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» 2013年03月28日 08時00分 公開

「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(16):ホテルは“最後の戦場”である (5/5)

[江端智一,EE Times Japan]
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(付録1)ナゾの「ちんちんおじさん」〜海外は危険と面倒であふれ返っている〜

 IETF(Internet Engineering Task Force)ミーティングの2日目は、夜の9時まで行われました。その後、会食などの予定も全くなかったので、私はホテルの最上階にあるサウナに向かいました。

 周りのメンバー(日本人)も誘ってみたのですが、あまり興味がないようでしたので、私は部屋の浴室のタオルを一枚つかむと、一人で最上階行きのエレベータに乗りました。

 エレベータから降りると、いきなり無機質なロッカールームが現れ、そこから「サウナ」と書かれた矢印をたどって奥の廊下を進んでいきました。ドアの前で、サウナが男性用であることを確認してから脱衣室のドアを開けると、そこにはとんでもないものが転がっていました。

写真はイメージです

 太った、というよりは、はっきり言って太りまくって肉がぶよぶよした白人の男性が、体を仰向けにして、火照ってピンク色になった肌をさらしながら――「ちんちん」を天井に立て、そして時々「ちんちん」をいじりながら(“いじっていただけ”です。念のため)――、サウナのクーラー通気口の上に寝そべっていたのです。

 それは、私の人生で三本の指に入る、醜悪な光景でした。

 私は内心びっくり仰天して、すぐさま180度回転してその場を立ち去りたかったのですが、この程度の異様な光景に動じる風を見せることは、自分のプライドが許しませんでした。

 「ふふん。俺はなあ、この程度の異様な光景には何度も立ち会ってきたんだぜ」と強がりつつ、「自分で自分に言い聞かせても仕方がないだろう」と自分に突っ込みながら、わざと平静を装って、そのままサウナ室に入っていきました。

 しかし、脱衣場の中に、「ちんちん」をいじりながら寝そべる白人男性と、私しかいないことを確認するまで、それほど時間はかかりませんでした。私は新たな恐怖に襲われましたが、(大丈夫だ、智一。お前は合気道の有級者(5級)*1)じゃないか、大丈夫、大丈夫)と自分に言い聞かせながら、私は服を脱ぎ出しました。

*1)先輩のNさんに「お前なあ、『有段者』という言葉はあるが『有級者』って言葉はないぞ。せめて『経験者』くらいにしておけ」とアドバイスされました。

 日本から持ってきた文庫本を読みながら、狭いサウナ室で汗を流していると、あの「ちんちんおじさん」がサウナ室に入ってきました。私は本に集中しているふりをしながらずっと無視していたのですが、数分が経過して、「ちんちんおじさん」が何気ない風に口を開きました。

ちんちん:"Hot!"(熱いなあ)

 こういう状況で口をつぐみ続けることは、難しいのです。(くそっ、やっぱりしゃべりかけてきやがったか!)と思いつつ、私も仕方なく答えました。

江端  :"Too hot"(熱すぎますね)

 これに気をよくした「ちんちんおじさん」、私にいろいろと聞き始めました。

ちんちん:『インターネットの国際会議に出席しているのか』
江端  :『そうだが、あんたも?』
ちんちん:『いや、私は別の会議だ』

 「明日会議で出会ったりしたら面倒くさいったらありゃしない」と思っていたので、私はほっとしました。

ちんちん:『日本人だろう。私はカナダ人だ』
江端  :『この国は始めてか?』
ちんちん:『いいや、2回目だ』

というような、どうでもよい会話をしばらく続けた後、少し会話が途切れたので、私は再び文庫本の方に目を落としました。

ちんちん:『どうしてお前はサウナでパンツ(水着)をはいているんだ』

 「お前の知ったことか!」とも思いましたが、私は一応丁寧に答えてやりました。

江端  :『サウナの後にプールに入るつもりだ。だからパンツ(水着)をはいているのだ』
ちんちん:『プールは既にクローズしているぞ』

 私は一応プールが開いている時間を調べてきていましたので、驚きました。後で調べたら、やっぱりプールは営業時間内でしたが。

江端  :『そうか。でも一応行ってみようと思う』
ちんちん:『プールに入れないのだから、パンツ(水着)を脱げよ(Take off your shorts)』

 来たか! やっぱり来たか!! 最初からそうなるような気がしていたんだ。

 私は驚きつつも、心のどこかで自分の予想が当たっていたことに感心していました。

ちんちん:『暑苦しいだろう。パンツを脱いだら楽になるぞ』
江端  :『いや、俺はこのパンツが好きだ(I like this shorts)。このパンツは快適だ(I feel comfortable this shorts)』

 「くだらない英語をしゃべらせるんじゃねえ!」と私は笑顔のままで半分以上怒っていました。それでも、ちんちんおじさんは、執拗(しつよう)に『パンツを脱げ』とせかすので、私は話題を変えるために言いました。

江端  :『私はサウナが大好きなので、私の友人をこのサウナに招待した(I invited my friends this sauna)。すぐに彼らはここにやってくるだろう』

 そう言うと、「ちんちんおじさん」は、ちょっと首をかしげた風にした後、そのままサウナ室から出て行きました。


 今になって考えると、あの「ちんちんおじさん」は、親切心で「パンツ(水着)を脱いだほうがサウナを楽しめる」と私にアドバイスをしてくれたのかもしれません。

 しかし、百万歩譲って、あのおじさんが変態でも同性愛者でもなく、単に親切な人物であったとしても、私は異国人の他人に対して「パンツを脱げ」と言うような文化など、断じて認めるわけにはいかない、と思うのです。

江端さんのひとりごと「IETF惨敗記2(白夜のノルウェー編)」より抜粋


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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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