという。実際に、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)と窒化ガリウム(GaN)のヘテロ構造を採るFETの製造プロセスを適用し、サファイヤ基板を使ってワイヤレス給電チップを試作したところ、チップ上の回路の実効面積は5.0mm×2.5mmで済んだ。

 このチップには、5.8GHzの局部発振器と、その出力にコントローラから受け取るPWM信号で変調を掛ける周波数ミキサーで構成する送電側回路の他、結合器として機能する1対の電極パターン、そして2系統の整流回路からなる受電側回路が集積してある。結合器の耐圧は9.6kV以上が得られており、パワーシステムのスイッチング駆動に問題なく使えるという。つまり、このチップの出力信号でパワーシステムの大電力トランジスタを直接、駆動することが可能だ。

 なお今回の開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施したもので、成果の一部を米カリフォルニア州サンフランシスコで2012年2月19〜23日に開催された半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2012」で発表した(論文番号23.3)。

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