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“電力大余剰時代”は来るのか(後編) 〜原発再稼働に走る真の意図〜世界を「数字」で回してみよう(5)(3/3 ページ)

» 2014年09月05日 07時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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再生可能エネルギーは、インフラのベース電源になれるか

 では、最後に、前ページの表の一番下の行にある「非化石エネルギー」について、少しだけお話したいと思います。「非化石エネルギー」とは、水力、太陽光、風力、バイオマス、地熱などによる発電のことで、いわゆる再生可能エネルギーと呼ばれるものを含んでいます。

 現在の太陽光パネルによる発電量を調べてみたのですが、驚きました。合計663万キロワットの発電能力があったのです(100万キロワットクラスの発電所、7つ分)。日本の平均使用電力が「10000万キロワット」ですので(前回を参照)、実に日本の電力の7%近くも担保していることになるのです。

画像はイメージです

 もっと頑張ってこれを3倍まで増やし、2000万キロワットにもすれば、数字上は、原子力発電の代わりとなる、我が国の社会インフラのベース電源になるはずです。

 これなら危険な原子力発電に依存しなくても大丈夫じゃないかと思い、興奮気味に後輩に相談したところ、

『江端さん。あなたはアホですか?』

と一蹴されてしまいました(私の回りには、こういうことを平気で言う後輩が、山ほどいます)。

■その「663万キロワット時」はうそではありませんが、この日本は、24時間、昼も夜も太陽がギンギンギラギラ照っている場所ではありませんよ(そんな場所は世界のどこにもない)。平均発電量に換算すれば、その2割もあれば御の字です
■つまり、曇りになると電力が少なくなり、夜になると電力が全く生成されない、そんな不安定な電力です
■そんな電力が、エレベータや、交差点の信号機や、鉄道に使えると思いますか? そのような電力に、自分の命を賭けられますか?

 私は、素直に「参りました」と答えました。

 確かに、「夜になると閉店してしまう発電所」というのは、社会インフラのベース電源として使うには無理かな、と思います。

 それでも自分の家の電力だけでも、自分で作り出すことができれば、それだけでも十分に意義はあると思います。次回、これも数字で回してみたいと思います。


 では、前編も含めた今回の内容をまとめてみたいと思います。

  1. 日本の人口と使用電力には相関があり、人口の増減の影響が、16年間後の電力使用量に現われるという傾向が観測された
  2. 現在の少子化傾向が改善されることなく続き、上記1の傾向が「真」であるとした場合、2023年から電力使用量は減少に転じ得る
  3. 遅くとも2030年には「電力が足りる/足りない」の議論は終えんし、電力が余る時代に突入し得る
  4. 今後、原子力発電は、「不足電力の担保」の意義が薄れ、全てのエネルギー燃料の輸入が途絶えた場合の「非常用電源」としてその存在意義が強化されていく
  5. 太陽光発電などの再生可能エネルギーを、原子力発電の代替となるベース電源として考えるのは難しい

 次回は、「電力」シリーズの最終回を予定しております。

 今回書き切れなかった、「自分の家の電力だけなら、自分の家で作り出すことができるか?」「どうして電力会社は、原子力発電を捨てて逃げ出さないのか?」を、「数字」で回してみようと考えています。


※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。


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Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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