メディア

グラフェン+半導体ポリマーの“ハイブリッド素材”、高性能な有機トランジスタ実現の鍵に材料技術

スウェーデンの大学とスタンフォード大学が、単層グラフェン上に半導体ポリマーが形成された“ハイブリッド素材”を開発。シリコンに匹敵する性能を持つ有機トランジスタの実現にまた一歩近づいた可能性がある。

» 2015年03月04日 10時15分 公開
[R. Colin JohnsonEE Times]

 グラフェンは、いずれSi(シリコン)に取って代わる存在になるとされている。シリコンの10倍を超える電子移動度を実現できるだけでなく、シリコンの微細化をめぐる数々の問題を解決できる可能性も秘めているためだ。しかしグラフェンには、トランジスタを形成するために必要なバンドギャップがないため、これまでなかなか開発が進まなかった。

 今回、グラフェンを半導体ポリマーでコーティングすることにより、シリコンに匹敵する有機トランジスタを数分の1の価格で実現可能とする研究成果が明らかになった。

 スウェーデンUmeå Universityの研究グループは、米スタンフォード大学、およびスタンフォードシンクロトン放射光源研究所(SSRL:Stanford Synchrotron Radiation Lightsource)との協業によって、グラフェンと半導体ポリマーを使った“ハイブリッド”材料の試作品を開発し、驚くべき成果を挙げた。このハイブリッド材料は、高分子材料の性能を大幅に向上させた高電子移動度半導体であるため、柔軟性を維持しながら、プレーナ(平面)型と垂直型、いずれにも応用可能だとしている。

*)SSRL:SLAC国立加速器研究所(SLAC National Accelerator Laboratory、旧スタンフォード線形加速器センター)内の研究所。

単層グラフェン上に半導体ポリマーを形成

photo 半導体ポリマーを乗せた単層グラフェンは、電子移動度が増す(クリックで拡大) 出典:Umeå University

 Umeå Universityの教授であり、スタンフォード大学SLACで今回の実験を手掛けた国際研究チームのリーダーを務めるDavid Barbero氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「高分子膜とグラフェン層はいずれも、もともと柔軟性を備えている。今回の実験で使用したガラス基板とシリコン基板は、柔軟性がなく硬いため、スタック全体も硬くなってしまう。しかし、柔軟な基板上で同じグラフェン/高分子薄膜を作成したことで、スタック全体の柔軟性も確保することができ、フレキシブルデバイスへの応用が可能になった」と述べる。

 グラフェンをウエハー全体に成膜することは非常に難しい。しかし、Barbero氏の研究チームは、単層グラフェンを金属上で簡単に製造でき、シリコン基板やガラス基板の他、フレキシブル機器向けの高分子基板にも移植が可能な手法を開発したという。

photo 膜厚が厚い方が、電子が伝わる経路が形成されやすいのではないか(クリックで拡大) 出典:Umeå University

 Barbero氏は、「石英管を使い、CVD(化学的気相成長)法によって、銅箔上に広い面積の単層グラフェンを合成した。その後、グラフェン層を高分子層(PMMA:ポリメタクリル酸メチル樹脂)でスピンコートし、銅箔を過硫酸アンモニウムでエッチングしてから、銅箔の残留物を湿式洗浄で除去する。そして、グラフェンを脱イオン水に浮かべてシリコン/ガラス基板上に移動させ、乾燥したらPMMAを溶解させると、純粋な単層グラフェンが完成する。次に、希薄溶液をスピンコートして乾燥させて、一定の厚みで均一な薄膜を得られたら、グラフェンの最上部に半導体ポリマーを成膜することができる」と述べる。

 Barbero氏らは、このハイブリッド素材の電子移動度を、半導体ポリマーの膜厚をやや厚くすることで高められることも発見した。例えば、半導体ポリマーの厚さを50nmにすると、電子移動度は、10nmの時に比べて約50倍になるという。Barbero氏らは、この要因として、「膜厚が厚いと、内部で結晶が不規則に積み上がり、薄い膜の時よりも、電子が移動する経路が形成されやすいからだ」と推測している。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.