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コードレス掃除機を駆動時間で評価するのは間違っている! 掃除機は吸引力であり、ダイソンは妥協しないダイソンのモーター開発責任者

ダイソンは、コードレス掃除機ながら、一般的なコード/キャスター付きの掃除機と同等以上の吸引力を誇る「DC62」を発売した。コードレスという制約が多い中で、どうやって吸引力を高めた掃除機を実現したか。ダイソンのモーター開発責任者に聞いた。

» 2013年09月04日 07時30分 公開
[竹本達哉,EE Times Japan]

 ダイソンが2013年8月30日に発売した新型コードレス掃除機「DC62」は、“コード付き掃除機よりも多くのゴミを吸い取る”がキャッチフレーズ。発売日当日に開催した新製品発表会でも一般的なコード付き、キャスター付きの掃除機よりも、ゴミを吸い取る比較デモを披露し、その集じん力、吸引力をアピールした。

新型コードレス掃除機「DC62」

 コードレス掃除機は、吸ったゴミをためるタンクやモーターなどが入った本体を持って掃除するものであり、小型、軽量が求められる。何より、電源は電池。強い吸引力のための電気エネルギーを多く得られない。ハイパワーを得るため、電池のエネルギーを多く使えば、その分、掃除機の駆動時間も短くなってしまう。当然のことながら、制約の多いコードレスで、十分な電力が得られ、駆動時間やある程度の重量/サイズを気にしなくて良いコード/キャスター付きの掃除機並みの性能を出すことは難しい。

製品発表会で披露したデモのようす。DC62(手前)と国内家電メーカー製の一般的なコード付き、キャスター付きの掃除機(奥)を使って、細い溝に入り込んだ白いゴミを吸引ヘッドを1往復させて吸引した。奥の溝には、少し白いゴミが残り、DC62で掃除した手前の溝にはゴミが見えない (クリックで拡大)

 そこで、キーとなるのは掃除機の吸引力に直結するモーターと、ダイソンの代名詞でもありモーターの吸引をより大きくする「サイクロン」を起こす機構、そして電池だ。その中でも、心臓部といえるモーターの開発部門責任者であるAdriano Niro氏に、新製品に初搭載したモーター「DDM(ダイソンデジタルモーター) V6」を中心に、“コード付き掃除機よりも多くのゴミを吸い取る”コードレス掃除機の採用技術、開発コンセプトなどを聞いた。


コードレス掃除機を再定義したかった

EE Times Japan(以下、EETJ) 今回の新製品DC62の製品コンセプトについて教えてください。

ダイソンでモーター開発部門責任者を務めるAdriano Niro氏

Niro氏 まず、ダイソンが掃除機を作る限り、掃除機としての性能で妥協はしたくないという前提がある。掃除機で最も重要なことは、ゴミを吸うことだ。コードレスでも掃除機である以上、コード付き掃除機よりも、ゴミを吸う能力が劣ることは許されない。“2台目の補助的な掃除機ではなく、きちんとゴミが吸える掃除機”として、コードレス掃除機を再定義する――。そこを最優先に考え、開発に着手した。

EETJ 2012年に発売されたコードレス掃除機の前世代品「DC45」からの改良点はどのようなものがありますか。

Niro氏 改良点は、挙げきれないぐらい多数ある。その中で、吸引力を高めるという点では、モーターとサイクロンの改良が大きなポイントだ。

EETJ まず、モーターについてお教えください。

Niro氏 モーター開発に着手したのは、4〜5年程前だ。開発に当たっては、前世代のDC45に搭載したモーター「DDM V2」と同じサイズながら、モーターパワーを2倍に高めることを目標に置き、46人のエンジニアで開発に当たった。DDM V2からの最大の変更点は、ネオジウム磁石の数を2極から4極に増やした。またベアリング(軸受)も見直した。これらの改善により、パワー、回転数ともに向上した。新しいDDM V6の回転数は最大毎分11万回転になった。

新開発のDDM V6モーター。黒いパーツがインペラで軸部分に4つのネオジウム磁石が入っている。モーターの基板には、バッテリーマネジメント機能も搭載した

駆動時間を必要最小限にとどめ、吸引力を維持

EETJ モーター出力についてはいかがですか。

Niro氏 DDM V2は200Wだったが、DDM V6は350Wと1.5倍になった。これは、電池による部分も大きい。電池メーカーの努力で、電池の出力密度が向上したことで実現できた。

EETJ モーター出力が高まったことで、掃除機の駆動時間を維持するには、相当電池容量を増やす必要があったのでは?

