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» 2012年10月02日 07時00分 公開

いまどきエンジニアの育て方(12):コンセプトメイキングを若手育成の場に、“魂が宿るモノづくり”を目指す (2/2)

[世古雅人,カレンコンサルティング]
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エンドユーザーを意識することで、モノには魂が宿る

 目の前で作っている部品が、最終的に何に組み込まれ、エンドユーザーがどのような使い方をするのか――。それを現場が知らなくとも、図面やマニュアル通りに設計/製造すればモノは作れます。ですが、たとえ機械で量産できる部品でも、設計思想を設計に入れ込み、設計を行うのは人間です。エンジニアであれば、

  • いつ使われるのか?
  • どこで使われるのか?
  • どのように使われるのか?

をイメージしながら、「信頼性と安全性はどうなのか?」、「堅牢性と耐久性はどうなのか?」、持ち運びする製品であれば「可搬性はどうなのか?」、といったことを気にするはずです。もちろん、使い勝手や操作性は言うまでもありません。

 「モノには魂が宿る」と昔から言われるように、実際の製品が使われている様子をイメージしながら作る人とそうでない人では、製品の最終的な出来栄えや信頼性に違いが生まれます。出来栄えや信頼性に、製品の種類や部品の大小は一切関係ないのです。

開発の仕事はどこからどこまでなのか?

 さて、開発プロセスにおいて、エンジニアがエンドユーザーを意識するのはどの段階からでしょうか?常識的には、当たり前ですが開発の初期段階からです。理想的には、製品コンセプトを練っている時期からです。ハード・ソフト・メカなどの開発者がコンセプトを共有することが望ましいでしょう。

 では、開発の仕事はどこからどこまででしょうか? 「そんなの、設計の部分に決まっている」と言われるかもしれません。図2をご覧ください。一般的な開発プロセスを上流工程から示したものです。

図2 開発プロセスと各部門の仕事(クリックして拡大)

 「設計」の前に「製品構想」があります。「アイデア」や「思い」を詰め込んだ“製品コンセプト”を練るプロセスです。製品コンセプトがしっかり練れていると、開発が始まってから、仕様変更などに振り回されることは少なくなります。

 ところで、皆さんの会社では、この「製品構想」はどの部門が行っていますか?

 あるいは、「設計のインプットは何ですか?」と聞いた方が良いでしょうか。この質問に対する回答、すなわち、“お客様や市場のニーズです”という回答と、“仕様書です”という回答によって、開発部門がどこまで「製品構想」のプロセスに関わっているかが分かります。

 多くの企業では、企画やマーケティング部門が「製品構想」のプロセスに関わっていることでしょう。したがって、開発部門の回答としては、“仕様書です”というのが大多数になると思われます。もちろん、開発出身のベテランメンバーが、企画やマーケティングに異動して、製品コンセプトを練る仕事をしている会社もたくさんあります。しかし、現役の開発メンバーが「製品構想」プロセスに関わるのは、最低でも開発部門の課長さん以上であるケースがほとんどで、若手のエンジニアが関わることはまずありません。

 別の見方をするならば、エンジニアは顧客や市場の本当のニーズを知らなくても、開発に専念していればいいので、楽と言えば楽なのです。設計だけ行いたいエンジニアもいることでしょう。しかし、設計だけ行っていては、エンジニアがエンドユーザーを意識することが全くなくなってしまいます。誰が、どのように最終製品を使うのかを意識せずに、「企画部門が言っていたから」、「仕様書通りに設計した」という答えが開発現場から返ってくるようになります。

 これは、加速度センサーのB社のケースと似ていませんか?

コンセプトメイキングは「若手育成の場」

 作り上げた製品が、ヒット商品となるか否かは市場や顧客が決めるものです。作り手の理屈だけで決まるものではありません。ですが、やはり、手に取った製品から設計者の思想やこだわりがガンガンに感じられる製品は、どこかエッジが効いているヒット商品に多くみられるものなのです。

 製品の思想は製品コンセプトを練る段階で描かれ、生まれます。企画やマーケティング部門のメンバーだけで練っても、彼らが設計するわけではありません。構想者と開発者が違うので、“設計思想の根っこ”の部分を、開発エンジニアがきちんと理解することは難しくなります。

 設計思想を共有できていないという問題を解決するには、製品コンセプトを練り上げていく場に、エンジニアが関わることです。構想者と開発者が同一であれば、設計思想を共有できないという問題は発生しません。さらに、開発メンバーとして一体感やチームワークが生まれるというおまけも付きます。

 製品コンセプトを練る段階も「開発の仕事」として捉え(図2)、“ハード屋”、“ソフト屋”という垣根なく開発に関わらせることで、成果を出している会社があります。そうした会社は、新入社員や若手エンジニアも「開発の仕事」に積極的に参加させています。

 つまり、エンドユーザーを意識する大切さを教え、製品の仕様書が出来上がる背景を知る場面に若手エンジニアを参画させることで、人材を育成しているのです。

 本連載では、開発部門でOJT(On the Job Training)が機能しなくなったことを何度もお伝えしてきました。ですが、だからと言って、「OJTを機能させるためにはどうすればよいのか」というのを難しく考える必要はありません。上司が若手の仕事の範囲を、ほんの少し広げてあげればいいのです。それによってエンジニアの視野はぐんと広がります。また、何よりも大切な、製品の魂である“コンセプト”の大事さを知ることは、エンジニアとして大きく成長するための糧となるでしょう。


 さて、入社2年目のいまどきエンジニア、佐々木さんの育成に日々格闘しながらも、少しずつ手応えを感じ始めている田中課長。今回の新製品開発プロジェクトでは間に合いませんでしたが、次の開発プロジェクトでは、佐々木さんやこれから入社してくる新人に、コンセプトメイキングから参加してもらおうと考えています。

 また、田中課長は、佐々木さんに「エンジニアとして専門性を高めるために勉強しろ!」と言い続けてはいるものの、ひょっとしたら技術以外にも関心を持たせた方が、中長期的な視点で見れば成長するのではないかと考えました。

 次回は、技術以外の関心事をどう持たせるか、さらに、その効果についてお話します。お楽しみに!

Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



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