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エンジニアは好きなことだけやってる? そんなのウソです“異色のエンジニア” 竹内 健氏 ロングインタビュー(2)(2/3 ページ)

» 2012年04月17日 16時44分 公開
[薩川格広,EE Times Japan]

日本の現実“ハイリスク・ローリターン”は本来あり得ない

EETJ そうして大企業という場を活用し、実力をつける。ご自身は東芝でそれを体現された後、大企業を離れていますね。

竹内氏 会社組織への違和感を抱いていたときに、偶然、東京大学から誘いを受けたのがきっかけです。一晩で転身を決めました。

 退社の少し前に時間軸を戻します。2000年代の初頭のことです。東芝は当時、DRAMを主力事業にしていたのですがSamsung Electronicsなどの海外勢に圧倒され、大きな赤字を出してしまったのです。それで東芝はDRAMから撤退するのですが、そのときにフラッシュメモリの事業部門がDRAM部門を吸収しました。

 それで何が起こったか。DRAM部門にいた年配の管理職が、そのままのポストでフラッシュメモリ部門に横滑りしてきました。以前からフラッシュに携わっていた私たちメンバーは、年次的にはまだ若手です。年功序列の人事制度によって、DRAMで結果的に事業を失敗させた人たちが、フラッシュの専門家であり、事業の立役者でもある私たちメンバーよりも上の役職に就いてしまいました。

 この後の経緯や当時の私の思いは、著作「世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記」の第3章にまとめましたので、ここで詳しくは話しません。しかし明らかに言えることは、変化のスピードが速い現代のハイテク業界において、年功序列の人事制度はもはや持続できないのです。大企業にいると、自分の能力や成果に関係なく、上級管理職や経営幹部に就けるまでの時間軸がすごく長い。あるポストまで自分の前に「あと何人いる」というのが明確に分かってしまう。もちろん、出世の長い行列に並ぶのも1つのあり方です。ただ、私はそれを選びませんでした。

EETJ 年功序列の人事制度は、終身雇用を前提としたかつての日本企業には有効な方法の1つだったかもしれません。社員としては、成果が直ちに役職や給料として報いられることはなくても、長い時間軸の中で見返りが期待できる。いわば報酬を「貯金する」ようなシステムです。

竹内氏 少なくとも電機や半導体、ITといったハイテク業界では、短期勝負です。今日、世界のトップにいたからといって、明日もそうだとは限らない。まさに生き馬の目を抜くような競争が日々繰り広げられています。そうした事業に携わるのなら、エンジニアと企業の関係は、“ハイリスク・ハイリターン”でなければならないんです。これは本質的な問題ですよ。エンジニアが受け取る給料やボーナスなどの金銭的な見返りに限って言えば、事業が当たればガッポリもらえなきゃおかしい。

 もっとも、私個人はお金を仕事のモチベーションにしていませんし、自分が手掛ける技術で世界一になりたいと思っています。お金を求めると判断が曲がってしまう。そもそも物欲もあまりありません。

 エンジニア個々人がたとえこうした考え方を持っていたからといって、企業がエンジニアを“ハイリスク・ローリターン”で処遇して良いということにはなりません。例えば、経営破綻したエルピーダメモリのエンジニアは、DRAMで日本に大きく貢献した人たちですよ。それが今、世間になんて言われているか。彼らは、1990年代あたりに会社がDRAMでもうけていたときに、一生分を稼いでいなければウソなわけですよ。それで「金銭的には一生余裕なんだけど、趣味で働いているんだ!」というくらいのエンジニアがいてもいいんです。日本の大企業にはそうした報奨の仕組みが全く無い。業績連動のボーナスといっても、微々たる金額ですよね。

 役職だってそうです。例えば、人事のルールで、「課長」や「課長待遇」といった役職者への昇進は例えば「年に部で1人」と決まっている企業もあります。実際には部署の規模はさまざまで、業績好調で人数も多く、エース級の人材が集まっている部署もあれば、落ち目で人材に乏しく、わずか数人の部署もある。後者の方が昇進のスピードは速い。なぜか。役職に就けるのが「部に1人」だから。大企業ともなれば、部署の数は何千にもなります。本社の人事部にしてみれば、部署ごとに制度をカスタマイズするなんてできない。多少の運不運はしょうがない。これが現実です。

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