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イノベーションへの固執から脱却を図れ勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(13)(1/3 ページ)

今回は、これまでの章を振り返りながら、「モノづくり」を、技術、製品価値、競争力などの視点でまとめてみたい。“イノベーション”、つまり技術革新に頼らずとも、価値のある製品を生み出し、競争力をつける方法は必ずあるということが、あらためて見えてくるはずだ。

» 2016年02月16日 10時45分 公開
[世古雅人EE Times Japan]

 本コラムの連載からちょうど1年がたつ。これまで、少し小難しい話もあったものの、何かしら得られるものが少しでもあれば幸いだ。今回は、これまでのおさらいをダイジェスト的に振り返ってみたい。

イノベーションは不要?

 第1回の記事では、イノベーション(技術革新の意味で用いている)が多く、日本独自の製品(液晶パネル、DVDプレーヤー、カーナビなど)がたくさんあったにもかかわらず、廃れていった電機業界と、さほど目立ったイノベーションがなくても、安定的・継続的に好業績をたたき出していた自動車業界を対比させて示した。

 従来、そして今でも「イノベーション信奉者」は多く存在すると思うし、少なくともイノベーションは、ないよりもあった方が良いに決まっている。しかし、この10年(特に2008年のリーマンショック後)の電機業界を見る限り、イノベーションがあっても企業経営の足元が揺らぐということが珍しくなくなっている。

 企業価値そのものに対するマスメディアの記事の書き方も問題で、売り上げや利益が落ちたり、下方修正をしたりした途端に、「弱くなる製造業、弱体化する製造現場」というキャッチーな見出しで、ことごとく日本の製造業はもうダメだとあおる内容の記事ばかりが目立つ。その一方で、IoT(モノのインターネット)やインダストリー4.0などの新しいものを崇拝し取り上げることに、筆者は正直、辟易(へきえき)していた。新しいものに飛びつくことは悪いことではないが、自分なりに咀嚼(そしゃく)せず、うのみにすることは危険だ。

見落としていた“価値の本質”

 「もっと大事なものがあるだろう……」と、さまざまな研究論文や文献、また実際のメーカーを見ながら、ここ何年にもわたりずっと気になっていて、また、気に入らなかった「日本の製造業」について、何がいけなかったのかということがおぼろげながら見えてきた。それが、本コラムがスタートすることになったキッカケである。

 第2回で述べたが、価値を生み出していても(=価値創造)、価値を得られて(=価値獲得)いない企業の多くが、コモディティ化の道に進んでいった。価値創造プロセスにおいて、前述したマスメディアがさほど重視しない「裏の競争力」の根底には「モノづくりの組織能力」が存在し、これが日本の製造業の強さたるゆえんであった。そこには、「安かろう・悪かろう」が当てはまらない、米国VISIOの“10万円の50インチ4Kテレビ”があった(第3回)。

VISIOの4Kテレビ VISIOの4Kテレビ(クリックで拡大)

 とかく、エンジニアが製品差別化に躍起になりがちな「機能的価値」ではなく、「意味的価値」をうまく製品に組み込んでいかなければ、今の時代の消費者はお金を払わないことは明らかだ。高品質の代名詞であった“Made in Japan”という称号のパワーはとうの昔に姿を消し、機能や性能を追求した差別化では、お客の心はつかめなくなっている(第4回)。

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