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HDレベルの裸眼3D映像、家庭で楽しめる時代にディスプレイ技術

フィリップス エレクトロニクス ジャパンは、「FPD International 2012」において、56インチの4KディスプレイでHDレベルの裸眼3D映像を披露した。これまで裸眼3Dの主な市場はデジタルサイネージだったが、フィリップスは「家庭向けに市場を拡大できる準備が整った」としている。

» 2012年11月05日 15時21分 公開
[村尾麻悠子,EE Times Japan]

 「これからは家庭のリビングで、HDレベルの3D映像を裸眼で楽しむことができる」――。フィリップス エレクトロニクス ジャパンの担当者はそのように語る。

 同社は、横浜市で開催されたフラットパネルディスプレイ関連の展示会「FPD International 2012」(2012年10月31日〜11月2日)において、裸眼3D映像を体験できるデモンストレーションを行った(図1)。展示の目玉の1つが、56インチの4KディスプレイでHDレベルの3D映像を実現したものだ。

 これまで裸眼3Dディスプレイは、デジタルサイネージが最も大きな市場だった。フィリップスの担当者は、「デジタルサイネージの役割は、通りかかる人の注目を集めること。3Dの映像はそれだけでインパクトがあるので、デジタルサイネージの用途では画質はあまり問題にならなかった。だが、テレビとなるとそうはいかない。また、PCとは違い、ディスプレイもある程度大型のものが求められる」と語る。「今回、56インチの大型ディスプレイでHDレベルの裸眼3D映像を実現したことで、家庭向けに裸眼3Dディスプレイの市場を拡大できる準備が整った」としている。

図1 フィリップスが展示した裸眼3D映像 56インチの4Kディスプレイを使用している。ドルビーの3Dエンコード/デコード技術である「ドルビー3D」を搭載している。

 フィリップスは、裸眼3Dを実現するために、レンチキュラー方式と呼ばれる方法を採用している。カマボコ状のレンズ(レンチキュラーレンズ)を並べたフィルムをディスプレイの前面に張り付けることで、表示される映像が左右の目それぞれに分かれて届き、映像が立体的に見えるというものだ。フィリップスは、このレンチキュラーレンズの設計や、ディスプレイへの張り付け方法についてIP(Intellectual Property)を保有している。

 レンチキュラーレンズは1画素(RGB)に1枚張り付けられるように設計するので、画素の大きさに合わせてレンズを設計する必要がある。同じ大きさのディスプレイの場合は、画素密度が高い、つまり1画素の大きさが小さいほど、レンズの設計が難しくなるという。フィリップスの担当者は、「当社は長年、裸眼3Dの技術を手掛けている。そこで蓄積したノウハウを使うことで、56インチの4Kディスプレイに適したレンズを設計することができた。それによって、HDレベルの裸眼3D映像を実現している」と述べる。

 フィリップスは2011年に開催された「FPD International 2011」でも裸眼3Dのデモを行った。このときに使用したディスプレイも56インチ/4Kだったが、今年展示したものは、幾つか改善を施している。

 まず1つが、視点数*1)を15視点から28視点に増やしたことだ。裸眼3Dは、見る位置によって3Dに見えないことがあるという課題があるが、視点数を増やすことで、“3Dに見えるエリア”を広くすることができる。

*1)視点数とは、「1つの画素だけが見える方向の数」を指す。例えば2視点であれば、2方向から1つの画素だけが見えるようになっている。3D眼鏡は、2視点である。ただし、視点数が増えると、見る位置が固定されない代わりに3D画質が低下するというデメリットもある。

 もう1つが、レンチキュラーレンズの張り付け方だ。これまでは、1枚のレンチキュラーレンズを1画素の両端にぴったり合わせて張っていた。今回は、ややずらして張っている(図2)。これにより、画面に現れる黒い線(モアレ)を減らすことができるという。

図2 レンズの張り合わせのイメージ図 上側が従来の張り付け方で、下側が今回展示したものの張り付け方である。画素の両端にぴったり合わせず、ややずらしてレンズを張っている。

 裸眼3Dディスプレイの市場拡大を狙うフィリップスだが、課題も残っている。例えば、コストの問題だ。今回、HDレベルの3D映像を実現するために56インチの4Kディスプレイを使用したが、4Kディスプレイの供給体制が整うにはまだ時間がかかる。もちろん、価格がより安い50インチ台のフルHDディスプレイなどにレンチキュラーレンズを張り付けることもできるが、その場合は画質が低下して、HDレベルの裸眼3D映像は実現できない。また、より小さいサイズのディスプレイを使うことも考えられるが、フィリップスとしては、「PCではなくテレビで裸眼3Dを楽しめるようにしたいので、ディスプレイはある程度大きい方がよい」と考えているようだ。

 コストの他にも、3Dコンテンツの不足という問題がある。フィリップスの担当者は、「日本でも3D専門のチャンネルなどが登場しているものの、3Dコンテンツの数はまだまだ少ない」と述べている。

 なお、レンチキュラーレンズは液晶ディスプレイだけでなく、有機ELディスプレイなどにも張り付けることが可能だ。フィリップスによれば、「3Dの有機ELテレビなども、実現可能だ」という。

図3 2Dと3Dを切り替えられるタイプの端末
図4 PCのディスプレイも“裸眼3D化”が可能に Appleの15インチ版「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」のディスプレイに、フィリップスがレンチキュラーレンズを張り付けたもの。既製品のPCも、ディスプレイにレンチキュラーレンズを張るだけで、裸眼3D映像を見られるようになる。ユーザーの視線を追いかけるフェイストラッキングの機能を備えている。フェイストラッキングの機能をオンにすると、PCに搭載しているカメラで視線を追い、どこから見ても2視点で3D映像を見ることができる(2視点で見る方が、3Dの画質は良い)。一方、フェイストラッキングをオフにすると、多視点(この場合は28視点)となるので、3D映像として見えるエリアが広くなる。例えば、友人と2人で見るときは、多視点にするためにフェイストラッキング機能をオフにすればよい。自分1人で見る場合は、同機能をオンにすれば、見る位置を気にせずに、より高画質の裸眼3D映像を楽しむことができる。

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