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量子メモリ不要の長距離量子通信を可能にする量子中継手法を確立量子コンピュータへの確実なマイルストーン(1/3 ページ)

NTTとトロント大学は2015年4月15日、通信距離100kmを超えるような長距離量子通信に必要な量子中継を、物質量子メモリを使用せずに、光の送受信装置だけで実現できる「全光量子中継方式」を理論的に確立したと発表した。

» 2015年04月16日 15時35分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

光デバイスだけの全光量子中継

 NTTとトロント大学は2015年4月15日、通信距離100kmを超えるような長距離量子通信に必要な量子中継を、物質量子メモリを使用せずに、光の送受信装置だけで実現できる「全光量子中継方式」を理論的に確立したと発表した。物質量子メモリが不可欠とされた従来の定説を覆し、既に原理検証済みの光デバイスのみで量子中継が行える理論で、長距離量子通信の実現だけでなく「全光量子中継に必要となる光デバイスの発展の先に存在する量子コンピュータへの確実なマイルストーン」(NTT)とする。

 量子通信は、光子などの量子系を用い量子暗号や量子テレポーテーションなど、従来の通信技術では実現できない新たな通信を可能にする手段であり、量子暗号は、100km程度までの通信距離で実用化されている。

 ただ、100kmを超えるような長距離通信では、光デバイスで構成する送受信装置に加えて、光ファイバー中で生じる損失などに対応するための量子中継が必要になるが、技術難易度がとても高く、長距離量子通信実現の大きな障壁となっている。

長距離で不可欠な量子中継

 量子中継器は、光子の伝送を通じ、内蔵された量子ビットに最も近い中継器/送信器との量子もつれを供給すること(量子もつれ生成)を試み、量子もつれが生成されたことを確認した後、量子ビットにベル測定と呼ばれる量子演算(量子もつれスワッピング)を行う。全ての量子もつれスワッピングが完了すると、遠く離れた送受信者の送信器間に量子もつれが提供され、通信が成立したことになる。

量子中継のイメージ (クリックで拡大) 出典:NTT

量子ビットを保持するメモリ

 しかし、この場合、中継器/送信器間での量子もつれを生成するまでの間、量子ビットを保持する量子メモリが不可欠になる。さらに、量子もつれスワッピングのための量子演算の失敗に備えるという点でも、量子メモリが必要だ。量子メモリとしては、原子集団、単一原子、イオントラップ、量子ドット、超電導量子ビット、ダイヤモンド中の単一窒素-空孔複合体中心(NV中心)など物質系によって実現される物質量子ビットが有力視されているが、これら物質量子ビットは雑音を抑える目的で極低温下に置く必要があるなどさまざまな技術課題を抱え、「(物質量子メモリに基づく)量子中継は、量子コンピュータよりも難しい可能性すら存在した」(NTT)とするほど、技術的障壁となっていた。

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