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「SiC」と「GaN」のデバイス開発競争の行方は?(企業編)知財で学ぶエレクトロニクス(4)(1/6 ページ)

電力関連の機器の省エネルギー化や小型化に役立つSiCデバイスとGaNデバイス。太陽光発電や電気自動車、家庭用電気製品など幅広い分野で役立つ。今回はデバイスの種類ごとに開発企業を調べ、それぞれ日本国内での特許出願状況を分析した。どの企業がどのようなデバイスに着目しているのかが、出願状況から分かってくる。

» 2012年12月26日 10時05分 公開
[菅田正夫MONOist]

 「知財で学ぶエレクトロニクス」、前回(第3回)は、――「SiC」と「GaN」のデバイス開発競争の行方は?(地域編)――と題して、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体とGaN(窒化ガリウム)パワー半導体の開発動向と、主要地域ごとの特許出願状況を紹介しました。

 今回は、SiCとGaNそれぞれについて主要なデバイスの種類ごとに関連企業の動向を分析していきます。技術者が自ら特許情報を検索する手法についても記事の末尾で紹介しました。


次世代パワー半導体はシステムの小型化を加速

 SiCやGaNを用いたパワーデバイスは、電力変換器の小型化に向く特性を2つ備えています。高速のスイッチング動作が可能であり、耐熱性が高いことです。

 SiCやGaNでは、Si(シリコン)パワーデバイスの数倍の速度でスイッチングができます。スイッチング周波数が高いほど、コンバータを構成する部品(インダクタなど)に小型の品種を採用しやすくなります。

 耐熱性に関してはSiC、GaNパワーデバイスの利用で200℃以上での高温動作が可能になり、コンバータの冷却機構の小型化などがより一層進みます。ただし、Siパワーデバイスでは未経験な高温での接合や実装の技術課題を乗り越える必要があります。

 こうした利点は、SiCやGaNの物性に由来しており、Siと比較して、絶縁破壊電界やバンドギャップ、熱伝導率が大きく、電子飽和速度やキャリア移動度が速いといった特性によるものです。



SiCデバイスの日本における特許出願状況

 前回は、SiCとGaNそれぞれを用いた10種類のデバイスの特許出願状況を紹介しました。ショットキーバリアダイオード(SBD)や電界効果トランジスタ(FET)、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、バイポーラジャンクショントランジスタ(BJT)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)について一覧表の形でまとめたうえ、それぞれを用いた複合部品であるコンバータとモジュールについても触れました。

 今回はこの10種類のデバイスと4種類の複合部品それぞれについて、日本における企業ごとの特許出願状況を順に見ていきます。まずは、SiCについて7つ、次にGaNについて7つ、それぞれ図を見ながら追っていきましょう。

 図1は、SiC SBDについて、日本公開系特許の出願件数を年ごと(2000〜2011年)、企業ごと(19社)にまとめたものです。出願件数に比例した円で図示しており、いつ、どの企業の出願が多かったのかが一目で分かります。

図1 SiC SBD関連の日本公開系特許出願件数の推移 ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)についてまとめた(図のクリックで拡大)。

 三菱電機は2008年以降、トヨタグループ(デンソー、トヨタ自動車、豊田中央研究所)は2007年/2008年以降、それぞれ積極的な特許出願を行っています。

 三菱電機はSiC SBDとSiC FETを開発し、2006年1月にはそれらを用いたSiCインバータを用いて、3.7kW定格の三相モーター駆動に世界で初めて成功しています。電力損失をSiインバータに比べて、54%低減できることも実証しました*1)

 これらの三菱電機の特許出願動向は、2012年7月からのSiC SBDやSiC FETを搭載したモジュールのサンプル提供につながるものになっています*2)

 2007年以降のデンソーと、2008年以降のトヨタ自動車と豊田中央研究所の特許出願は、デンソーが2012年5月に公表した小型SiCインバータにつながるものと考えられます(関連記事:デンソーが小型SiCインバータを披露、出力密度は世界最高水準の60kW/l)。

 東芝は2002年に新型接合終端構造「GRA-RESURF」(Guard Ring Assisted-REduced SURface Field)の試作を終えています*3)。この試作の完成が、2003年以降の東芝のSiC SBD関連の特許出願件数推移の少なさに反映されていると考えられます。

*1) 三菱電機の発表資料:シリコンカーバイド(SiC)インバーターで3.7kW定格モーターの駆動に成功

*2) 三菱電機の発表資料(PDF):「SiC パワー半導体モジュール」サンプル提供開始のお知らせ

*3) 東芝の研究開発に関する論文集(PDF)、東芝レビューVol.59 No.2(2004)。この他、独立した論文もある。Kinoshita, K., et al. Guard Ring Assisted RESURF: A New Termination Structure Providing Stable and High Breakdown Voltage for SiC Power Devices. Proceedings of the 14th International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs 2002. Santa Fe, NM, 2002-06. IEEE, 2002, p.253-256.

次世代パワー半導体は省エネの切り札

 Siパワー半導体はコンバータやインバータといった電力変換器の電力制御に利用されています。そこにSiCやGaN、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドといった次世代パワー半導体が続々と登場しています。いずれもSiパワー半導体の物性をしのぐ、「省エネの切り札」として電力会社や自動車メーカー、電機メーカーなどが開発に取り組んでいます。SiをGaNやSiCといった半導体に置き換えることで、Siパワー半導体よりも高温での動作が可能になり、大幅な効率向上や放熱機構の小型化(さらには省略)が実現できるからです。

 現在さまざまな分野で、Siパワー半導体を使ったダイオードやMOSFET、IGBTなどが利用されています。例えば、一部の配電システムや電車、ハイブリッド車(HV)、工場内の生産設備、太陽光発電システムで利用するパワーコンディショナー、エアコンなどの白物家電、サーバやPCなどです。こうした分野で、Siに替わってSiCやGaNが利用されるようになりつつあります。

 SiCは、鉄道車両向けモーター用インバータ装置や、エアコンなどへの採用が既に始まっています(関連記事:三菱電機がSiCパワーモジュール外販へ、家電用と産業機器用の5品種を一挙出品)。GaNやSiCで作製したパワーデバイスの利用で、電力損失が小さくなるのは、オン時の損失とスイッチング損失の両方を低減できるためです。例えば、インバータは、パワーデバイスとしてダイオードとトランジスタを利用します。このダイオードをSiからSiCに置き換えるだけで、インバータにおける電力損失を15〜30%ほど低減できるとされています。さらに、トランジスタもSiからSiCに置き換えれば、電力損失は半分以下に低減できるといわれています。電力損失が低減した分、発熱量が減るので、コンバータの小型化が一気に進みます。



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