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デジタルで電源をカンタンにIntersil 社長兼CEO David B. Bell氏

アナログICの中堅メーカーであるIntersilは今、「注力する10の製品分野」の1つに、デジタル電源制御技術を掲げている。社長兼CEOのDavid B. Bell氏は、かつて電源IC大手のLinear Technologyで社長を務め、同技術にも造詣が深い。来日の機会に、デジタル電源の現状と展望を聞いた。

» 2012年03月09日 13時56分 公開
[朴尚洙, 薩川格広,EE Times Japan]

EE Times Japan(EETJ) Intersil(インターシル)は現在、注力10分野のうち、1つにデジタル制御電源IC、もう1つにデジタル制御電源モジュールを挙げています。ただ、日本の市場を見ると、機器メーカーはこれらの技術の採用に必ずしも積極的ではないようです。

Bell氏 デジタル制御電源は5〜6年前から話題になっていましたが、確かについ最近までは採用がそれほど進んでいませんでした。しかし米国市場では今、本格的な普及が始まっており、転換期を迎えていると言えるでしょう。サーバファームや第3世代/第4世代携帯電話の基地局、ネットワーク機器など、インフラ系の設備で導入が進んでいる状況です。

 もっとも、日本市場がまだこの段階まで来ていないことは理解しています。機器メーカーは比較的保守的で、デジタル制御電源の採用に前向きとは言えません。今後、この技術の有用性を理解してもらえるように、提案活動を強化していく方針です。

 デジタル方式の電源制御ICは、柔軟性が非常に高いというメリットがあります。簡単な設定で、幅広いシステム要件に対応することが可能です。1種類の制御ICを、数多くのアプリケーションに適用できます。

 当社は、具体的な製品群としては、2008年に買収したZilker Labsの制御ICやモジュール品を中心に展開しています。これらの特徴の1つは、とても簡単に使えるという点です。さまざまな機能を高いレベルで統合しており、インテリジェントな制御アルゴリズムをあらかじめ組み込んで提供しています。機器のホストプロセッサや他の電源システムとの通信用に、業界標準のPMBusインタフェースも搭載しました。

 特にモジュール品は、制御ICやパワーMOSFET、個別部品などを単一のパッケージにまとめてあり、デジタル制御方式の完全なDC-DCコンバータとして機能します。ユーザーはこれをそのまま「ブラックボックス」として、機器に組み込むだけでよいのです。例えば、15mm角と小型ながら、90%を超える変換効率で17Aの出力電流を供給できる、電力密度の高い品種を用意しています。米国市場では、こうしたモジュール品がインフラ機器のみならず、医療機器や産業機器、コンピュータ機器など、幅広いジャンルで搭載が進んでいます。

EETJ デジタル制御方式が当初、なかなか普及しなかった理由をどのように捉えていますか。

Bell氏 デジタル制御の狙いは、電源の設計を簡単にすることです。ただ、残念なことに、初期のデジタル制御電源では、電源の設計がむしろ複雑になってしまうという逆効果が出てしまいました。当時、制御ICを適切に動作させるには、ユーザーはソフトウェアのプログラミング能力を求められました。

 これに対し現在、当社が提供している制御ICは、使い方がとてもシンプルになっています。電源の設計はアナログ制御方式よりも簡単になり、ソフトウェアのプログラミングはもう要りません。

 例えば、フィードバックループの補償について見てみましょう。アナログ方式では、抵抗器やコンデンサを付けたり外したりといった作業が必要でした。デジタル方式の初期の制御ICは、それをソフトウェアプログラムの数値を調整するという作業に置き換えました。アナログ方式とは異なる手法ですが、複雑という点では変わりません。

 一方で当社の最新のデジタル制御ICは、自動的に補償を行うため、こうした作業は全く不要です。デジタル制御の本来の狙いを達成したと言えるでしょう。

マクロトレンドに乗る

EETJ 注力10分野として、デジタル電源の他に、ピコプロジェクタ用チップセットや車載システム用IC、監視カメラ用ICなどを挙げています。これらはどのように選定したのでしょうか。