Niro氏 電池容量は、ほとんど変わっていない。ハンディータイプである以上、電池の重量をこれ以上増やすことはできない。

EETJ 高い吸引力を実現しながら、電池容量が同じということであれば、駆動時間は犠牲にしたということですか?

Niro氏 まず、明確にしたいのが、コードレス掃除機の性能を、1回の充電での駆動時間で評価する向きが強いがそれは、間違っているということだ。繰り返しになるが、掃除機はゴミを吸う力で評価されるべきだ。駆動時間が長いに越したことはないが、吸引力を犠牲にすることはない。

 加えて、今回DC62を開発するに当たって、日本の住宅でどのように掃除が行われているか徹底して調査を行った。その結果、75%の家庭で掃除機の駆動時間が20分以下だという結果を得た。さらに、オンオフを小まめにできるトリガー(引き金)式スイッチの掃除機であれば、95.5%の家庭で掃除機駆動時間は20分以下だった。DC62の連続駆動時間は26分。吸引力で妥協せず、ある意味、駆動時間を犠牲にはしているが、日本の住環境で必要とされている駆動時間は十分に満たしている。

15個の“サイクロン”で風量を増幅

EETJ ダイソンの代名詞でもある「サイクロン」の部分での改良点はどのようなものですか。

Niro氏 モーターの回転数アップやインペラ(モーターの回転で回る羽根)の改良で強まった風量を、さらに強めるのが“サイクロン”の部分だ。“サイクロン(サイクロンを起こす筒のような機構)”は単純に数を増やすことで風量を強められる。DC45では6個だった“サイクロン”の数を、今回、15個まで増やした。少し“サイクロン”部分のサイズは大きくなったものの、“サイクロン”を2層で配置し、プラスチックとゴムを一体成形するなどの製造方法も取り入れ、極力サイズを抑えながら、サイクロンの数を増やすことができている。

DC62のカットモデル。サイクロンを2層に配置し、15個搭載することに成功した (クリックで拡大)

EETJ DC62の重さ(パイプ、モーターヘッド部など含む)は、2.03KgでDC45よりも300g程軽くなりました。小型化、軽量化のポイントなどありますか。

Niro氏 いくつかあるが、代表的なものが、モーターの制御基板だ。従来はモーターの制御と、バッテリーマネジメント用の基板は別個にしていたが、今回はモーター制御基板にバッテリーマネジメント機能を搭載し基板を1枚に集約した。これにより、コネクタなどの数も減り、小型化、軽量化に貢献し、デザイン面でもより自由度が高まった。これらの工夫も手伝って、DC62は、使い勝手も高まっていて、ゴミをためるタンクのふたを外すスイッチを右面、左面の両方から操作できるようにしたり、よりフィルタを取り出しやすくするなどの改良も施されている。

EETJ 今回、コード付きの掃除機に匹敵するコードレス掃除機の実現で、掃除機はコードレス型が主流になりますか?

Niro氏 より多くの場所でコードレス掃除機が使用されるようになるという流れにはある。しかし、コード付き掃除機も、コード付きとしての役割がある。ダイソンは、全ての掃除機を開発し続けていく。

今後の開発方針

EETJ 今後のモーター、掃除機の開発方針をお聞かせください。

Niro氏 あまり多くを話すことはできないが、いろいろな方向性で開発を進めていく。例えば、DC62は日本の住環境では、十分な駆動時間だが、より大きな家が多い欧米では物足りないのは事実。電池はわれわれでは開発しないが、電池メーカーとともに協力しながら駆動時間を延ばしていくことになるだろう。

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