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» 2012年11月05日 09時00分 公開

いまどきエンジニアの育て方(14):「図面を書いて終わり」では成長できない 〜製造部門の視点を持たせる〜 (2/3)

[世古雅人,カレンコンサルティング]

「図面を書く、仕様書を出す」だけが仕事ではない

 ベテランエンジニアでもある田中課長は、「データが書き換わってしまう」と聞いた時点で、おおよその原因は分かっていました。「ノイズによる誤動作」です。クロックラインにノイズが重畳している場合は、ノイズを見つけやすく、ノイズを落とすことも容易です。しかし、ワンショットのWR信号のような場合は、振る舞いが一発もの(瞬間的)なので波形観測は少し難しくなります。

 通常のロジアナでは、波形に高周波が重畳しているかまでを観測することは困難です。また、デジタルオシロやサンプリングオシロでも同様で、A/D(Analog to Digital)変換やサンプリング原理の測定知識がないと、経験の浅いエンジニアは波形の振る舞いにだまされてしまいます。たまたま古いタイプのアナログオシロしかなかったこともありますが、田中課長は自分が培った経験を生かすために、今回はアナログオシロを使うことにしました。アナログの回路設計エンジニアのベテランは、どのような周波数成分があるのかを見極めるために、周波数ドメインの測定器であるスペクトラムアナライザを使う場合もあることでしょう。

佐々木君、誤動作しているのは分かるよね?


はい、このヒゲのせいですね。


そうだよ。さっき、WR信号は出ていないと言ったけど、このヒゲがアトランダムにWR信号に重畳しているから、FPGAからすればWR信号が入った状態と同じになるんだ。原因はさっきのぶらぶらしている線だね。


はい。その線はVIDEOのクロックラインでした。


何だって? いったい何でこんな配線をするんだ? 必要以上に線が長いし、おまけにシールド線でもないぞ。


製造部から上がってきたらこうなっていました。配線は、田中課長も「デジタルでも高周波に気を付けろ」とおっしゃっていましたし、パターンで長く引き回すよりも、独立させてケーブルにしたほうが良いと思ったので、こうしてみたんです。


確かにパターンで引き回すよりもいいけど、コストはその分かかるぞ。それよりも、線材の指定や、線の引き回しと長さを製造部に指示しなかったのかい?


そんなの製造部で決めてくれるんじゃないんですか?


試作品は量産品ではないんだから、製造部の人とよく話をして、開発部から具体的に指示をしないと、一般的な線材で配線をしていいと思っちゃうぞ。


回路図と部品定数表などを、BOM(Bills of Materials)データとして製造部に渡したのですが……。


BOM情報の中に、線の引き回しまで書かれていないだろう? 開発部はモノを作ってもらう製造部としっかりコミュニケーションを取らないとな。


はい。ですが、長谷川リーダーからは何も言われませんでした。


開発の仕事は、図面を書くことや、仕様書を出すことだけじゃない。これも勉強だね! 長谷川君には僕から言っとくよ。


部門間でうまく連携しないとダメってことですよね!



開発部門だけで製品は作れない

 本記事の冒頭にも書きましたが、田中課長は、前工程(企画)と後工程(製造)のどちらから佐々木さんに学ばせるべきかを考えていました。今回の試作ボードの一件を通して、まずは後工程である製造の役割を、開発部門としてしっかり分かってもらいたいと感じたようです。

 佐々木さんは、開発の仕事は「図面を書くことだけ」だと思っていました。回路図や部品定数表を書けば、後はその通りにモノが出来上がる。具体的にどう作るのかを考えるのは製造部の仕事だと、そう思っていたのです。

 皆さんもご存じの通り、回路図上では配線は“1本の線”でしかありません。設計者であれば、プリント板のパターン幅を決めるには、どのくらいの電流が流れるのか、インピーダンスはどのくらいなのかなどを分かっています。しかし、回路図にはこれらの情報は含まれていません。同じように、ケーブルを使う配線についても、どのような線材を使うのか、どのくらいの長さなのか、引き回しはどうするのかといった情報は、通常は回路図に記載されていません。

 会社によっては、開発部と製造部の橋渡し役をする、“生産技術”のような部門があり、調整/検査用の治具やソフトを開発する専門部署を設けているとこもあります。しかし、佐々木さんが勤める川崎テックデザインにはそういった部門はないので、開発部の設計者自らが配線指示を出したり、BOM情報の中にそれらの指示を記載したりする必要があります。

 開発部門のアウトプットは回路図などの図面ですが、この図面だけですんなりとモノが出来上がることは、まずありません。

 今回の一件で田中課長は、佐々木さんが、開発部門だけでは製品は作れないということを学んでくれたかなと感じています。佐々木さんも、田中課長から直接アドバイスをもらったことは初めてだったので、少しうれしい様子です。

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