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検証 ルネサス再建〜2013年下半期〜ビジネスニュース 企業動向(2/2 ページ)

» 2013年12月18日 07時30分 公開
[竹本達哉,EE Times Japan]
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節目の9月

 2013年9月は、2012年末に決定した産業革新機構の他、ルネサスの大口顧客である取引先8社による、総額1500億円の出資の払込期限が2013年9月末に設定されていたためだ。払い込みが完了すれば、産業革新機構がルネサスの発行株式の約7割を掌握するため、「実質国有化」されることを指す。これまで、NEC、日立、三菱という3社の親会社からの影響力が相対的に弱まった、“新生・ルネサス”としてスタートが予定されていた。

モバイル事業、買い手が見つかる

 その9月にルネサスが最初に発表したニュースは、ルネサスにとって少し明るいニュースだった。鶴岡工場同様、売却先が見つからず、2013年6月に2013年内中の事業清算を決めていたモバイル事業を、一転してブロードコムへの売却が決定したとのニュースだ。売却総額は約1億6400万米ドル(約164億円)であり、2010年11月にノキアから同事業を買収した際の約2億ドル(当時の為替レートで約180億円)分に近い額の資金回収に成功した。

早期退職は想定規模下回る

 産業革新機構などの払込期限が間近に迫った9月27日には、2013年1月に実施を発表していた「2013年9月30日を退職日とする早期退職優遇制度」の実施結果を発表した。同制度の対象者は、「ルネサスと国内連結子会社社員の40歳以上の総合職など」とし、募集人員は「3千数百人」だった。しかし、同制度への応募者は、2012年10月末付で7500人規模の早期退職優遇制度を実施した後ということもあってか想定を大きく下回る2316人。希望退職者が減少は、今後、もし、さらなる人員削減を実施するにあたっては、整理解雇の必要性が高まっているということを意味する。

 ただ、実施結果発表時にルネサスは、「本早期退職優遇制度実施の公表時以降の他社への移籍や自然減などによる減員を加えると約3千人の人員減となった」とコメント。今回の早期退職優遇制度の対象外だった40歳未満の若手従業員の流出が進んでいることも明らかになった。

期限ギリギリでの出資払い込み完了

 そして、払込期限の2013年9月30日、ルネサスは、産業革新機構と顧客企業8社から第三者割当増資に伴う1500億円の払い込みが完了したと発表。なお、払い込まれた1500億円の使途は、(1)マイコンの先端プロセス開発および開発基盤の標準化に400億円、(2)生産(試作・量産)に用いる設備に200億円、(3)自動車向け半導体のソリューション事業に400億円、(4)産業向け半導体のソリューション事業に400億円、(5)経営基盤再構築のための開発に100億円、それぞれ投資するとされている。

 なお、ルネサスは払い込み完了の発表とともに、約7割の株式を持ち筆頭株主となった産業革新機構が、「投資育成を図り、キャピタルゲイン獲得を目的として当社の株式を有していることなどにより、親会社に該当しないと判断した」との発表も行い、一定の独立性を強調した。

“新生・ルネサス”としての変革プラン

 実質的な国有化が成された“新生・ルネサス”として、初の業績発表の場となった2013年度中間決算説明会(2013年10月30日)では、新たな経営再建に向けた「変革プラン」を公表した。

 変革プランは、骨子は「マーケットイン志向」「内部運営」「さらに強固な財務体質の構築」という3つの課題の解消し、「2016年度営業利益率10%達成を目指す」というもの。そのための具体策としては、製品ミックスの改善を実行し、固定費、変動費を改善させて粗利益(Gross Profit)の改善を追求していくとする。製品ミックスの改善では、デバイス単体販売に加え、複数デバイスやソフトウェア、サービスを含めたキット/プラットフォーム販売を強化していくと、従来方針をあらためて強調するなど、内容としては目新しさに欠けた内容となった。

 ただ、変革プランを説明した作田氏の口からは、「発表資料では“課題”と表現しているが、率直に言って“課題”ではなく“危機”として認識している。マーケットイン志向を分かりやすく表現するならば、“ルネサスが市場/顧客から離れつつある”ということ。内部運営についても、一般的な会社よりも、少なくとも前にいた会社(オムロン)よりも“社員の(事業に対する)当事者意識が低い”という危機にある。粗利益率も改善傾向にあるが、財務的に見ればまだまだ脆弱(ぜいじゃく)」とこれまでのルネサスを否定する内容の発言が相次ぐなど、これまでとの違いも感じさせる会見となった。

 作田氏は、同会見で「設計開発拠点は、ばらついているので、もう少し集結した方がスムーズになる。本社を置くビルも16年3月に立て替えの計画があり移動しなければならず、NECから借りている拠点や老朽化している拠点もあり、それらも考慮して、集約を考えていく」と新たに設計開発拠点の統合による効率化にも言及した。

 そして、2013年の年の瀬を迎えても、半導体を手掛ける国内企業と鶴岡工場売却交渉が始まったことや、2013年度中間決算発表時に作田氏が再開を示唆していた賞与の支給が行われたことが、一部メディアで取り上げられるなど依然としてルネサスへの注目度は高い。

2013年は営業黒字を維持

 この1年間、ルネサス再建の足跡をたどってみると、モバイル事業売却など着実に歩みを進めた感がある。

 2010年4月の発足以降の業績を振り返ってみても、東日本大震災以降の2011年4〜6月期から7四半期連続で営業赤字を計上したが、2013年に入ってから3四半期連続で営業黒字を確保し、その黒字幅も徐々にではあるが、拡大基調にある。

2010年4月以降のルネサスエレクトロニクス四半期業績の推移 (クリックで拡大)

 ただ、売り上げに目を移すと、回復傾向にあるものの、発足時の売上高の3分の2程度にとどまっており、物足りなさが残る。これまで、生き残りに向けたリストラが中心だったルネサスの再建。2014年は、成長、拡大に向けた施策の実行が期待される。

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