Bell氏 3つのポイントがあります。1つ目は、世界の巨大な潮流、つまりマクロトレンドです。その最たるものは、スマートフォンやタブレットPCの急激な普及などを背景に、インターネットのトラフィックが爆発的に増えていることでしょう。

 他にも、ハイブリッド自動車や電気自動車の普及が今後数年で大きく進展するとみられることや、セキュリティ用監視カメラの敷設が世界中で進んでいるといったマクロトレンドがあります。これらは当社にとって大きな商機になりますから、その潮流に乗れることが条件です。

 2つ目は、当社の事業をさらに成長させるのに十分な市場規模が見込めることです。市場調査会社のデータによれば、当社が扱うアナログ/ミックスドシグナルICの全世界における市場規模は、2010年の時点で約3000億米ドルと推定されています。そして、2010〜2015年までの間に6.0%の年平均成長率(CAGR)で拡大するという予測があります。

 そこで、この6.0%という数字を上回る高い成長が見込める領域に注目しました。CAGRが115.5%に達する第4世代携帯電話機を筆頭に、CAGRはタブレットPCが48.4%、車載情報/安全システムが8.9%、液晶テレビが8.4%、ゲーム機が7.2%、第3世代携帯電話機が6.7%と続きます。

 これらの領域に限定すると、アナログ/ミックスドシグナルIC市場のCAGRは17.5%で、同市場全体に占める売り上げ規模の比率も、2010年の18%から2015年には30%まで高まると予測されています。

 3つ目は、当社のアナログ/ミックスドシグナル領域の専門知識を生かすことで、競争他社に対する優位性を発揮できる分野であることです。

 このようにして絞り込んだ10の製品分野に、現在、研究開発投資の80%を集中的に注いでいます。

無線向け高周波は両極端な市場

EETJ 無線用途の高周波(RF)製品を手掛ける考えはありますか。先に挙げた3つのポイントのうち、1つ目と2つ目は満たしていますし、3つ目は買収という選択肢があります。事実、Intersilは新興ICベンダーの買収に積極的で、ここ10年の主な買収だけでも9社を数えます。

Bell氏 将来にわたって戦略を変えないとは言えませんが、今現在、RF分野の製品には投資していません。

 RF分野は、半導体メーカーにとって両極端な市場だと捉えています。一方の極は、出荷数量的には非常に大きな規模が期待できるものの、製品があっという間にコモディティ化してしまい、単価も低い。例えば、携帯電話機向け低雑音アンプ(LNA)などがこれに当てはまります。当社はかつてIEEE 802.11b規格に対応した無線LANチップセットを手掛けており、2000年代の初期には70%超の市場シェアを占めていました。しかしその後、IEEE 802.11a規格が登場し、コモディティ化が進んだため、2003年に同事業部門を売却したという実績があります。

 RF分野のもう一方の極は、特定用途に絞り込んだ製品です。単価も高く利益も比較的多く見込めるものの、数量については期待できません。これら両極の中間に位置するような、狙うべき領域がほとんど存在していないのです。


David B. Bell(ディヴィッド B. ベル)氏

 2007年4月にIntersilに入社し、2008年2月から現職を務める。2008年3月には米半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)のボードメンバーにも就任しており、現在もその活動を続けている。

 Intersil入社以前は、アナログ半導体メーカーのLinear Technologyに12年間にわたって在籍し、電源関連製品などを担当する要職を歴任。2003年6月から2007年1月まで社長を務めた。

 米国のMassachusetts Institute of Technology(MIT)で電気工学の学士号を取得している。趣味は自動車。電気自動車は所有しておらず、もっぱらガソリン車を楽しんでおり、自分でエンジンを組み上げるほどだという。

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