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市場のニーズを知れば、設計の意義が見えてくるいまどきエンジニアの育て方(15)(2/2 ページ)

» 2012年11月27日 09時00分 公開
[世古雅人,カレンコンサルティング]
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若手でもヒット商品を生み出せる!

 田中課長と松田課長がタッグを組んで計画している「2年目エンジニアが参加するマーケティング部の製品コンセプト会議」が気になるところですが、少し違う切り口で読者の皆さんとも一緒に考えてみたいと思います。

 読者の皆さんの中には、「入社1、2年目の若手エンジニアがマーケティング部門の会議に参加しても、会議についていけないか、会議を引っかき回すだけだからやめておけ!」と思われる方もいることでしょう。まずはエンジニアとしての専門性を高めて、マーケティングなどはその後でよかろうと。これが10年前なら、確かにそれも一理あったかもしれません。しかし、今では、企画から設計までをこなす若手エンジニアも登場し始めています。

 例えば、2012年3月にMONOistに掲載された「若手エンジニアたった1人のメーカー経営」という記事をご存じでしょうか。この記事で取り上げられている、Bsize(ビーサイズ)という家電メーカーの代表取締役を務める八木啓太氏は、たった1人で企画から設計、試作、試験・評価までをこなします。それだけでなく、営業、販路開拓、量産製造委託までも1人で手掛けているのです。

 BsizeはLEDデスクライト「STROKE(ストローク)」を開発/販売しています。LEDの照明器具(電気スタンド)としては相当高価な同社の製品が、大量生産している大手電機メーカーの安価な製品と互角に戦えているところがポイントで、これは従来の業界の常識では考えられないことです。

 これまで、もちろん今もですが、そこそこの規模の企業であれば、マーケティング部門が市場・競合調査を行い、顧客の声を拾っていました。市場規模を見積もり、製品コンセプトをしっかりと固め、十分な投資対効果が見込めるとなれば、経営側からゴーがかかり、製品開発に着手することになります。ここまでにどのくらいの時間がかかるでしょうか? また、どのくらいの費用がかかるでしょうか? そして、残念ながら、苦労して出来上がった製品がヒット商品になるという保証はどこにもありません。

 1人で全てを行うことで、第14回で述べたように、製品コンセプトを固める“構想者”=“設計者”となります。設計思想が共有されていないという問題は発生しません。設計者が自分の目や耳で見聞きした顧客/市場の“生きた情報”を、設計思想/設計コンセプトにそのまま生かすためには、開発部門が、前工程である企画・マーケティング部門の領域に踏み込まなくてはなりません

開発の“前工程”を知ろう

 佐々木さんのようなメーカー勤めのエンジニアに対して、設計だけではなく企画や営業をしろと言っているのではありません第13回でお話ししたように、開発部の後工程には製造部が、さらにその先にはエンドユーザーが控えています。後工程のことを少し知るだけで、開発の仕事のやり方は大きく変わります。佐々木さん自身も多くを学びました。同じように、開発部の前工程であるマーケティング部や、マーケットそのものを知って、そこから得たものを設計に生かすことができれば、より広い視野を持つエンジニアに育つでしょう。


 次回は、今回の続きとして、マーケティングにおける「コンセプトメイキング」と「技術マーケティング」についてお話します。

Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



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