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「ヒアリング」に臨み、心構えるべきこと(前編)エンジニアのための市場調査入門(4)(1/3 ページ)

いよいよ今回から市場調査の工程の1つである「ヒアリング」の手法を解説していきます。市場調査を長年手掛けていたプロである筆者が、ヒアリングに当たりどのような準備をし、どのような心構えで臨んでいるかを紹介します。

» 2012年03月09日 10時10分 公開
[田村一雄 ,矢野経済研究所]

「エンジニアのための市場調査入門」連載一覧

 本連載ではこれまで、企業が市場調査をする目的や、市場調査とマーケティングの違い、材料/エレクトロニクス分野における市場調査の基本などを解説してきました。市場調査というと企業の中のごく一部の部署だけに関係することだと考える方も多いかもしれませんが、市場調査の基本的な手法はエンジニアの皆さんの日々の業務に役立つ、有益な情報になります。

 いよいよ今回から数回に分けて、市場調査の各工程である「ヒアリング」、「分析、予測、調査後」の手法などを紹介していきます。今回取り上げるヒアリングは、エンジニアの皆さんにとって身近な作業かもしれません。例えば、他の企業に打合せや情報交換のために訪問したり、顧客との面談を通して技術課題を聞き出したりといった場面です。今回は、市場調査を長年手掛けていたプロである筆者が、ヒアリングに当たりどのような準備をし、どのような心構えで臨んでいるかを詳しく紹介します。今後、ヒアリングする際に使える「技」をいろいろと見つけ出せるはずです。(EE Times Japan編集部

理想的な「ヒアリング」とは?

 何らかの市場調査リポート(以下、リポート)を作成するに当たり、該当テーマに関して企業のしかるべき担当者にヒアリングすることを我々は「取材」と呼んでいる。取材の基本は「Face to Face」のヒアリングである。電話を使った取材はヒアリング時に聞き漏らしたことや、ヒアリング後に他の企業を回って得た新たな疑問などをぶつけるときに行うことが多い。初めての相手に長々と電話取材するようなことはないし、そのような取材に対応していただける方もあまりいないのではないかと思う。よい取材とは、取材者(リサーチャー)が聞きたいことを聞くことができたと同時に、被取材者にとってもよい情報交換ができたと感じてもらうことである。ヒアリングをする方、答える方の両者にとって意義あるものとするためには、それなりの準備が必要である。

図 ヒアリングの準備から面談までの流れ 各段階で心掛けることをまとめた。(クリックすると拡大します)

ヒアリングの「準備」、何を用意すべきか?

 私は、出張や朝一番での外出がない限り、会社に来ると日経産業新聞、日刊工業新聞、化学工業日報の3紙に目を通す。この他、週刊の半導体産業新聞や各種経済誌にも目を通す。個人としては日本経済新聞と毎日新聞を購読している。これらの記事は目を通すだけでなく、仕事上必要な記事、今後必要になるかもしれない記事、個人的に興味深い記事をコピーしている。こうした作業にだいたい毎日平均して30〜40分の時間をかけている。

 コピーした記事は整理しやすいようにA4サイズでそろえ、分野、製品、企業、テーマなどに応じてタイトルを付けたクリアファイルにとじておく。このように書くと極めて几帳面(きちょうめん)にこの作業をこなしていると思われる方もいるかもしれないが、そうではない。ポスト・イットに殴り書きしたタイトルをファイルに貼ってあるだけだし、ファイリングしたものはデスクの引き出しやキャビネットに秩序なく並べているだけである。しかし、この作業は取材の準備になるだけでなく、次の、あるいは後の自社企画調査リポートのテーマにもなり得るのだ。

 最近ではインターネットなどで同様なことをしているケースが多いのであろう。ただ、どうだろう。ネットはピンポイントで情報を探すには非常に便利だが、時系列、ある期間内での記事(出来事)のインパクトや取り上げられた回数、同じ記事内容でも各誌の取り扱い方の違いといったことを判断するには、アナログなやり方が向いていると思うのだが。

 初めての企業へのヒアリングに当たっては、(1)該当企業のWebサイト、(2)上場企業の場合は有価証券報告書、(3)該当企業が取り上げられている既存リポート、そして(4)コピー記事をチェックした上で質問を考える。このうち(1)、(2)、(4)は全てインターネットを使った情報収集が可能ではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれない。それは半分程度その通りである。ニュースリリースなどは新聞などを見るまでもない。コピー記事で役に立つのは、社長や役員クラスのインタビュー、経済誌や技術系雑誌の特集記事、さらには該当企業の競合企業および顧客や材料・部品サプライヤーの記事である。このような材料は「仮説」にもつながるのである。仮説の重要性については後述する。

面談の「アポ取り」、これで70〜80%は終わったも同然

図 写真はイメージです

 ヒアリングにおいてはしかるべき担当者にアポイントを取らなければならない。実はこれがひと苦労なのである。ある程度経験を積んだリサーチャーにとっては、アポイントさえ取れれば仕事の70〜80%は終わったも同然である。初めてのテーマ、初めての取材先には代表番号に電話をして、矢野経済研究所という会社を説明し、取材主旨を説明し、しかるべき部門につないでもらうか、あらためて直通番号をかけ直す。すぐに目的の相手が出てくれればよいが、忙しいのでそうはいかない。昨今は個人情報の問題でメールアドレスやケータイの番号もあまり教えてもらえない。何度も電話をしたり、紹介のツテをたどったり、やっと担当者がつかまったと思ったら取材拒否。ガックリ、ってなもんだ。

 取材拒否の場合どうするか。ここからは我々の、あるいはリサーチャー個々のノウハウがあるので細かいことは書けないが、1つの方法は、「対象市場の企業を全て回ってきた後で情報交換しませんか」と提案することだ。会社あるいは事業部の方針で取材は受けられないが、個人的に情報収集・交換したいという人は多い。対象市場の該当企業が10社あるとすると、それらの情報をまんべんなくつかんでいるという人はそう多くはないものだ。このように「取材」は受けられないが、「情報交換」は可能となった場合、こちらとしてはその調査は終了間際なので、情報交換の相手にかなりレベルの高い情報を提供できることもある。こうしたことで、我々にとっては次につなげることもできるのである。

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