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意外と知らない? 計算機の歴史を神楽坂でたどってみた起源は小石(3/3 ページ)

» 2015年03月23日 10時00分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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引き過ぎると“チン”! 日本の手回し計算機

 算木やそろばんの時代を経て、計算機は、歯車を組み込んだ機械式計算機(手回し計算機)の時代へと入っていく。17世紀から20世紀初頭にかけて、機械式計算機は、「より複雑な計算をしたい」という人々のニーズとともに発展した。多くは欧米から誕生したが、日本で機械式計算機の代名詞となったのは「タイガー計算器」である。1920年代から、電卓が普及する1970年までに、およそ50万台が販売された。

 近代科学資料館では、タイガー計算器の全ての世代がそろっている(ファンには、たまらないだろう)。

photo 1960年代に製造された「タイガー計算器」。構造的に足し算と引き算しかできないが、「何回足したか」あるいは「何回引いたか」という考え方で掛け算と割り算を行う(クリックで拡大)
ハンドルを回して数を足していく、あるいは引いていくが、割り算の際は“引き過ぎ(回し過ぎ)”た時に「チン」と音が鳴る

電卓、そしてPCの誕生へ

 1940年ごろから、リレー式計算機や、真空管方式/トランジスタ方式の電子計算機、つまりコンピュータが開発され始める。コンピュータ時代の幕開けだ。300年以上続いた機械式計算機の時代は終わりを告げ、いよいよ電卓やPCが登場するのである。

 近代科学資料館には、日本初の真空管方式商用コンピュータ「UNIVAC 120」が展示されている。

photophoto 「UNIVAC 120」。真空管がびっしりと並んでいる(クリックで拡大)
photophoto 左=近代科学資料館には、パラメトロン方式の大型計算機「ファコム201」も展示されている。富士通が製造したもの。右=珍しいアナログ計算機「ブッシュ式アナログ微分解析機」も置かれている。アナログ的に微分方程式を解く。微分解析機は日本に3台あるが、完全な形で残っているのは、近代科学資料館に展示されている1台だけだという(クリックで拡大)

 増幅素子としてトランジスタが開発されると、あっという間に真空管に取って替わった。トランジスタを使った方が、コンピュータの消費電力が圧倒的に低かったからである。トランジスタはIC、LSIと進化していった。

 1960年代になると、卓上の電子式計算機が登場する。これが電卓だ。世界初の電卓は、イギリスのBell Punchが1962年に発売した「Anita Mark 8」だといわれている。国内では、シャープが1964年に電卓を発売している。Anita Mark 8には一部の演算素子に真空管が使われているが、トランジスタが採用されるようになり、素子の進化とともに電卓は驚異的なスピードで小型化、低消費電力化を遂げていく。そして、世界初の4ビットプロセッサ「4004」(Intel)が、電卓用LSI開発の途中で生まれたのである。

photophoto 世界初の電卓とされるBell Punchの「Anita Mark 8」(左)と、国内初の電卓であるシャープの「Compet CS-10」。電卓博物館所蔵(クリックで拡大)

 1974年、コンピュータを個人でも使用したいというニーズに応えるように、米国のMITSが「ALTAIR」というコンピュータを発売。ようやく、PCの誕生に至ったのである。

photophoto Appleが1977年に発売した「Apple II」(左)と、1998年に発売した「iMac」(クリックで拡大)

 計算機は、単純に数を数えたいという思いから、より複雑な計算や処理をしたいというニーズとともに、石ころからそろばん、機械式計算、電卓、そしてPCへと進化した。次世代のコンピュータとしては、量子コンピュータなどが注目を集めている(関連記事:量子コンピュータの可能性――量子力学のパイオニア・古澤明氏に聞く)。

 というわけで、「石ころからリンゴへ」の「リンゴ」は、やはりAppleのことだった。そういえば、半導体チップは「石」と呼ばれることもある。石から始まった計算機の歴史は、偶然にも、半導体という石へとつながっているのだなあ……と思いながら、近代科学資料館を後にした。

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