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» 2013年03月25日 08時00分 公開

「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(15):会議は、非リアルタイム系の“読み書き戦”に持ち込む (6/6)

[江端智一,EE Times Japan]
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(付録)「分かってもらう意図が見えない著作物に関する、トム(江端智一)の所感」

 さて、冒頭の、米国コロラド州にある大手のIT会社に赴任していた時の話に戻ります。

 私は、英語を公用語とする多国籍のメンバーから成る開発チームに配属されました。その会社は二人でコンビを組んで仕事を進める方法を取っており、私はジョンという男性のパートナーと仕事をすることになりました。

 ジョンは通信管理ソフトウェアのプログラム開発を行い、私はそのプログラムのツール開発とテスターをやっていました。テスターとは、プログラムコードをありとあらゆる方法で攻撃し、そのプログラムの弱点(バグなど)を見つけ出すことです。

 ご存知かもしれませんが、私はコンピュータプログラムを「攻撃して」、「いじめて」、「破壊する」ことにかけては、尋常ならぬ才能と情熱を持っているようで、ジョンがせっせと作ったプログラムコードの弱点を、たいていの場合、一時間足らずで見つけ出し、停止状態に追い込みました。

写真はイメージです

 ジョンの方から見れば、プログラムコードをリリースすると、1時間以内にバグを見つけて速攻メールで報告してくる、誠にうっとうしいパートナーがいたわけです。さらに、そのパートナーは、ジョンがその修正版をリリースしないと、ジョンに何度も問い合わせのメールを出し、その返事がこないと、おずおずと席にまで出かけて、「あのー、あの返事、まだかな」と尋ねに行くようになります。あの時のうんざりするようなジョンの顔は、まだよく覚えています。

 それだけならまだしも、そのパートナーは、英語で書かれたメールの内容で分からないフレーズがあれば、そのメールを印刷し、アンダーラインを引いてジョンに尋ねに行きましたので、ジョンは、自分の仕事ペースを崩された上に、英語の教師までさせられるという不遇な日々を送らなければならなかったのです。ジョンには気の毒だと思いましたが、諦めてもらいました。

 そのうち、私のこの「電子メール」による執拗(しつよう)な質問攻めは、チーム内で周知となりました。

――トムが理解できないフレーズ(慣用句など)を使ったメールを送ると、後で面倒なことになる

 私は変な形でチームにプレッシャーを与え続け、その後、チームメンバーからは、要旨明快、簡潔簡単、単刀直入な英文メールだけが、私に届くようになったのでした。

 しかし、私の方は私の方で、そりゃもう必死でした。英会話の代替として電子メールを使っていたのですから、当然、そのメールの内容はチームメンバーの誰が読んでも分かるように記載しなければなりません。

  • 手書きでも絵を書くこと(前後の動きで記載すること)
  • 文章はできるだけ詳しく、事例に沿って具体的な内容として明確に記載し、かつ、できるだけ短く、推測と事実を完全に分離して記載すること
  • 要求には、内容と期日(時間)を確実に指定すること

 これは、これまでの連載でたびたび私が申し上げてきたことですが、同時に、これらは、いわゆる「テクニカルライティング」の基礎と言われている事項でもあります。

 なぜ、そのように記載しなければならないのか。

 そうした記載が「正しいから」ではありません。そのように記載しないと「通じないから」です。図らずも私は、この米国赴任中の電子メールの応酬によって、テクニカルライティングの「精神」を理解するに至ったのです。

 日本国内において、日本人同士であれば、たとえ私の文章に問題があったとしても、「読み手(の能力、理解力、その他)が悪い」と逃げを打つこともできたかもしれません。しかし、米国において、多国籍のチームのメンバーが「分からない」と言うのであれば、誰がなんと言おうとも、絶対に「分からない」のです。

――どんな手段を用いようとも、絶対に分かってもらう

 極東の島国のエンジニアが、汚い手書きの絵とマーカーを引きまくったプログラムリスト用紙をつかみ、すごい形相をしてパーティションに走り込んでくる姿は、チームメンバーにとって結構怖かったのではないか……と、今となっては思います。


 ゆえに、私は「分かってもらう意図がない」「分かってもらう努力を見いだせない」全ての文章を許せません。「分かってもらうこと」に命をかけた文章は、必ずその要旨が明快で、簡潔に説明でき、そして美しいものです。

 ですから、要旨を箇条書き3行で記述できず、口頭3分の説明でまとめきれない全ての報告書、特許明細書、論文、そして、小説やポエムや広告でさえも、

――全てゴミである

と断定します。

 この私の信念は、あの2年間の米国赴任で完成したのです。

 いや、これは「信念」ではありません。「怨念」です。


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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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